122話「国王との謁見」
王都に到着してから、既に三日目に突入し王都散策も大体半分程度終了した頃、突然宿に来客があった。二階から一階の受付に下りてみると、そこにいたのは地味だがしっかりとした衣服を身に纏った男性だった。
「あんたは?」
「初めまして、私は王宮で外交部門の仕事を仰せつかっておりますディプロと申します。オラルガンドから来られたローランド様でお間違いないでしょうか?」
……なるほどな。どうやら国側も無能な人材ばかりではないらしく、既に俺が王都に入っていることを知っていたらしい。まあ、特に隠密行動は取ってなかったから、これで王宮側が把握していないとなると、それはそれで国の諜報部門は機能しているのかを疑わなければならないからな。今回はちゃんと諜報部が仕事をしたらしい。
「ああ、そうだ」
「失礼ですが、どうして王宮にご連絡をしておられないのでしょうか? 呼出状には“王都に来た際には、王宮に連絡を入れろ”と記載されていたはずですが?」
そう言いながら、ディプロの目つきが鋭い物へと変わっていく。つまり“王都に来たんなら、とっとと連絡を寄こさんかい我ぇ”と言いたいらしい。
こんなこともあろうかと、俺は体のいい言い訳を考えついていたので、さっそくそれを実行に移す。
「確かに、呼出状にはそういった記載はされていた。だが、一般的にオラルガンドからここ王都までの道のりは、十日前後の日にちが掛かると聞いた。であれば、それ以前に到着したとしても、旅の疲れを癒し謁見に万全な状態で臨めるよう準備する期間をもらっても何ら問題はないはずだ。それとも、この国の国王様はそんなささやかな気づかいを無下にするような器の小さな人物であるとでも言いたいのかな?」
「そ、そのようなことは決してありません」
オラルガンドから王都までの四日と、王都散策に使った日数の三日を足しても、まだ三日ほどは余裕がある。仮にあと二日ほど王都で遊び歩いて……もとい、謁見に万全な状態で臨むためのコンディション作りを行っても、通常ではまだ王都にすら到着していないことを鑑みれば、なんら問題はないのである。
そして、さらに先ほど俺が言った通り、俺のここ数日の行動は謁見に向けての下準備のようなものであり、それを咎めるようなことを軽はずみに言ってしまえば、それは国王との謁見に異を唱える結果に繋がりかねず、場合によっては国王に対する反乱の意志ありと捉えかねられないのだ。
だからこそ、俺がこの王都で過ごしてきた観光にしか見えないような行動も、謁見に向けての準備として認識せざるを得ないということなのである。
「なら、何も問題ないな。それで、そんなことのためにわざわざ俺に会いに来たわけじゃないんだろう? 謁見の日取りでも決まったのか?」
「ええ、そうでした。まさにあなた様の言う通り謁見についての日程が決まりましたので、それをお伝えするために参ったのです。謁見は明日の朝一番に行われますので、遅れないようにお願いします。では、私はこれで」
「あいわかった。大儀である」
若干貴族モードを発動させ、ディプロに返答する。些か怪訝な表情を一瞬浮かべながらも、明日の謁見相手ということで粗相があってはならないと判断したのか、すぐに真面目な顔に戻り軽くお辞儀をしてその場を去って行った。
ディプロが宿からいなくなったあと、とりあえず自分の部屋に戻りベッドに腰を掛ける。展開的には想定の範囲内ではあるものの、あともう一日は大丈夫だと考えていただけに組み立てていた予定を少々前倒しにしなければならないだろう。
「まあ、いつまでも会わないわけにはいかないだろうから、どのみち遅かれ早かれこうなる運命ではあったんだけどな」
王都に来た本来の目的はあくまでも国王との謁見であり、まかり間違っても観光などというほのぼのとしたものではないのが現実だ。であるからして、どれだけ先延ばしにしたところでいつかは国王に会わなければならなかったのは確実であり、それは避けては通れないことなのだ。
