第18話 1層と採取地

 次を探す前に、以前考えた事を実験してみる。プリズムソードで出る光剣の本数指定が出来ないか?

 実際に(光属性の1本だけ)と考えながらスキルを発動すると、成功した。出現したのは黄色の光剣で、以前に出した赤や青の光剣と同様に、ロックオンして操れる。

 的が無いのでダンジョンの壁を攻撃してみたが、光剣の根元くらいまでしか刺さらない。その状態から横の斬撃を指示して壁を切り裂く事は出来たけど、大きく壊すことは出来なかった。貫通出来ないので、石壁より固いのかもな。



 特殊アビリティ設定を変更、聖剣クラウソラスを消し、3次職と経験値増に戻す。

 地図を見直して方向を確認する。スカウトのジョブを装備していなくても、歩いた範囲ならマッピングで思い出すことも出来た。



 採取地を目指して進むと、またパペット君と遭遇した。今度は鉄のショートソードで戦ってみる。

 パペット君のストレートパンチを躱し反撃、その腕を切り落とす。よろけているパペット君の首筋に横薙ぎを入れて首を切り飛ばし、ついでに胴体にも袈裟切を入れて両断した。

 胴体は難しいかと思ったが、中が空洞のため両断出来たのだろう。木を切った感触がちょっと気持ち良い。


 次に出会ったパペット君にはスキルを使ってみた。攻撃を避けつつ手に魔力を集め、スキル名で発動する。


「〈二段斬り〉!」


 縦斬りから横薙ぎの2連撃で、パペット君を4分割してしまった。

 使ってみた感じ、普通に剣を振るうより早く連撃出来るので有用だろう。ただ、発動してから剣の重さを感じなくなり、体が自動で動くのはちょっと気持ち悪い。特に縦斬りの後、慣性を無視したかのように横薙ぎに繋げるのがキモイ。自分で同じように動いたら手首傷めそうだ。

 有用なのは確かだから、何度か使えば慣れるだろうか?


 パペット君に遭遇するたびに、〈二段斬り〉で試し切りしていく。このスキルは自分の構えや態勢、相手の位置で斬撃の種類が変化するようだ。袈裟切から逆袈裟切や、袈裟切から横薙ぎ等。使った感触にはまだ慣れていない。



 そんな風に試し切りしながら進むと、採取地らしき部屋に着いた。部屋の壁際に背の低い木が生えており、その天井にはヒカリゴケが密集していて明るい。太陽の光代わりなのだろうか?

 そして、その木に生っている小さな木の実には見覚えがあった。



【素材】【名称:火種の実】【レア度:F】

・油を多く含んだ実で、火種として使うのに最適。油は美味しくないので食用にはならない



 そうそう、雑貨屋で購入した奴だ。割ってから、火打石の火花で簡単に火が付くらしい。沢山生っているので採取して行こう。他にもないか見回すと、木の根元に灰色のキノコが生えている。



【素材】【名称:煙キノコ】【レア度:F】

・胞子を大量に出すキノコ。採取後地面に叩きつけると煙幕代わりになる。



 こっちは雑貨屋で買った煙幕玉の材料らしい。説明文の通り、そのままでも煙幕効果があるので実戦でも使える。ただし、煙量を増やすために5つ程まとめて投げた方が効果的らしい。

 煙キノコは採取バサミで根元から切り、採取する。


 他には、木に巻き付いていたツタも素材になるようだ。鑑定が無かったら見逃していたな。


【素材】【名称:丈夫なツタ】【レア度:F】

・縄の材料であり、乾燥させると強度が上がる。ダンジョン産は強度が高い。


 このツタも採取バサミで切って採取しておく。

 30層以下の採取ルール通り、部屋に入った状態から半分まで素材を回収した。火種の実は小さい袋で3袋、煙キノコは2袋、丈夫なツタは大きな麻袋に1袋になった。



 エヴァルトさんの講義で習った事だが、採取地は全て取り切ってしまうと消えてしまい、6時間後に同階層のどこかに再出現、リポップする。しかし、少しでも残して探索者が退室すれば、徐々に再生し3時間ほどで完全復活する。(人がいると再生しない)

 そのためダンジョンギルドでは30層以下の採取物を増やすため、且つ地図上の採取地の位置を固定するために、採取量は採取地に入った状態から半分までにするよう呼び掛けている。

 

 ダンジョン内で管理は出来ないので、あくまでお願いであり罰則などは無い。しかし、低層は周辺住民が採取に来るし、20層以降でも専門の採集業者が採取地を回っているため、ダンジョン内とはいえ採取地を取り切った現場を見られる事もある。

