107話「修行が完了し、彼女と別れの挨拶をしようとしたら、何故かバイオレンスな別れ方になってしまった」



 俺がナガルティーニャのもとで修行を始めて、三年の時が経過した。そして、いろいろとわかったことがいくつかあるので、まずはそれを話していこう。



 まずナガルティーニャだが、俺が考えていた以上に残念な性格をしていた。その一例として、俺が風呂に入ろうとした時に「一緒に入ってあげようか? いや、入りましょう!」などと言って服をその場で脱ぎ始めたり、寝るためにベッドに入ったら先に潜り込んでいたらしく「今日はあたしが添い寝してあげるわ」とわけのわからない行動を取りまくってきたのだ。



 当然そんな暴挙を許す訳もなく、ありとあらゆる方法で制裁を加えてきたのだが、この三年奴が改心した素振りは一切ない。寧ろ日を追うごとに遠慮が無くなり、いつか何か大切なものを失うのではないかという一抹の不安さえ抱き始めてきたくらいだ。



 しかしながら、そんな残念なナガルティーニャなのだが、戦いの実力は本物で、この三年間戦いを挑んできたが、未だにまともな一本を取れてはいない。



 とりあえず、彼女については言いたいことはまだまだ尽きないが、これ以上言ったところで本人が改心しないのであれば暖簾に腕押し状態であるため、あのロリババアについての苦情はこれくらいにして、この三年間の修行の成果を見てもらうことにしよう。これだ、ワン・ツー・スリー。






【名前】:ロラン(ローランド)


【年齢】:十五歳


【性別】:男


【種族】:人間


【職業】:元領主の息子・冒険者・大賢者の弟子(キング狩り・Bランク)



体力:860000


魔力:1020000


筋力:SSAB+


耐久力:SSAB-


素早さ:SSC+


器用さ:SSD+


精神力:SSB+


抵抗力:SSB+


幸運:SSAA+



【スキル】



 解析LvMAX→超解析Lv6(NEW)、身体強化・改LvMAX→闘気術Lv6(NEW)、索敵LvMAX、隠密LvMAX→(索敵と隠密が統合)感覚操作Lv5(NEW)、


 魔道の心得LvMAX→魔道の極意Lv5(NEW)、四元素魔法LvMAX、上位属性魔法LvMAX→(四元素魔法と上位属性魔法が統合)共通魔法Lv4(NEW)、


 霧魔法LvMAX、嵐魔法LvMAX、木魔法LvMAX、砂魔法LvMAX→(霧魔法と嵐魔法と木魔法と砂魔法が統合)自然魔法Lv3(NEW)、


 聖光魔法LvMAX、漆黒魔法LvMAX→(聖光魔法と漆黒魔法が統合)混沌魔法Lv4、時空魔法LvMAX→転換魔法Lv4(NEW)、


 真・剣術LvMAX、真・格闘術LvMAX→(真・剣術と真・格闘術が統合)戦闘術Lv5、超集中LvMAX→並列思考Lv3(NEW)、


 スキル習得率アップLvMAX、スキル熟練度アップLvMAX、成長率アップLvMAX→(スキル習得率アップとスキル熟練度アップと成長率アップが統合)→全成長率上昇Lv4(NEW)、


 分離解体LvMAX→分離解体・改Lv5(NEW)、威圧LvMAX→超威圧Lv3(NEW)、ゴーレム生成LvMAX→無機生物創造Lv3(NEW)、掃除LvMAX、裁縫LvMAX、料理LvMAX、洗濯LvMAX→(掃除と裁縫と料理と洗濯が統合)家事全般Lv7、


 錬金術LvMAX→錬金術・改Lv4(NEW)、鍛冶LvMAX→鍛冶・改Lv5(NEW)、宝飾LvMAX→宝飾・改Lv5(NEW)、パラメータ上限突破Lv2(NEW)、限界突破Lv5(NEW)



【状態】:なし






 さて、もはや人間を辞めたとしか思えないほどのステータスだが、順番に説明していこうと思う。とりあえず、パラメータについてだ。



 まず体力と魔力がずば抜けて高くなっているのはいいとして、パラメータの表記が少しおかしなことになっていることに気付いただろう。これは、あとになってわかったことなのだが、パラメータの成長は最初F-から始まってS+で限界を迎えることになるのだが、その上限を上げるために必要なのが【パラメータ上限突破】というスキルだ。



 このスキルによってS+のパラメータがSF-というパラメータに変化し、新たにパラメータを成長させることができるようになる。さらにSF-をSS+にまで引き上げると、次にパラメータ上限突破をレベル2にすることでSSF-にまでパラメータが解放される。



 そして、ここからがややこしくなるのだが、SSA+にまで成長させると順番的にはSSS-に成長するはずなのだが、そうならずにSSAF-に変化したのだ。つまりパラメータをSSSにするためには、一度SSA+にまで成長させ次のSSAF-のF-をA+に成長させることで初めてSSS-にパラメータを成長させることができるとわかったのだ。



 文字だけで表現するなら、SSA+→SSAF-→SSAA+→SSS-ということになる。……なんともややこしいが、この世界ではそういうシステムらしい。



 続いてスキルに関しては、もう何が何やらわからないほどにスキルが進化したり統合したりしており、一言で表現するなら“カオス”な状態だ。であるからして、スキルについては会えて言及せずにワンフレーズで済ませてしまおうと思う。そのフレーズとは……“めっちゃ強くなった”である。



 最後になってしまったのだが、どうやらナガルティーニャはこの世界では大賢者と呼ばれている存在らしく、実質的に俺はその弟子ということになってしまっているらしい。そう“なってしまっている”のである。



