178話「闇ギルドと国王への報告」



「【ラークシャドウ】」



 影に潜む魔法を使い、俺は彼女の影に潜む。それを確認した彼女が、闇ギルドのアジトである建物に近寄り特殊な叩き方で扉をノックする。



 それが終わって数瞬後少しだけ扉が開き、男が顔を覗かせる。少し沈黙があってから「お前か、入れ」とだけ告げ彼女を中へと招き入れる。



「それで、首尾はどうだ?」


「……」


「おっと、そうだったな。任務の成否も含めて受けた任務は極秘だった。今のは忘れてくれ」



 どうやら暗殺者の中で決まったルールがあるらしく、男が勝手に納得してそのまま何処かへと離れていってしまう。俺は、彼女にギルドマスターの元へと向かうよう指示を出し、彼女も大人しくそれに従ってギルドマスターの元へと向かった。



 闇ギルド内は特に怪しげなものはなく、廃れた酒場を再利用しているようだ。くたびれたテーブルと椅子が並んでいるだけのあばら屋のようなその場所は、アジトと呼ぶにはうってつけで周囲からは目立たないようになっている。



 アジトのある場所は、人通りも少なく誰も寄り付かないような場所であるため、実質的にここに来る人間は闇ギルドのメンバーだけということになる。逆の意味ではわかりやすい場所となっていなくもないが、そういった場所はそこかしこにあるため、特に問題にはならない。



「入れ」



 ギルドマスターがいるであろう部屋の扉を特殊な叩き方で叩くと、短い返事が返ってきた。中に入ると、そこにいたのは三十代半ばくらいの無精ひげを生やした男だった。テーブルに足を掛けながら酒瓶から直接酒を飲む姿は、ならず者のそれに相応しい。



「お前か。で、どうだったんだ?」


「……」


「おい、どうし――」


「【マルチディメンジョンキューブ】」



 いつもと様子が違う彼女を不審に思ったギルドマスターだったが、時すでに遅く、彼女を捕らえた時と同じ魔法でギルドマスターを捕縛する。同じように毒と物理的な方法による自害を防ぐため【マルチポイズンレジスト】と【マルチボディプロテクト】の魔法も使っておいた。



 ちなみに、魔法名の冒頭に“マルチ”という名前がついていることからもわかる通り、この魔法は闇ギルド内にいるすべての人間に効果をもたらすものであるため、ギルドマスターだけでなく他の暗殺者たちも同時に捕縛している。



「よっと、どーも」


「……小僧、何者だ?」



 彼女の影から出てきた俺は、開口一番軽いノリで挨拶をする。それに対し、警戒した様子のギルドマスターが俺の正体を探ろうと問い掛けてきた。



「只の一介の冒険者とだけ言っておこう。それよりも、うちの従業員が世話になった落とし前と、この子に暗殺依頼を出した依頼主を確かめに来た」


「ふんっ、俺とてこのギルドの頭張ってるんだ。依頼主が誰かは死んでも――」



 無駄口を叩かせるつもりはないので、すぐさま彼女にも使った精神を掌握する魔法で俺の操り人形に仕立て上げる。そして、依頼主の名前を聞くと予想通りの答えが返ってくる。



「コンメル商会の代表に暗殺依頼を出したのは【エチゴーヤ商会】のエチゴーヤという商人です」


「越後屋? いや、エチゴーヤか。なんか取って付けたような感じの名前だが、とりあえずそいつが依頼主なんだな」



 俺の問いに、ギルドマスターが首肯をする。さらに詳しい話を聞いていくと、俺が国王からもらった一等地近辺に商会を持った商人で、あまりいい噂を聞かないブラック寄りの商会であるということがわかった。



 代表を務めるエチゴーヤ自身も、元々別の商会の番頭として働いていたらしいのだが、その商会の売上金を横領し自身の商会を立ち上げる資金にしたという黒い噂が商人の間で出回っている。



 とにかく、商会も代表者も悪徳であるということが闇ギルドのギルドマスターが下した結論であった。



「なるほど、依頼人はかなりの極悪人らしい」


「はっ、お、俺は一体何を……」


「ご苦労だった。必要な情報はすべて入手した。あとは、国王にお前たちの沙汰を問うとしよう」


「な、何を……?」



 俺はギルドマスターの返事を待たずして彼女に「逃げ出さないよう見張っていてくれ」と指示を出し、そのまま瞬間移動で国王のいる執務室へと移動した。





 ~~~~~~~~~~~~~





「よお、調子はどうだ?」


「……またいきなりだな。何の用だ? 見ての通り忙しいんだが……」



 国王を訪ねると、開口一番そんな言葉が返ってきた。どうやら本当に忙しいらしく、執務机の上には山積みされた書類があった。



 そして、今回は国王だけではなく近衛騎士団長のハンニバルと宰相のバラセトも同席していた。俺を見つけるなり顔を輝かせながら、ハンニバルが話し掛けてくる。



「おお、師匠ではないですか! 今日は一体どうしてこちらへ?」


「まあ、かくかくしかじかでな」


「なんと!? 闇ギルドのアジトを突き止めたですと! さすがは師匠です!!」


「……」



 冗談のつもりで言ってみたが、何故かハンニバルはそれを理解できるらしい。面倒臭いのでそれ以上はリアクションをせず、国王に事のあらましを説明し、闇ギルドの場所が書かれた簡単な地図を渡してやった。



「まさか、国が管理する土地で経営する店に手を出すとはな。馬鹿な奴もいたものだな」


「直ちに処理いたします」



 国王のつぶやきにバラセトが反応する。これで王都から一つの闇ギルドが潰れるのが決定した。となってくると、だ。いろいろと考えなければならないことが出てくる。



「国王、少し相談なんだが……」



 俺は国王に了解を取るため、あることを相談する。その結果国王の了解が取れたので、俺はそのまま執務室をあとにした。ハンニバルに稽古をつけてくれと頼まれたが、忙しいからというありきたりな理由で断った。……あの雰囲気だと、俺が稽古をつけるまで粘ってきそうなので、いずれは稽古をつけることになりそうだ。

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