 そうなると悪評が立ち、最悪の場合、採取業者から錬金術師や商人に知れ渡り、店から出禁になったこともあるらしい。そのためダンジョンに入る大部分の人は、このルールを徹底している。



 採取したものをストレージに入れる。1層はここの1か所しか採取地がないため、次の2層に行こう。

 ただ、剣スキルの練習は十分できたので、次は魔法の練習がしたい。採取地の部屋には魔物は殆ど入ってこないため、ここで試し打ちをすることにした。

 右手に魔力を集中させて、使いたい魔法を思い浮かべる。すると手に半透明な魔方陣が浮かび上がるので、手に集めた魔力を今度は魔方陣に移していく。魔方陣全体が光れば準備完了、呪文名を言えば発動する。


「〈トーチ〉!」


 手からガスバーナーの様な火が吹き出る。魔方陣に込めた魔力が切れれば終了だ。


 そのまま〈ウォーター〉で水を出し、〈ブリーズ〉で風を起こし、〈ディグ〉で穴を掘ってみた。発動しながらでも魔力を追加すれば、効果時間も長くなるようだ。特に〈ディグ〉が面白い。発動すると地面が凹んでいき、その脇では逆に土が盛り上ってくる。さらに発動し続ければ穴が深く、土山は大きくなっていき、腕ごと魔法陣を動かせば穴も連続して出来ていく。時間を掛ければ塹壕でも作れそうだ。ただし、威力の調整は出来なかった。色々試したものの、火の出る量が増えたり、温度が高くなったり、風の勢いが強くなることはなかった。



 階段へ向かう途中にもパペット君はいる。足音が聞こえたところで止まり、右手を通路の先に向け魔力を集中させる。続いてランク1〈ファイアボール〉を思い浮かべて魔方陣を出し、魔力を充填するが時間が掛かる。〈トーチ〉の5倍は掛かっているぞ。必要魔力が多いからか?

 魔方陣が光った頃には、パペット君が10m程の近くに迫っていた。


「〈ファイアボール〉!」


 バスケットボール位の大きさの火球が打ち出され、パペット君の胴体に直撃した。そのまま、手足まで延焼していくが、燃え尽きる前に霧散してしまった。先にHPが尽きたのだろう。霧散した後に残ったのは丸太ではなく、四角い炭だった。

 


【素材】【名称:木炭】【レア度:F】

・木材を蒸し焼きにして炭化させた物。主に燃料として使われる。



 そういえば、パペット君のレアドロップが木炭だったな。もしかして、燃やして倒したから木炭がドロップしたとかじゃないよな? 他の属性を試し打ちしたら、検証してみるか。



 その後、他の属性も試し撃ちをしてみた。

〈アクアニードル〉は、針というには大きい20㎝程の円錐を5本撃ち出した。狙った場所に1本、その周囲に4本が飛んで行くので、ばら撒くような使い方が良いだろう。パペット君を貫通する威力が有り、3本以上当たれば倒せた。


〈エアカッター〉は、三日月状の刃を高速で飛ばした。なにより速度が速いのが良い。目測だが、プロ野球の投球より早く見えるので150㎞は超えているだろう。威力もパペット君の首を両断出来る程だ。速度があるので移動する魔物にも当てやすく使い勝手は一番良い。ただし、パペット君の胴体は両断出来ず、2発必要になった。これはパペット君自体が風属性だから風魔法の威力が半減したのだろう。まあ、首を狙って落とせば倒せたのだが、本当に人形だよな?


 〈ストーンバレット〉はレンガを3つ撃ち出した。速度も飛距離も一番無いが、重量のせいか威力は高いと思う。推測なのは、パペット君が風属性で土属性の威力は半減するはずなのに、レンガ1つで半壊させ、2つで倒せてしまうからだ。



 どの属性も一長一短あるが、基本は敵の弱点を突く運用になる。速度や飛距離を覚えて、上手く立ち回り出来るよう練習をするか。幸いどの属性でもパペット君は一発で倒せるし。



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 ・属性の相性について補足


 初級の4属性の関係 火<水<土<風<火

 火は水に消され、水は土にせき止められ、土は風で風化し、風は火を燃え上がらせる。と言うイメージです。(あくまで魔法的な相性ですので、物理法則とはちがいます。特に中級以上は……)

 弱点属性を突くと2倍のダメージになり、同属性と耐属性はダメージ半分。


 例を挙げると、パペット君は風属性なので火属性に弱く2倍ダメージ、土属性に強いので0.5倍ダメージ。同じ風属性も0.5倍ダメージ。水は等倍。

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