22話「新規登録と薬草採集」



 翌日、食堂で朝食を済ませると、すぐに冒険者ギルドへと向かった。

 昨日は旅の疲れやら精神的な疲れやらといろいろと疲れるような出来事が多かったこともあって、起床した時間は少し遅めだった。



 その分冒険者ギルドが混雑する朝一番の時間帯を避けることができたので、それはそれでプラスに働いたのだと納得しておく。遅起きは三文の徳だな……違うか。

 などとどうでもいい些末なことを考えながら、冒険者ギルドへと足を踏み入れた。



 いつ他の冒険者が絡んでくるイベントが起きるのかと、内心でびくびくしながらも昨日と同じ入口から一番近い受付に歩いていく。

 すると、そこにいたのは昨日俺を担当してくれた受付の女性で、相変わらず眼鏡がよく似合うおっぱい美人さんだ。



「いらっしゃいませ……って君は昨日の」


「ども」


「昨日は冒険者登録せず仕舞いでしたけど、今日はどうですか?」



 受付の女性がそう言いながら微笑んでくる。実に見事な営業スマイルだが、見た目の美しさも相まって吸い込まれそうだ。主におっぱ……なんでもない。



 彼女に改めて問われいろいろと考えてみたが、冒険者登録すれば街に入る時などの身分証明の代わりになるギルドカードが手に入るし、上位の冒険者になれば貴族並みの待遇も受けられるというメリットも存在するため、多少デメリットがあるにしてもここで登録しておいた方がいいという結論に至った。



「登録をお願いしたい」


「わかりました。ではこちらに記入をお願いします」



 そう言って差し出してきた書類には、名前と年齢と出身地という実にシンプルな項目が並んでいた。

 学のない人間がなることが多い冒険者だからこそ、小難しいことを問われたところで答えることができないのだろう。



 出された用紙の空欄に記入していき、それが終わると無言で彼女に用紙を手渡す。

 ちなみに名前の欄には新たに名乗ると決めたローランドと記入し、年齢はそのまま十二歳で出身地はマルベルト領のローグ村の出身だということにしておいた。



 このあたりの情報は特に偽名や嘘の内容でも問題ないらしく、言わば冒険者ギルドで活動していくためのプロフィール登録のようなものだということらしい。



「こちらが、君のギルドカードになります。ギルドカードは紛失しますと、再発行するのに中銀貨一枚の手数料が取られますので、なくさないようお気を付けください」


「わかった。ところで、昨日聞いた内容の他に俺が聞いていないギルドに関する規約があれば聞きたいんだが」


「わかりました。まずはギルドのランクというものについてですが……」



 彼女の説明では冒険者にはランクと呼ばれる階級のようなものが存在しており、一番下のFランクから最上位のSSSランクの九つの階級に分類されている。

 ランクの意味するところは、冒険者ギルドの貢献度に関連しており、高ランクになればなるほどギルドの貢献度が高くその待遇もよくなる仕組みだ。



 特に冒険者ギルド経由で発注されている依頼は、同じようにFランクからSSSランクまであり、依頼は自分のランクの一つ上までの依頼が受注可能となっている。

 つまりFランクの駆け出し冒険者が受注可能な依頼は、一つ上のランクであるEランクまでだということだ。



 依頼の内容は、ちょっとした雑用からモンスターの討伐、行商人などの護衛や特定の素材の入手など様々あり、所謂なんでも屋という位置づけとなっているところが大きい。

 しかしながら、上位のランクになれば貴族からの引き抜きだったり、あるいは大きな功績を残した者には国王が貴族の位を与えたという前例もあるので、一攫千金を夢見る者にとってはうってつけの職業と言えるだろう。



 その他の内容に関しては、冒険者同士での私闘の禁止や犯罪に手を染めないなどといったよくある内容で、特別特殊な規約はなかった。

 粗方のことを聞き終えた俺は、受付嬢に礼を言ってその場を去ろうとしたところで、彼女に呼び止められた。



「もしよろしければ、さっそく依頼を受けてみませんか?」


「依頼か。だが、目ぼしい依頼は他の冒険者に取られているのだろう?」



 現在の時刻は、冒険者たちが依頼を求めて殺到する朝一番の時間帯ではなく、その時間を数時間ほど過ぎた頃合いとなっている。

 であるからして、報酬のいい依頼は当然朝一にやってきた冒険者が受注している状態のため、まともな依頼は残っていないと安易に予想できるのだ。



 という考えだったのだが、どうやら彼女はそう思っていないようで、俺にある依頼を受けてほしいと頼んできた。その依頼とは――。



「薬草採集?」


「はい、そちらの依頼でしたら常設系の依頼ですので、今の時間でも受注は可能となっています。ただ……」


「受注は可能だが、その分得られる報酬は少ないってとこか」


「はい……」



 彼女の言葉を途中で遮り、俺が予想した内容を口にすると綺麗な眉尻を下げ申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 しかし、常設されている依頼ということは求められている品が常に品薄状態で必要としているからこそそうなっているのだろう。



 それに、今後のことを考えればこういった依頼を経験しておくのも悪くないと俺は考えている。

 結局、彼女が提案した依頼を受注することにし、これから薬草採集に行くことにした。……そういえば、この女性の名前を聞いていなかったな。



「これから世話になるから改めて自己紹介をしておこう。ローランドだ」


「こちらこそよろしくお願いします。私は冒険者ギルドの職員でマリアンと申します」


「そうか、ではマリアン。行ってくる」


「いってらっしゃいませ。お気を付けて」



 まるで新婚のような挨拶をするマリアンに内心で苦笑いを浮かべながら、俺は冒険者ギルドをあとにした。

 そのまま街の入り口に向かい、門番の兵士にギルドカードを提示する。特に何の問題もなく手続きは完了し、すんなりと街の外に出ることができた。



 ラレスタの街から徒歩で数十分程度の場所に、小規模な森があるという話を冒険者ギルドを出る前にマリアンから聞いていたが、その情報通り森の入り口がそこにあった。

 森というよりはどちらかというと雑木林に近いイメージだが、森か林かと問われれば迷うことなく森だと答える程度の違いでしかない。



「さてと、薬草はどこだ?」



 さっそく薬草を求めて森に侵入するも、ここで重要なことに気付く。薬草がどんなものか確認するのを忘れていたのだ。

 適当にその辺の雑草を摘んでいこうとも考えたが、よく考えれば俺にはある能力があることに至り、それを口にする。



「そうだ【鑑定】を使って調べればいいじゃないか」



 その答えを導き出すのにそれほど時間は掛からず、すぐに鑑定で薬草を探していく。

 薬草はすぐに見つかり、目についたものを摘んでいくが根こそぎ採集してしまうと二度とその場所で自生しなくなることを考慮し、ある程度は残しておく。



 ちなみに鑑定の結果、薬草は【セレニテ草】といい、低級ポーションの材料となる他に煎じて飲めば、風邪などのちょっとした病気や怪我の予防の効果があるらしい。

 持てるだけのセレニテ草を採集すると、俺はすぐに街へと戻ることにした。次来るときは袋か何か持ってきた方がいいな。

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