第10話 心が伝わる

先生に時間をかけて愛された後、一緒にバスタブに入った。

「髪まとめてる美穂ちゃんって、病棟の時の美穂ちゃんだね。うなじ、超キレイ。色っぽい」

先生は嬉しそうに後ろから抱きかかえ、うなじに何度もキスしてくる。

くすぐったくて気持ちいい。

キスされる度に甘い声で返事をした。

「そういえば先生、休みよく取れたね」

「ふふふ。学会頑張ったご褒美的な。年末年始も夏休みも取らなくて、ずっと働いてたしね。外来とかオペ日外れたし。運が良かったのかも」

そしてさっきから先生の指は私の胸の膨らみを包み込むように触っている。

「先生、胸好きだよね」

「だって私胸ないんだもん」

時々先端をつままれてビリッとする。

「んっ。ちょっと。今そこは無しだよ」

「え〜。いいじゃん。ずっと触ってたい。じゃあ、これはダメ?」

後ろから耳を甘噛みされる。

「あっんっ。くすぐったいよ」

「美穂ちゃん、声も可愛い。キュンキュンしちゃう」

「耳、もっとしてもいいよ」

「そういうとこ、たまんない!」

そんなことを言いながらバスタブの中でじゃれあう。

明日も明後日もずっと一緒にいられることがうれしくて仕方がない。

バスタブの中でお湯をパシャパシャさせながらしばらく戯れる。

数えきれないくらいキスを交わす。

けれど突然、ずっとデレていた先生が静かになった。

「美穂ちゃん。ごめんね」

私の肩に顎を乗せ耳元で言う。

「寂しくさせてたよねきっと。ずっと我慢してくれたんでしょ?」

口調がデレてる時の先生ではない。

耳元に顔を猫みたいに擦り寄せてくる。

付き合ってすぐ抱き合って、夜勤で少し話して、それから一ヶ月半ずっと二人きりになれなかった。

先生に怒られたことが最後に会話した時。

「仕事でキツく当たったよね。私。ごめん本当に」

「あれは私がいけないから」

「言い方考えればよかった。余裕無くて最悪だったね」

あの時のことを思い出すと目が熱くなる。

「違うの」

涙を必死にこらえる。

先生の前で泣きたくない。

でも声は少し震えてしまう。

「先生にもっと信頼されたいのにうまくできなくて、私、ダメだなって。そういうこと先生ともっと話したくて」

後ろから先生が私の瞼に唇を当てる。

涙を誘い出しているかのようだった。

「美穂ちゃんのこと信頼してる。仕事丁寧で抜かりないの知ってるから。仕事してる姿、ずっと見てたんだから」

仕事のことだけじゃない。

「私、もっと。ホントはもっと先生に会いたい。でも、邪魔したくないの。嫌われたくないの。仕事大変なの知ってるから」

先生の唇に誘われ、瞼が涙でうっすら濡れる。

先生は一旦胸から手を外し、後ろからぎゅっと抱きしめた。

「私も美穂ちゃんに会いたかった。限界越えてたよ。何度も連絡しようとしたんだけど美穂ちゃんも頑張ってるって思って我慢してたの。でも、そういうのやめようか。連絡したい時連絡して。私もするから。邪魔じゃないし嫌いになんかならないから」

頬をすり寄せてくる。

先生の頬はすべすべしていて柔らかい。

愛おしさで胸が一杯になる。

「美穂ちゃん、前に甘えてって言ってくれたじゃない。私も美穂ちゃんに甘えてほしい。私、美穂ちゃんより大分歳上なのよ? 本当は美穂ちゃんを甘やかしたいって思ってる。もっとワガママ言って私を困らせてよ」

何なのその歳上の余裕。

でもそれがどうしようもなくカッコいいって思ってしまう。

「先生、うちにも来てよ。先生の家みたいに大きくないけど。寄れる時寄ってよ。もっと先生に会いたい。会って話したい」

「必ず行くよ。少しの時間だけでも一緒にいられるように努力するから。沢山話できるといいね」

先生の一言一言に胸の奥が痺れる。

この人のことがこんなにも好きになっていたなんて。

苦しいほどに好きだ。

「私、先生のこと、多分先生より好きだよ」

上手い言い方が思いつかなくてこれが精一杯。伝わるかどうか分からないけど。

「好きな気持ち、負けるつもりは全然ないけど。でも」

先生が私の顎を手で引き寄せ先生の顔が見えた。

先生の目が潤んでいる。

そして目を細め、大好きな優しい顔をする。

胸の奥で熱くなった塊が外に解放されたいような焦燥感にも似た感じが私を襲う。

「私が好きって思う気持ちと同じくらい好きってことでしょ? 私、幸せだよ。愛してる」

そのまま顔が近づきとろけるようなキスをした。

先生に言いたいことが伝わってる。

先生は私の気持ちをいつも汲みとってくれている。

こんな安心感、今まであっただろうか。

胸の奥の熱い塊は先生によって外へ解放された。

焦燥感は言葉に出来ないほどの安心感へと変化した。

それは先生の体温と溶けあい、心地よい温もりとなって私をじんわり包み込んでいるかのようだった。

嬉しくて、幸せで、涙が溢れた。

名古屋での三日間はずっとホテルで過ごした。

ベッドの上で愛し合い、お互いのことを話した。

私が小児科で働きたかったこと、そして異動希望を出しているけど希望が通らないこと。

三年目になって仕事に嫌気が差してしまったけど、先生と付き合ってから少し気持ちが持ち直したこと。

先生は実家が病院でお兄さんが継いでいるけど、実家を継がなくていいようにマイナーな診療科の外科医になったこと。

私のことを知りたくて看護記録を読んでいて、その仕事の姿勢が他の看護師とは違うと感じ、どんどん好きになったこと。

色々なことを話し合った。

聞けば聞くほど愛されていることを実感する。

何度も抱き合い、先生の肌と自分の肌がどんどん馴染んでいくのが分かった。

今まで付き合った恋人達と先生とは明らかに違う。

まだ付き合って間もないけれど、もうすでに、この人のいない人生は考えられないと思うほどに愛している。

相手が女性なんて私にとって何の問題でもなかった。

色白で茶色がかった長めのショート。

立ち振る舞いはサバサバしていてクール。

でも、間近で見ると女性の色気を感じる顔立ち。

目を細めて優しく微笑む表情がすごく好き。

本当はすごく優しくて、真面目で、意外に乙女。

デレている時は可愛くて、愛してくれてる時はどうしようもなくカッコいい。

そして私の気持ちを汲みとり、優しく受け止めてくれる。

性別なんて関係ない。

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