 あの何もかもが腐ったハーフエルフの弟子であることに少なくない屈辱感を抱いているため、先の職業については断固として拒絶したいところではあるが、どうやらこの世界のシステム的にはそうなってしまっているから仕方のないことなのだ。しつこいようだが“そうなってしまっている”のである。



「くそう、本当なら顔面パンチのおまけ付きで奴につき返したいところだが、今の俺でもあのババアに一発ぶち込むことすら難しいからな……まったく、とんだ化け物もいたもんだ」



 全体的に実力の底上げが叶った今でも、ナガルティーニャのステータスを覗き見るには至ってはいない。あれから俺の解析スキルも超解析へと進化を遂げているのにも関わらずだ。



 自分よりも強い存在がいることに喜べばいいのか、はたまた悔しがればいいのかわからない複雑な感情を抱きつつも、とりあえず修行についてはここで一区切りとし、一度街へと戻ることになったのである。



「ローランドきゅーん、ホントに帰っちゃうのかい? ……帰るなら、せめて君の初めてをあたしにおくれ――いだだだだだ」


「その呼び方は、止めろと忠告しておいたはずだ? 今度呼んだら俺のアイアンが火を噴くと言っていたのを覚えていないのか?」


「痛い、痛いぞローランドきゅん。相変わらず、愛情表現が激しすぎ――いだあーい、ちょっと、本気で顔が潰れちゃうから!!」


「一回潰れるくらいがあんたにはちょうどいい」


「それ何気に酷くないかいっ!?」



 といった具合に、こんなやり取りが三年も続いているのだ。……どうだ? ウザい&イライラするだろ?



 この三年、彼女のもとで修行をし強くなったのは喜ばしいことだ。だが、それと同じくらい彼女のもとで修行をしたのは間違いであったとも考えている。



 この感情を例を挙げて説明するのであれば、給料はいいが全然やり甲斐のない仕事をさせられている時の感情と似ている。給料がいいから与えられた仕事さえこなしていれば生活に困ることはないが、その仕事をやるモチベーションが一切湧かないため、勤務態度は最悪なものとなってしまうといったところか。



 兎にも角にも、三年間で実力が大幅にアップしたことだけを見るなら、実りのある三年間であったとこは間違いないため、そこだけに焦点を当ててすべて丸く収まったことだと無理矢理に自分を納得させることにした。



「じゃあ、俺はもう行くからな。ナガルティーニャは本当にここに残るつもりなのか?」


「なにさー? あたしのことを心配してくれてるわけかい?」


「まあ、そうだな。それに、なんだかんだでお前と別れるのは少しだけ寂しい気もするしな」


「な、なに変なことを喋ってんだズー!? いきなりの不意打ちは反則なんだズー!!」


「お前のその変な口調が俺にとっては不意打ちなんだが……」



 俺の正直な感想を口にすると、顔を真っ赤にして妙な語尾で話し始める。……前世の鈍りだろうか? 東北弁か?



 ナガルティーニャと別れるのは寂しいというのは俺の正直な感情であるが、これだけは一つだけ言っておく。俺は別に彼女に特別な感情を抱いている訳ではない。



 今の俺は三年の時が経過しているため、体も成長しすでにあれが目覚めているのだが、彼女の誘惑に引っ掛かったことは一度たりともない。寝起きに不意打ちでキスをされそうになったり、すっぽんぽんでお風呂に突撃してきたことは一度や二度ではないが、尽くその行動に対して肉体裁判を行ってきた。



 そのほとんどが空振りに終わってしまうのだが、今回のようにたまに意表を突いて技が決まったりするので、ある程度の抑止力にはなってきていると考えている。



 この修行の間大体の彼女の人となりを知って、悪い奴ではないということと、同じ転生者として行動を共にしてもいいという思いから、幾度か彼女を外の世界に誘い出してみようと試みたが、彼女からの返事は決まって「ノー」だった。



 ナガルティーニャが、この世界でどのような人生を歩んできたのは実際に見ていないので俺は知らない。彼女には彼女にしかわからない思いや感情があるので、ここで過ごすという彼女の意志を無下にすることはできないが、それで本当にいいのかとも考えてしまうのだ。



「大丈夫さね。あたしはずっとここで過ごしてきたんだ。また一人で楽しくスローライフを送るだけさね。どうよ、これぞラノベに登場する主人公みたいじゃないか!! はっはっはっー」



 そう言いながら、快活に笑うナガルティーニャに寂しさは微塵も感じられない。どうやら、強がりではないようだ。



「そうか、なら気兼ねなくここからおさらばできるな。改めて、ナガルティーニャ。世話になった、ありがとう」


「どういしまして」



 そう言いながら、俺は彼女と抱擁を交わす。彼女の華奢な体から女性特有の甘い匂いと温もりが伝わってくる。そして、そのまま両腕に力を込めていくと彼女が苦しみ出す。



「ちょ、ちょっとローランドきゅん? 寂しいのはわかるが、もう少し力を緩めてくれないかい? い、痛いのだが」


「いや、そういえば、今まであんたにはいろんな意味で世話になったからな……そのお返しをしておかねばと思ったのだよ。てことで、御礼参りだ。覚悟しろ!!」


「ちょ、ちょま――ぎゃああああああああああー鯖折はらめぇぇぇええええええええ!!」



 少しバイオレンスな別れとなってしまったが、それが返って俺たちらしい別れの挨拶となった。地面に倒れ伏し、ぴくぴくと痙攣するナガルティーニャを尻目に俺は彼女の張った結界の外へと飛び出した。

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