151話「ローランド、冤罪を掛けられる」
「そこな少年、動くな!」
兵士に取り囲まれた俺に向かって、凛とした声が掛けられる。そこに現れたのは、髪の長い鎧姿の女騎士だった。まさにその姿は“くっころ”が良く似合う容姿であり、ファーレンのところにいたくっころさんよりもくっころさんらしかった。
「お前が逃げた盗賊の頭という話だが、本当なのか?」
「はあ? そんなわけないだろう。俺はたまたまあいつらとすれ違っただけだ」
「疑わしい奴は、大体そういうことを言うんだ」
そりゃあ、確かに後ろめたい奴ってのは、それをごまかすためにいろいろと見え透いた嘘を吐く時はままあるが、今回に限っては本当のことなんだよな。
「とにかく、貴様には逃げた盗賊の仲間という疑いが掛かっている。一緒に来てもらうぞ」
「まあ、それは構わんが」
やれやれ、まったく。とんだ疑いを掛けられたもんだと内心でため息を吐く。だが、冤罪なのは話せばわかってくれるだろうと高を括っていた俺は、大人しく連行されることとなった。そう、この時まではそう思っていたのだ……。
~~~~~~~~~
「嘘を吐くな!」
あれから三十分ほど、このやり取りが続いている。俺は兵士が在中する詰め所に連行され、取り調べを受けていたのだが、いかんせんこの女騎士が曲者であった。
俺は事の経緯を包み隠すことなく詳細に語った。だが、どこで曲解したのか取り調べを担当した女騎士がそれを嘘だと言い始めあれから膠着状態が続いている。部下の兵士たちも彼女の気質を理解しているのか、こちらに手助けをしたくてもできないといった雰囲気を出しながら、申し訳なさそうにこちらを見てくる。
「嘘じゃないと何度言えばいいんだ? 俺が盗賊たちと会ったのは、あの時が初めてだ。大体、俺が本当にあいつらの仲間ならなんで一緒に逃げなかったんだ?」
「他の盗賊たちを逃がすための囮だろう。他の人間は騙せても、私は騙されんぞ!」
「あのなー、仮に囮だとして捕まったら縛り首になる可能性のあるのに、本当に捕まる馬鹿がどこにいる?」
「ここにいるのではないか?」
というような感じで、こういったやり取りがずっと続いているのだ。さすがに俺の見た目が未成年ということもあって拷問などの肉体的な尋問はないが、長時間同じ場所に監禁され覚えのないことで責められるのは、はっきり言って面倒臭いのだ。
だが、さすがの女騎士も頑な俺の態度を見て思うところがあったのか、ようやく尋問をやめた。冤罪だと理解してくれたのかと思いきや、全く違う理由であった。
「バルム警備隊長」
「はっ」
「私は昼餉を食べてくるから、この少年を牢屋に入れておけ」
「……承知しました」
それだけ言い残すと、女騎士はあっさりと詰め所を出て行った。ふむふむ、これはこれは……相当拙い状況になっているようですねぇ~(にやり)。
女騎士がいなくなってすぐに、バルムと呼ばれた中年の男性が声を掛けてくる。ちなみに、俺が女騎士に尋問受けている時に、申し訳なさそうな顔をした兵士は彼でであったりする。
「すまねぇな坊主」
「別に気にしていないが、あの女はちょっと問題があるな」
「俺もそう思ってんだが、あの方はこの街を治める領主様の娘なんだ」
「詳しく教えてくれ」
バルムの話によれば、あの女騎士はこの国境の街を治める領主の娘なのだが、父親譲りの武の才能を活かしてこの街の警備を買って出てくれているらしい。それだけであれば美談なのだが、箱入り娘で育てられており、自分の行動は常に正しい行動だ間違ってはいないという少々捻じ曲がった正義感を持って育ってきたため、自分の行動が常に正しい行いだと勘違いしてしまっているのである。
こういう時、母親がそれを諭す役目なのだが、その母親は彼女が幼い頃に流行り病で亡くなっており、父親は父親で妻の忘れ形見である娘を溺愛してしまっているため、あまり強く言えないという悪循環ができあがってしまっているのだ。
街の人々もそんな領主親子の背景を知っているため、今まで苦情などは寄せられたことがなく、それが彼女の間違った正義感に火をつける結果を生み出してしまっていたのであった。
「なるほどな」
「領主様もお嬢様も、決して悪い人ではないんだがな。あの方たちのことを思えば、俺たち領民が意見を言うことも大事だとは思うが、やはり今までの境遇を思うとどうも強く出れないところがあるんだよ」
だが、それでは何の解決にもならないだろうに。しかも間違った価値観を持ったまま成長すれば、その価値観のまま行動してしまい、場合によっては取り返しのつかないことを仕出かしてしまう可能性がある。
結局のところ、相手のためを思って何も言わないというのは、優しさではなくただの甘やかしなのである。相手が間違った行動を取っているのにも関わらず、それを指摘せずそのまま放置するなど問題の先延ばしをして本人のためになっていないのだ。
人間、間違っていることはしっかりと間違っていると言うべきだろうし、言われるべきだと俺はそう思う。でなければ、それ以上前に進むことはできないのだ。
「だが、それではもし何かあった時に困るのは、お嬢様なんじゃないのか?」
「それはわかっているんだがな」
「まあ、俺はここの領民じゃないし、あの女がどうなろうと知ったことではないが、あんたら領民にとっては違うんだろ? なら、あの女のために何がしてやれることがあるとすれば、間違いを正してやること、死んだ母親の代わりに諭してやることなんじゃないのか? それが本当の優しさというやつなんじゃないのか?」
「……」
俺の言葉にバルムが俯き押し黙ってしまう。おそらく彼自身もわかっているのだろう。このままではいけないと、間違いを間違いとしたままでは、いずれ取り返しのつかないことになってしまうと……。
それ以上俺から何も言うことはなく、地下牢へと案内をしてもらって大人しく牢に入った。だが、一つだけ言っておこう。俺が大人しく牢屋でじっとしているとは思わないことだな……。
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