第60話 ハメ殺し
腰の後ろに刺したワンドを握り、スキルを発動する。
「〈カームネス〉!」
恐怖に駆られていた心が落ち着き、冷静に考えられるようになる。
十分攻撃パターンは見たから、攻撃直後の隙を狙うだけで問題は無い。
丸太のような腕の振り下ろしを避け、その丸太をショートソードで斬り付ける。が、硬い。線のような薄い傷しか付けられなかった。これ以上攻撃しても意味は無さそうだ。
次は、パペット君のような人形の胴体を狙うか、丸太とは材質が明らかに違う。
攻撃を躱して、ゴリラゴーレムの懐に踏み込み、その胴体を斬り付ける。予想通りに丸太の時よりは深く切り傷を刻むことが出来た。返す刀でもう一撃、疑似二段斬り。
ゴリラゴーレムが動く気配がしたので、脇の下を潜り抜けて背後に周り、
「〈二段斬り〉!」
身体が勝手に動くのと、発動後の硬直があるので好きではないが、自力の二段斬りと比べるためにスキルを使う。結果としてスキルの方が切り口は少し大きい程度で、ゴリラゴーレムの背中を切り裂いた。
偶に使って、剣の振り方のお手本にする程度でいいか。
ゴリラゴーレムが腕を突きながら旋回し始めたので、一旦距離を取り、次の攻撃を避けて再度懐に飛び込んだ。
「〈ブレイブスラッシュ〉!」
光る剣閃が横一文字に、ゴリラゴーレムの胴体を切り裂き、後ろ側へ押し返す。スキル〈ブレイブスラッシュ〉の効果、ノックバックだ。
後ろへノックバックされたゴリラゴーレムは、そのままバランスを崩して、大きな音と共に尻餅を突いた。
スキル使用後の硬直の長さはスキルによるが、〈ブレイブスラッシュ〉は2秒程。そして、スキルを使う魔力を手に貯めるのも1秒も掛からない。魔法を充填するので慣れたものだ。
つまり、鈍重なゴリラゴーレムがのそりと起き上がるまでには、次の準備は出来ていた。
「〈ブレイブスラッシュ〉!」
起き上がりに合わせて光る剣閃を叩き込み、再度尻餅を突かせた。
〈パーティー状態表示〉で視界に映るMPバーの減りは、魔法一発よりも少ない。これなら連打しても大丈夫そうだ。
「〈ブレイブスラッシュ〉!」
倒れた状態でも腕を振り回して攻撃してくるが、立ち上がる際は腕も使うので隙だらけだ。起き上がりに合わせて〈ブレイブスラッシュ〉するだけで無力化することに成功した。
所謂ダウンハメってやつか。
〈ブレイブスラッシュ〉で胴体を両断されたゴリラゴーレムが消えて行く。結局、あの大きな魔物を一方的に攻撃出来るのが楽しくなって、そのままスキル連打で倒してしまった。
「あ、しまった。〈アクアニードル〉とか〈ウインドシールド〉の砲撃とか試そうと思って、魔法使いをセットしたのに忘れてた」
弱点の火を使うとドロップ品が木炭になりそうなので、等倍ダメージの水属性と、耐性の風属性だけど物理的な砲撃が出来る〈ウインドシールド〉は試してみたかったのに、うっかりしていた。
それに、聖剣をしまって経験値増をセットするべきだったな。勿体無い。
ゴリラゴーレムが消えた後に、2m程の角材と木の宝箱が現れた。特殊スキルを付け替えて〈詳細鑑定〉を使用する。
【素材】【名称:木材(ヒノキ)】【レア度:E】
・ヒノキの木材。建材や道具類に利用され、高い耐久性や木目の良さ、香りの良さ等から人気の高い木材。
しかし、レア度は低いので品質も相応。
檜風呂とかに使われるアレか。香りが良かった程度しか覚えてないけど、DIYの材料として切り出すならこれくらいの大きさは必要かもしれない。角材なので加工の手間は減るし。
それに比べてパペット君の丸太は短いうえ、丸太なので切り出しが必要だ。何か作るにしても小さな箱くらいしか思い浮かばない……やっぱ薪にするのが妥当か? ストレージに入れっぱなしで死蔵するものなぁ。
気を取り直して、木の宝箱を開ける事にした。
10層毎のボスは、通常のドロップ品の他に宝箱も落とす。まあ、中身は直近階層の魔物ドロップ品や、小銭が殆どで、ボスのドロップ品が出れば当たり程度のオマケだそうだ。楽に倒せるボスだと、その小銭目当てに周回する人もいるらしい。今回のゴリラゴーレムのようにハメ殺せるなら、経験値稼ぎにも良いかもしれない。
鍵も付いていない、ただの蓋を開けると、中には木製の鍵が入っていた。鍵の挿す部分……歯が2本だけと、かなり単純な作りで、持ち手の部分には菱形の水晶のような透明な石が嵌っている。木製だと回した時に折れそうな気がするのだが、取り敢えず、〈詳細鑑定〉を掛けた。
【魔道具】【名称:木の鍵】【レア度:D】
・木の宝箱の鍵を開ける事が出来る。使い捨て。
ただの鍵じゃなくて、魔道具なのか!?
