第28話 楽になったネズミ戦
それからのヒュージラット戦は、回避しながら攻撃する役と、止め役をレスミアと交代しながら戦った。一人は回避に専念してもいいが、ヒュージラットは無傷だとそのまま走り去るし、止め役一人では倒せずに逃げられる事もあったので回避攻撃をすることになった。
回避しつつ、態勢を崩さずに剣を振るう。訓練で習った足運びを意識しているが難しい。上手くいって一撃で倒せることもあるが、横斬りでヒュージラットの体半分、背骨に届く位までしか斬れない。
逆にレスミアは猫人族らしい身軽さで回避するが、ダガーの突き攻撃では致命傷を与えることが出来ない。それでも刃の半分程刺さるのは凄いが、本人は「〈不意打ち〉出来れば……」なんて呟いていた。走り回るヒュージラット相手には難しい話だ。小部屋で察知される前に〈隠密行動〉で近づければ可能性はあるかもしれないが、小部屋のヒュージラットは動かないのでレスミアの耳でも察知が難しいらしい。
だいぶ回避攻撃にも慣れてきたので、ルーチンワークにならないように戦い方を変えてみる。ショートソードをストレージにしまい、槍を取り出す。
「今度は槍を使ってみよう。上手くいけばヒュージラットが飛ぶ前に攻撃出来るかもしれない」
「槍も持っていたんですか。確かにリーチが長いのは良いかもしれませんね。私のダガーは短くて致命傷を与えるのは無理そうですし。
あ、ショートソード使わないなら貸して下さい。使ってみたいです」
ショートソードをストレージから取り出して渡すが、
「持てるけれど、振ると重ぃ……、両手持ちなら、なんとか振れるかな?」
元々片手用のショートソードは持ち手が短いが、女の子の小さい手なら両手持ち出来そうだ。ただ両手持ちでも振り回すと、重さで少し体が流されている。
「レスミア、無理に振り回さなくても突き主体にしたらどうだ?」
その言葉に突きを試していたが、
「やはり片手は無理なので両手持ちになりますけど、突きのリーチが短くなりますねぇ。接近距離は片手ダガーと変わらないかも」
「その代わりに刃は長いから、刺さればヒュージラットを貫通出来るぞ」
取り敢えず、試し切りのヒュージラットを探すことにした。
そうして通路の先からヒュージラットが走ってくる。何度も戦ったお陰でジャンプしてくるタイミングの見極めは出来ている。ヒュージラットの体格によるが2m~2.5m手前、さらにジャンプの予備動作として2歩手前から歩幅が広くなり、ジャンプ前は一瞬だけ溜めが入る。陸上競技の走り幅跳びのようだ。
なのでぴょーん、ぴょーん、と跳ねた後に合わせて槍を突き出せば……簡単に串刺しの出来上がり。
「あれ? 本当に刺さった!」
「なんで攻撃した本人が驚いているのですか……飛び掛かりのジャンプで自分から刺さりに行ったように見えましたねえ」
レスミアは胴体に槍が刺さりジタバタしているヒュージラットに近づき、横腹にショートソードを突き入れる。突き出すというより、ショートソードを構えて体当たりといった具合だが、ヒュージラットを横に貫通した。それが止めになったようで、動かなくなる。
「ん! よいしょっと。私でも貫通出来ましたよ。止めを刺すくらいなら問題ないですね」
引き抜いたショートソードをヒュージラットの毛皮で拭きながら、レスミアは嬉しそうに言う。俺もヒュージラットの頭を足で押さえて、槍を引き抜く。こちらも50cm程刺さっており、もう少しで貫通できそうだった。
「よし!いい感じだったな。次も同じ手で行けるか試してみるか」
「避けながら攻撃するより効果的っぽいですよね。次探しますよ」
それから何戦もこなしたがヒュージラットは所詮ネズミ頭なのか、目の前に槍が突き出されているのに自分からジャンプして刺さりに来るのは変わらなかった。もしかすると、あの3段ジャンプがスキルのように途中で止められないのかもしれない。