できれば会いたくはないが、俺が魔族を撃退したという情報は既に国王の耳に届いており、自分に会うために王都にも入ったことが知れ渡っている以上、もはや逃げられない状況にあるといってもいいのだ。仮に本気で会いたくないのであれば、二度とシェルズ王国に戻らない覚悟で他国に亡命するくらいでなければならないだろう。そんな犯罪者紛いのようなことはやりたくないし、何よりも面倒臭い。だったら、国王に会って自分の意志を伝えた方がまだ現実的かつ建設的であると俺は判断する。
「ま、なるようになるさ」
そう独り言ちながら、俺はその日も王都散策で時間を潰し、明日の謁見に向けて英気(?)を養うのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「面を上げよ」
シェルズ王国王城謁見の間にて、俺は片膝を付き頭を垂れていた。謁見の予定を告げられた翌日、俺は逃げることなく国王との謁見に臨んでいた。
さすがに国の頂点の前でいつもの俺ワールドを展開するわけにはいかないため、ちゃんと宮廷作法に則った行動を心掛けている。俺は根は真面目ちゃんだからな……うん。
国王がそう促すも、俺はそのまま頭を下げたままだ。確か、礼儀としては一度目は面を上げろと言われてもそのままの状態にしておいて、二度目でようやく顔を上げるというなんともきち面倒臭い礼儀だったはずだ。もう一度言うが、面倒臭い礼儀だったはずだ。
「オラルガンドの英雄ローランドよ。面を上げなさい」
そして、二度目の面を上げよは国王のすぐ側に立っている宰相らしき人物から発せられた。それに従い、俺はようやく顔を上げる。
「なんと、まだ子供ではないか」
「本当に、あんな小僧が魔族を撃退したというのか?」
「大方、噂が独り歩きした結果だろうて。噂というものは、意図せずして大げさに伝わってくるものだからな」
ファンタジー小説でもよくあるシチュエーションで、国王との謁見に立ち会っている貴族たちが俺の姿を見て言いたい放題に言葉を交わしている。……おい、おっさんども、俺に聞こえてんだけど?
謁見の間は、それこそ厳粛な雰囲気を持った石造りの内装で、まさに他国の使者や国賓などとの会合の場として相応しい造りをしている。
中世ヨーロッパ程度の文明力と技術力しかないこの世界では、おそらく最高峰といっていい技術を使って建設されているだけはあるといったところだろう。
最奥部分に数段の段差があり、その最上段には物凄い長い背もたれの玉座に、これ見よがしな王冠を被った精悍な顔立ちの男性が座していた。
シェルズ王国国王ゼファー・フィル・ベルベロート・シェルズ。白髪に近い短髪に無精髭を生やし、知的というよりもどちらかといえばワイルドさが前面に出ている人物だ。それが証拠に、服の上からでも鍛え抜かれた筋肉がわかるほどに盛り上がっており、筋骨隆々とはまさにこのことである。
「静まれーい!」
貴族たちがざわつき始めたのを見計らい、国王が右手を横に振りながら大音声で叫ぶ。それはまさに王者の風格だ。だが、それでも口を閉じない馬鹿はどこの世界にもいるというもので……。
「国王陛下、発言をお許しください」
「バンギラス公爵か……よかろう」
(バンギラスって……おいおい。確かに強そうではあるが……)
ポケットなモンスターに出てきたキャラクターと同じ名前の公爵の出現に内心で突っ込んでいると、こちらを値踏みするように公爵が睨んでくる。そして、国王に対し堂々とした態度で、とある提案をしたのである。
「恐れながら、国王陛下。その子供が魔族を退けたなどと言われても、到底信じられませぬ」
「ではどうせよと言うのだ?」
「左様ですな。本当に魔族を退けるほどの力をその子供が有しているのであれば、わが国最強の騎士にも勝てるでしょう」
「ハンニバル近衛騎士団長か……」
またなんか強そうな名前の奴が出てきたんだが? ハンニバルとか、どこの将軍だよ!! やはり国王との謁見は間違いであったか!?
それから、あれよあれよという間に模擬戦の手配が行われ、先ほど名前が出ていたハンニバル将軍……じゃなくて、近衛騎士団長との模擬戦をすることになってしまったのである。
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