85話「素材集めとアクセサリー作り」



 グレッグにアクセサリーの委託販売を依頼した後、その足でダンジョンへと向かった。ひとまずは、アクセサリーの材料となる魔石英を入手するべく、十階層の入り口の転移ポータルから森の中にある川へと直行した。



「オラオラオラオラオラオラオラオラ!!」



 何をしてると思う? そうだ、川の中にある魔石英を根こそぎストレージにぶっこんでいるのだ。川幅数メートル程度の大きさしかないが、その長さつまり全長は数百メートル以上にも及ぶ川の底すべてに魔石英が点在している。



 もちろん、そのすべてが魔石英ではないものの、かなり高い割合で含まれているため、結構な量が手に入った。個数にして約三千個ほどの魔石英が、ストレージに回収されたはずだ。



 しかしながら、これだけの量を集めても全体の数パーセント程度しかなく、まだまだ魔石英には困らない。それほどまでに、川底にある魔石英の数は膨大であった。これだけの量があれば、冒険者たちがこぞって回収しそうなものなんだが、なぜか回収はされていない。ここに魔石英があることを知らないのか、それともそれ以外の理由で取ろうとしないのか、いずれにせよ俺としては好都合だ。



 魔石英集めをしたあとは、鉱山に向かい時々出現するポイズンマインスパイダーから糸を回収しつつ、鉱石を採掘していく。採掘と言っても、大地魔法で壁を砂に変化させて埋まっている鉱石を取り出すという簡単な作業でしかないのだが……。



 たまに地面に落ちている鉱石もあるので、忘れずに回収する。……ストレージ内が石だらけになりそうだ。これだけの量を回収してもまだまだストレージ内には余裕がある。時空魔法を覚えることができて、本当に良かったとしみじみ思う。



 途中で昼食を挟み、少しばかり休憩したあとで再び作業を再開する。鉱山の奥へ奥へと進んでいくと、ポイズンマインスパイダーや他のモンスターの出現頻度が高くなってきたようだが、魔法を使って瞬殺して分離解体で素材に変えて速攻でストレージの中に入れて回った。



「なんか、ダンジョンの目的が攻略から素材集めに変わっているのは気のせいだろうか?」



 などと一人宣いつつ、それでも素材回収はやめないという言っていることとやっていることが違っていながらも、確実に素材を集めていった。



 ちなみにこれだけ素材を集めて無くならないのかという疑問が浮かぶだろうが、どうやらダンジョン内にあるすべての資源やモンスターは永久機関らしく、無くなった分だけ一日経てば補充されるシステムとなっているようだ。



 都合が良いシステムに何者かの意図が感じられなくもないが、どれだけ取っても無くならないというのであれば、遠慮なく採集ができるのでその点についての思考を放棄することにした。



「一応十階層のボスは攻略しておこうか」



 ある程度素材が回収できたところで、気付けばボス部屋まで到達していたので、そのままボスを倒すことにする。十階層のボスは予想通りというべきか、ビッグポイズンスパイダーというポイズンマインスパイダーを二回り大きくした感じのボスだった。



 普段であれば魔法で瞬殺なのだが、ここでとある考えが浮かびしばらく様子を見ていると、俺の予想が見事に的中した。



「ふふふ、これは……使えるな」



 俺の目の前には、ビッグポイズンスパイダーの吐き出した糸があった。回収してみると、なんとその糸は【上質な蜘蛛の糸】というものらしく、おそらくポイズンマインスパイダーの糸の上位版に位置付けされている糸のようだ。



 そうなってくれば、話は変わってくる。そのまま極限まで糸を吐き出させ、出来る限り上質な蜘蛛の糸を手に入れるのが、今回のミッションだ。



 それから一、二時間ほど掛け、ビッグポイズンスパイダーから糸を搾りに搾り取ったあと、止めを刺してボス戦は幕を閉じた。今回はかなり時間が掛かってしまったが、実質的に苦戦したのは糸を吐き出させる工程だけで、あとは相手の攻撃をひたすら避けつつ糸を回収する作業に没頭するだけであった。



 徐々に弱っていく蜘蛛を見ていると、なんだか申し訳ない気分になってしまったが、お前の糸が欲しかったのだ。……許せ、蜘蛛ちゃん。



 ボスを倒し、十一階層に通じる扉を開けようとしたその時、突然宝箱が出現する。おそらく十階層攻略した記念のボーナス的な宝箱だと思うのだが、こういうところは本当にゲームのようだと苦笑いを浮かべてしまう。



 どんなお宝が入っているのかと内心でわくわくしながらも、念のために解析を使って罠の有無を確かめる。俺は用心深い男なのだよ……。



 特に罠はないみたいなので、改めて宝箱に手をかけそのまま勢いよく開け放った。中から出てきたのは、魔鋼石というこの世界のファンタジー鉱石のようだ。



「今まで散々採掘しておいて、手に入ったお宝が鉱石って……」



 もっとマジックアイテムや魔剣なんかの物凄いアイテムを期待していたんだが、どうやらそんなに甘くはないようだ。まあ、まだ十階層だし手に入るお宝のグレードとしては妥当なのかもしれない。



 そこから十一階層手前の転移ポータルを解放し、時間的にもいい頃合いだったため、街へと帰還することにしたのであった。





     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~





「さて、作業を開始しますか」



 ダンジョンから帰還し、冒険者ギルドで不必要な素材を買い取ってもらったあと、宿に戻ってきた。時間帯的に夕飯時だったので、食堂で食事を済ませから自分の部屋へと戻る。



 今までだったら、このまま日課の訓練をしたあとで眠りに就いていたのだが、今回は少しばかり勝手が違っている。なにかといえば、アクセサリーの作成だ。



 今日ダンジョンで採集してきた魔石英を取り出し、さっそく加工をしていく。前回作ったブレスレットは少しばかり値が張るものだったので、使用している石のサイズを調整することで、値段を抑えてみることにした。



