145話「某ゲームでもあったけど、無限機構って大事だと思うんですよね」
――ズバッ、シュポンッ。ズバッ、シュポンッ……。
ただただひたすらに斬撃音と何かに吸い込まれる音が海上で響き渡る。言わずもがな、俺がオクトパスの触手を切り取りストレージに回収する音である。
「すみませぇーん。あのー、許してもらえませんかね?」
「うん?」
あれからオクトパスの持つ【再生】というスキルに目を付けた俺は、このスキルを使えば永久に触手を入手することができるのではないかと考えたのだ。所謂一つの、無限機構である。
特定のアイテムを組み合わせることによって、無限にアイテムを入手し続けることができる施設を作ることが可能な有名なゲームが存在する。これはそれを参考にして検証した結果だ。
尤も、今回使っているのはアイテムではなく、【再生】というスキルを持ったモンスターで、その体の一部が食材であるとわかっているからこそできた検証であるのだが、細かいことは気にせずタコ焼きの材料であるタコを回収していく。
最初の五分くらいは虚勢を張って「そんな攻撃が我に通用すると思っておるのか! ハハハハハ」と強気な態度だったオクトパスも、それが三十分、一時間と続けば肉体的には再生しても精神的なダメージまでは回復してくれなかったようで、今では最初の強気が嘘のように攻撃をやめてほしいと懇願していた。
「何を甘っちょろいことを言っているんだ? あと二時間はこれが続くぞ? だから、お前に頼みがある。絶対に死なないでくれ。いや、仮に死にかけても問題ない。俺の回復魔法で癒してやるからな……」
「ひぃー、おっ、お助けぇー」
「【ストーンウォール】……どこへ行こうというのかね? さあ、楽しい楽しいタコ焼き祭りといこうではないか!」
「や、やめてくれぇー!!」
……結果、やめませんでした。あれから宣言通りオクトパスの触手を切っては回収切っては回収と無限に入手し続け、体力がヤバくなったら回復魔法で治療し、ただただひたすらにタコ足を回収し続けたのだった。
いかにモンスターといえども、人の言葉を話せるほどの知性を持っている生物が、長時間同じことをひたすらやらされたら、精神的に参ってしまうのは仕方のないことであるわけで……。
「ばっ、ばたんきゅう……」
「情けないな。たかだか三時間の無限機構にも耐えられんとは。だが、とりあえず一生分のタコ足はゲットできたかな?」
ストレージ内には、数億トンという膨大なタコ足が収納されている。時空魔法の上位である転換魔法になった時点で、ストレージ内の収納限界がなくなったため、際限なく収納していった結果によるものなのだが、果たして俺はこのタコ足を消費しきることができるのだろうか?
兎にも角にも、マリントリルにやってきた目的の一つであるタコ焼きの材料であるタコをゲットすることができた。あとは、他の魚介類を手に入れればミッションコンプリートである。……うん? なんか忘れている気がするが、きっと気のせいだろう。
「【エクスヒール】」
「はっ、こ、ここはどこだ!?」
「よう、目が覚めたか?」
「ひぃー、おっ、お助けぇー」
「気絶する前とリアクションが同じじゃないか。まあ、そんなことはどうでもいい。さて、オクトパス。お前には二つの選択肢が与えられている」
「せ、選択肢?」
実のところこの数時間によるタコ足採取によって、非常に……そう、非常に遺憾ではあるのだが、何故か【拷問】という新しいスキルが発現したのだ。一体俺がいつ拷問したのか小一時間ほどこの世界のシステムに問い詰めたいところではあるが、今重要なのは【拷問】の他に発現したスキルについてなので、それはまた次の機会にするとしよう。
で、だ。拷問スキルの他に新たに発現したのが、これもどういった理屈で生えてきたのか皆目見当がつかないのだが【召喚術】というスキルが発現した。
詳しく調べてみると、どうやらモンスターと契約を結んで呼び出したい時に呼び出せる能力というものらしく、某国民的RPG【最後の幻想】にもよく登場している能力だ。
これを使うことができれば、オクトパスを召喚獣としていつでもタコ足が手に入れることができるようになるということだ。……実に素晴らしいではないか!