上手く頭を貫通させるか、首の下あたり(恐らく心臓?)を貫ければ一撃で仕留めることが出来た。ただ頭は頭蓋骨で滑ることがあるので、目を串刺しにするのが効果的のようだ。まだ、狙った場所に刺せる程の練度はないけれど。まあ、一撃で倒せなくても槍が刺さった時点で動けないので、レスミアに止めを刺されて終わりだ。
ヒュージラットを何匹も倒していると、ネズミの皮以外の物をドロップした。レアドロップのネズミ肉のようで、塊肉が透明なビニール袋のような物に入っている。
【素材】【名称:ネズミ肉】【レア度:F】
・ネズミの肉。ダンジョン産は臭みが少ない。
「うぇ!」
〈詳細鑑定〉してみたが、臭いのかぁ。前世の記憶からして、食べる物とは思えない。
俺の呻き声に、レスミアが手元を覗いてくる。
「ああ、ネズミ肉ですか。ダンジョン産なら香草と一緒に料理すれば美味しいですよ。今日のお夕飯にしましょうか」
レスミアの反応が普通なので、一般的なお肉なのだろう。それでも拒否感は消えない。
「レスミアさん。俺、ネズミ肉は初めてなんだけど……」
「そうなんですか。なら下拵えの臭み消しは念入りにやっておきますね」
笑顔で返されると、嫌とも言い難い。夕飯になるのは確定のようなので、諦めてストレージにしまう。
採取地に着くまで何度もヒュージラットと戦ったが、幸いと言うかレアなだけあって、ネズミ肉のドロップはその1個のみだった。
4層の採取地は鉱石の方で、部屋の各所に土山が6個もあった。再生中の土山はないので、これが満タンの状態なのだろう。ジョブに採取師を追加して、スキル〈MP自然回復量極大アップ〉をセットする。採取師のスキル〈採取の心得初級〉で採取物の品質が少し良くなるし、念のためMPを回復しておきたい。
俺がツルハシを振るって崩し、大きなシャベルで脇に避ける。レスミアには姿の見えている鉱石をピックハンマーで掘り出すのをお願いした。丸い鉱石が土山一つにつき5,6個、3山で17個程手に入った。ついでに出てきた、割れていない石玉も確保しておく。
「採取も二人でやると早いな。沢山取れるのは嬉しいけど、一人だと時間が掛かるし」
「あ!時間と言えば、そろそろ1層に向かわないと外に出るのが夜になってしまいますよ」
懐中時計を取り出して時間を確認すると17時前。〈不意打ち〉とヒュージラットの検証で時間を食い過ぎたようだ。ジョブやスキルを戻して、スキル〈ゲート〉をセットする。
「それじゃあ、帰ろうか」
〈ゲート〉を使用すると、天井まで届く赤い壁が出現する。呆然とするレスミアの手を引いて壁をくぐり抜けると、赤い鳥居から出てきてエントランスに戻ってきた。
「あ! これ、アレですね!特殊スキルとかいうやつ!」
再起動したレスミアにジト目を向けられる。
「便利だからいいじゃないか。これで帰り道の心配はしなくて良いし。
あ、レスミアの狩猫ジョブがレベル4になっているぞ」
と、話題をそらす。因みに俺が装備していた村の英雄、魔法使い、スカウトもレベル4に上がっていた。
「本当ですか!あと一つで新しいスキルが手に入りますね。明日はスカウトと狩猫、どっちにしようかしら?」
「おっと、その前にレスミアのジョブを職人にしておくぞ。アイテムボックスを使いたかったのだろう」
レスミアは喜んで尻尾を立てて震わせて「〈アイテムボックス〉!」と使用した。手元に現れた黒い穴にダガーなどの手持ちを入れて喜んでいるようなので、俺もストレージにしまっていた昼食時のバスケットやネズミ肉を手渡しておく。
「アイテムボックスは中の時間は経過するし、中身を空にしないとジョブチェンジ出来ないから気を付けて。まあ、万が一忘れていても俺のストレージに預かるけど」
「はーい」
若干、気もそぞろなレスミアを連れて家に帰った。
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