 具体的には前回の玉の大きさは八ミリだったが、今回は六ミリと四ミリに加工したものを使用する。そうすれば、使われている石が小さい分、価値も下がるのではという結論に至ったのだ。



 小さいサイズの石を使用するというのは、値段を抑えられる以外にも利点があり、そのうちの一つが一個の魔石英で加工できる個数が増えることだ。魔石英の大きさは、大体小さいもので二センチ、大きいものだとテニスボールくらいの大きさがある。



 それを魔法で加工するのだが、小さいものだと加工できる石の個数は一個となってしまうが、テニスボール大の魔石英であれば何個も作ることができる。前回は八ミリの大きさだったため、一個の魔石英に対し一個しか作れなかったが、今回は一つの魔石英で複数の石に加工できそうだ。



 だたし、小さい石であるため、ブレスレットの紐を通すための穴開けが難しくなってくるのだが、そこは頑張るしかない。とりあえず、六ミリの石を百個と四ミリの石を二百個作ってみることにした。



「ふう、なかなか大変な作業だな」



 一区切りついた頃には、二時間が経過していた。どうやら相当集中していたらしい。特に四ミリの石の穴開けが大変で、最初の何個かは失敗してしまった。



 そこからポイズンマインスパイダーの糸を使って、ブレスレットに加工していく。ちなみにだが、鉱山で手に入れた暗魔鉱石を加工した石も間に挟むのも忘れない。



 この暗魔鉱石だが、一応それぞれの大きさの石に合わせて加工しており、見た目的にもいい感じになっている。まあ、個人的な意見だがな。



 とりあえず、六ミリブレスレットが六個、四ミリブレスレットが十一個完成したので、一旦解析で見てみることにした。





【魔石英のブレスレット(六ミリ)】:魔石英と暗魔鉱石を使ったブレスレット。魔力を込めると、魔石英が透明になる効果があるが、それ以外は何の効果もないただのブレスレット。 相場:大銅貨七枚から八枚。



【魔石英のブレスレット(四ミリ)】:   〃    相場:大銅貨四枚から五枚。




 どうやら上手くいったらしい。これで六ミリは小銀貨一枚から二枚、四ミリは小銀貨一枚以内まで販売価格を抑えることができそうだ。やったね。



 あと、念のために浄化のアミュレットも六ミリと四ミリの大きさのものを作ってみたが、その結果は以下の通りになった。




【浄化のアミュレット(六ミリ)】:魔石英を使った腕輪型の魔除けのお守りで、魔力を込めると水晶のように透明になると同時に体内の悪い気を浄化してくれる。疲労回復や腹痛などの軽い症状の病気に効果がある。一定回数使用すると、効果が無くなりただのブレスレットになる。 使用回数:百回 相場:小金貨一枚から二枚。



【浄化のアミュレット(四ミリ)】:   〃   使用回数:三十回 相場:大銀貨三枚から五枚。




 うーむ、どうやら使用する魔石英の大きさによって使用できる回数に制限が付くらしい。ちなみに前回作った八ミリのアミュレットには制限回数はないようだ。



 これはいい情報を得ることができた。八ミリ以上の石を使ったアミュレットを作らなければ、使用できる回数に制限が付くため、アミュレットが流通することはなくなるということだ。最初の一個はお試しということで、目を瞑ろう……うん。



 それからさらに魔石英を加工しまくり、六ミリブレスレットを合計二十個、四ミリブレスレットを合計三十個まで量産した。アミュレットに関しては、魔法的な効果があるので限定的な個数とし、六ミリを五個と四ミリを三個だけに留めておいた。



 ちなみに前回の八ミリブレスレットは生産せず、試験的なものとして留めておくことにした。決して作るのが面倒臭かったわけじゃないぞ? たぶん……。



「よし、じゃあ日課の鍛錬を少しだけやって寝るか」



 アクセサリー作りに関しては、一区切りがついたので今日はこれくらいにして日課の鍛錬を行った。



 一つ言っていなかったことがあったが、この世界には風呂という文化は貴族などの富裕層でしか嗜まれていない。では一体今までどうやって体の汚れを落としていたのかというと、最初は桶に水を入れ火魔法でお湯にしたものを使い、手ぬぐいで拭くということをやっていた。



 だが、ある時思いついてしまったのだ。そんな前時代的なことをしなくても、魔法で洗濯機のように体全体を洗えばいいということに……。



「【クリーンウォッシュ】」



 服を全て脱ぎ捨て裸になった俺は、水魔法で出現させた水の中に飛び込む。自身がまるで洗濯されている洗濯物になったような気分だが、これが一番汚れを効率的に落とすことができるのである。



 自分の汚れを落とした後、その水の中に服を入れてそれこそ洗濯機のように服も丸洗いする。ちなみに水魔法で操作しているため、部屋が水浸しになることはないし、水から出た瞬間に風魔法を使っているため、他の場所に水気が移るということもない。



 本来であれば風呂に入るという手もあるが、一般的に浴槽というもの自体がないため、風呂に入るためにはまずは浴槽から作る必要がある。いずれ自分の持ち家を建てた時にでも風呂を作りたいとは思うが、今はこの水魔法での洗濯方式でも問題ないと考えている。



 きれいさっぱり汚れが落ちたので、その日はそのまま就寝することにしたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る