ダンジョンでは木の宝箱から鉄箱、銀箱、金箱の順で良い物が入っており、銀箱と金箱には大抵鍵が掛かっているそうだ。開錠するためにスカウトの鍵開けスキルか、専用の鍵が必要と聞いていたが、これがその鍵なのだろう。
宝箱からアイテムを回収後、周囲を見回したが下への階段は見当たらない。
しばらくすると、空の宝箱が霧散して消えていき、部屋の中央の魔方陣が青く光り出した。ゴリラゴーレムが出現した魔方陣だが、光っている色が違う。青い光と言うと、転移ゲートの青い鳥居を連想する。青い鳥居は下に潜る時に使うので「青信号は進め」なんて覚えている……つまり魔法陣で次に行けって事だろう。
魔法陣に足を踏み入れると、青い光が強くなり、次の瞬間には別の部屋に転移していた。
ボス部屋前の休憩所と同じく、真っ白な石で出来た部屋だが、こちらは数倍広い。奥の壁には脱出用の赤い鳥居と、扉がいくつか見える。それに食堂のように、白いテーブルと円柱状の椅子が並んでいた。
部屋の中を見学していると、中央に石板……というより案内板が立っている。
「11層休憩所 御利用案内
・10層ボス討伐証を持つ者のみ利用可能。
ただし、灰色ネーム赤字ネームは討伐証を持っていても利用不可。強制的に11層へ退出させる。
・魔物侵入不可、戦闘スキルや攻撃系魔法使用不可、及び戦闘行為をするものは強制的に11層へ退出させる。
・帰還用転移ゲート、仮眠室2部屋、炊事場(竈&水場)、個室トイレ、テーブル等の設備有。
利用者の体から離れ、12時間放置されたものはダンジョンに分解吸収されるので注意。」
ほうほう、犯罪者はお断りか。休憩中や寝込みを襲われる心配が無いのは助かる。刺青の方は入泉お断りって感じかな。どうやって強制退去させるのか、少し興味はあるが……
そう言えば、ボス討伐証が手に入ると習ってはいたが、アナウンスも無いから気付かなかった。ステータスと簡易ステータスに載るらしいので、ステータスを開く。
【人族、転生者】【名称:ザックス、16歳】【基礎Lv9、村の英雄Lv8、魔法使いLv8、スカウトLv7】
HP C □□□□□
MP D □□□□□
筋力値C
耐久値D
知力値E
精神力E
敏捷値D
器用値E
幸運値C
ボス討伐証:AL371ダンジョン10層●
アビリティポイント:0/34
所持スキル
・特殊アビリティ設定
・ブレイブスラッシュ
・初級属性ランク0、1魔法(適正;火水風土)
・初級属性ランク2魔法(適正;火水風土)
・MP自然回復小アップ
・カームネス
・罠看破初級
・マッピング
・投擲術
・弓術の心得
・二段斬り
・獲得経験値小アップ
AL371ダンジョンって、ここの事か?
念の為、簡易ステータスも見ておく。
「簡易ステータス!」
【人族:転生者】【名称:ザックス、16歳】【基礎Lv9、村の英雄Lv8、魔法使いLv8、スカウトLv7】
・パーティー:レスミア 【追加】
・ボス討伐証:AL371ダンジョン10層●
こっちもボス討伐証が追加されただけか……ダンジョン名と言うより、識別番号みたいだな。371個目に出来たダンジョンか? ALがどこを指すのかも分からないから、多いのか少ないのかも判断つかないな……
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