「一つ目は、このまま俺に倒される選択肢だ。元々俺はお前を討伐するためにここにやってきた冒険者でな。町の人間たちが、オクトパスがやってきて困っているということでそのオクトパスをなんとかしてくれと言われているんだ」
「そ、そんなぁー。我はただ居心地のいい場所に移り住んできただけで……」
「なら人の住んでないところに移ればいいだろうに」
オクトパス……というよりもモンスターにはモンスターの事情というものがあって、近くに人間が住んでいた場所がたまたま居心地のいい場所であったりするため、オクトパスだけを責めるというのは酷かもしれない。先に人間が住んでいたとしても、モンスターにとってはそれを考慮する必要はなく、敵対するのであれば殲滅すればいいだけの話だ。
尤も、今回はそのモンスターよりも強い人間がいて、人間たちの生活の邪魔をしているため、モンスターが殲滅の対象となっているのだが、こちらとしてもコミュニケーションを取れる相手を殺めてしまうことに抵抗がないわけではない。
まあ、一度こちらに牙をむいてきているし、問答無用で倒してもよかった。今回の戦いで【召喚術】というスキルが発現さえしなければ……。
「まあ、そんなお前に二つ目の選択肢をくれてやろう。今し方【召喚術】というスキルを手に入れた。もしお前が望めば、このまま生かしておくこともできる。ただし、俺の召喚獣としてだがな。どうする? 俺のペットになるか、それともこのまま俺に殺されるか?」
「それ実質一つしか選択肢がないじゃないか! しかも、最悪の選択肢が!!」
「殺されるよりかは幾分マシだと思うのだが?」
「あ、悪魔だ……。悪魔がここにいる」
なんて失礼な奴なんだ。今なら第六天魔王と言われた織田信長の気持ちがわかるぞ。比叡山延暦寺を焼き討ちにした極悪非道の武将として有名な織田信長だが、実のところはちゃんとした手順を踏んでいるのだ。
そもそも、織田信長が比叡山を焼き討ちにしたのは、敵対していた浅井家と朝倉家を延暦寺が匿っていたからだ。それに対し織田信長は「浅井家と朝倉家を引き渡せ」と要求したが、延暦寺は頑なにそれを拒んだ。
それでも諦めずに幾度も引き渡しの要求を書いた書状を送り付け、最終通告として「引き渡さなければ、焼き討ちにするぞ」とちゃんとした書状で通告した上で焼き討ちをしているのである。
たまたま当時の寺に力があり、他の武将たちが寺を焼き討ちにしたことがなかったため、表立って堂々と焼き討ちした信長が悪者のように映っているだけなのである。
そもそも、当時の寺というのは権力が集まり過ぎていたがために風紀が乱れ、武器を取り武力を持った僧兵などという存在が現れたり、煩悩を解脱しなければならないのに酒や女に走ったりとやりたい放題に風紀が乱れていたのだ。
そのことについても目に余ると考えていた信長は、ここで一度灸を据えてやらねばならないと思ったのかもしれない。そのために起きた焼き討ちだったのだと俺はそう思っている。……なんか、日本史の授業みたいになってしまったな。
つまり何が言いたいのかというと、一見酷いことを言っているように見えるものも実は相手のことを考慮した優しさであるということだ。うん、間違いない!
であるからして……。
「ペットか死か、好きな方を選べ!!」
「ひぃー、わかりましたぁー! 貴方様のペットになりますぅー!!」
こうして、新たに手に入れたスキルによって無限タコ足量産機……もとい、オクトパスが仲間になったのであった。めでたし、めでたし。……って、めでたいのか?
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