犬と猫、どっちが好き? 猫だろ、俺は犬だよ
チェシャ猫亭
第1話
「犬と猫、どっちが好き? 猫だろ、俺は犬だよ」
あの時、彼はなぜ、あんなことを言ったのだろう。
質問、ではなかった。どっちが好きか、と聞いておいて、返答する間もなく私の答えを代弁し、自分の答えも言ってしまう。
私は、何も言えずに終わった。
なんで猫好きってばれちゃったのかな。
気まぐれで、思うようにならない猫が大好き、それは確かだったけど。子供の頃から、ずっとそう。
彼の前で猫の話をしたことはない、はずなんだけどな。
犬の話もしたことないな、そういえば。
でも、彼が犬派だっていうのは、納得できた。
私と違って、素直で単純で、誰からも愛されて。彼自身が、子犬みたいな人だった。
好きだけど、大好きだけど。
14も年下の彼の前で、私は大人の振る舞いができなかった。
彼と同じか、もっと子供に戻ってしまい、せっかく出会えた本物の相手と、寄り添うことはできなかった。
あれから、いろんなことがあった。
父が亡くなり、母の面倒を誰かみるか、実家の処分はどうするか。
ようやく、東京の家族に母は引き取られた。
なのに、しばらくして、母の愛猫・トラを、保健所に、という話が出た。
介護が必要な身で、母は、抗うことはできなくて。
「お別れだね、トラ」
箪笥の上でドヤ顔のトラに、母は語りかけた。
冗談じゃない!
トラを東京に連れていけない、と言われて、お母さん。あなたは、
「どうしても連れていく!」
と、トラの上に覆いかぶさったじゃないか。
そうまでして守って命を、いまさら手放すの、そんなこと許されるの?
私は、家族とかけあって、保健所送りは、なんとか回避できた。
保健所からは、
「飼い主を探す努力をしてください」
と言われたって。そらそうだ。
その家族への不信感がマックスになったのは言うまでもない。
結局、母とトラは、私の部屋に来ることになった。
猫のためには、広い部屋の方がよかったんだけど。
午前3時に起こされるのにも参ったけど。
母とトラとの日々は楽しかった。怖かったのは、いつか、この幸せに終わりが来るということ。
彼も、母も、トラも、もうこの世にはいない。
最後に逝ったのがトラ、20年と10か月のニャン生、お疲れさま。私と暮らしたのは、11年と10か月、だったね。
あれから、もう5年近く。
あと何年生きるかわからないけど、早くみんなに会いたいよ。
彼と会ったら、今度こそ、ちゃんと言おう。
「私は猫が好きだよ。でも、子犬みたいな、あなたも大好き!」
犬と猫、どっちが好き? 猫だろ、俺は犬だよ チェシャ猫亭 @bianco3
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