第16話 牽制する私

 それからと言うもの、私はまたしても侯爵令嬢としてクソ野郎の婚約者として生きていた…。一回婚約破棄したし…、家にももう戻らない平民として生きると決めたのにクソ野郎に弱みを握られ形だけのお飾り妻になる為に戻らされる。でもヴァンサンと約束したから絶対結婚前に逃げ出してやる!!


 そう決めた。

 そして…私が心配なのはあの綺麗所の女達がヴァンサンにも手を出さないように監視することだ。


 ヴァンサンは私付きの執事として雇い、常に側にいるようにと言った。

 ヴァンサンの執事姿は鼻血出そうなくらい似合っていた。本人はしっくりこねーと言ってたけど。


 そして早くも女達は誰かがクソ野郎の相手をしている時間にヴァンサンに話しかけて誘惑しようとしていた。私が図書室にヴァンサンと居るとお母様がやってきた。


「オレリーちゃん、ヴァンサンさん!こんな所にいたのぉ!?うふふ、ヴァンサンさん、タイが曲がっていてよ!!」

 と接近する母に立ち塞がり私は


「ヴァンサン!本当だ!まだ慣れないのよね!」

 と素早く直すと小さくチッと舌打ちが聞こえた。

 このババア!!


「お母様…。貴方にはジョゼフさんがいるでしょう?三人で順番に愛して貰っているんでしょ?他の方に目移りなんてしないですよね?まさか」

 と言うとお母様は目を潤ませた。


「オレリーちゃん…。私…とても嫉妬深いことに気付いたのよ!娘と使用人が同じ男性を好きなんて!!…ああ!とても胸が苦しいわ!あの人は私だけでなく平等に皆を愛してくれるけど…、本当は…私一人を愛してくれる人を求めているのかもしれないわ…レイトンみたいに…」

 いや、だから?チラチラとヴァンサンの方見ながら悲劇のヒロインみたいに言うなっ!


「お母様…ヴァンサンはダメですっ!」

 と私が睨むと


「オレリーちゃん?私は別に…そんなつもりじゃないのよぉ??」


「あのクソ野郎で我慢なさりなさい!!」

 とハッキリ言うとヴァンサンは


「なんの話なの?」

 とキョトンと首を傾げた。ごめんよ、ヴァンサン…君にはまだ早い話だよね!!


「うふふ!ヴァンサンさんはとても純粋でウブなのね!可愛いわぁ!…何か困ったことがあったら相談に乗るわね?」

 と言うお母様。まだ狙ってんのか!!

 お母様はルンルンしながら図書室を出ていく。


 …。疲れるな。その後午後にはお母様の執務室の前通りかかると予想通り甘い声が聞こえた。


「ふふふ、待たせてごめんなさい。エリーヌ奥様」


「あら…別に待ってないわよ?…うふん、リュシーと午前中過ごしたんでしょ?…私も午前中は図書室に居たわ。オレリーちゃんとヴァンサンさんが勉強していたから」

 と言うお母様に反応してクソ野郎が


「そうですか…ふふふ。もしや僕がやきもちを焼くのを期待してます?」


「あらん?どうかしら?ヴァンサンさんも素敵だもの…」


「今は僕に夢中な癖に…」


「ああん!今…はね?」

 と言う声が聞こえた。ヴァンサンの耳は私の手が塞いだ。ヴァンサンはキョトンとしたままだ。こんな穢らわしいもの聞かせたくないから足早に通り過ぎる。


 するとお昼を持ちリュシーが少し疲れてやってきた。そりゃ午前中はクソ野郎の相手をしていたしな。


「はぁはぁ…。お嬢様…お昼をお持ちしました…あっ!」

 偶然を装いつつ、リュシーがヴァンサンの方に倒れるのを私が間にザザっと入り込み、リュシーを受け止めた。小さくチッと舌打ちが聞こえた。


「ごめんなさい!お嬢様!あの方が激しくて身体が持ちませんの」


「ふーん、大変だねぇ」


「あらごめんなさい、お嬢様には無関係な話を!!」

 こいつ…嫌味だな!私がブスだから一生そんなことにはならんしギラギラとヴァンサンを狙った目つきをしている。


「用が済んだなら出てって?」

 と言うとリュシーは小皿に料理を設けてヴァンサンに渡す。


「ヴァンサンさん!毒味も執事の仕事ですからこれを!」

 と渡すが私はそれをひっくり返す。


「!!」


「ごめんなさい、リュシー。ここはいいからもう休んで?身体が辛いんでしょ?」


「は、はい…。失礼します…」

 と下がった。床に落ちたそれを勿体ないから食べようとヴァンサンは手を伸ばしたが私は止めた。


「ヴァンサンストップ!!食べちゃダメ!…それなんか入ってる!」


「ええ!?毒!?」


「違うけど…媚薬とか入ってるかもね!!」

 ピュイ!と口笛を吹き飼ってる犬が駆け寄って散らばった飯を食べると変な鳴き方になり腰を降ったりゴロゴロ発情状態になったのを見てヴァンサンは顔をしかめた。


「何なのあの人?こんなの食べ物に混ぜて何したいんだろう??」

 と意味のわからないヴァンサンは言う。うん、ヴァンサンを襲うためだよ!とは言えない。この汚れなき男に変な知識を与えぬよう私は頑張る。今度からリュシーには食事を運ばぬようにして毒味薬も違う人や犬を使うことにした。影からリュシーがギリギリと見ていた。


 更に妹のジャネットはわざとらしく私達が廊下を歩いている前で転び自らゲガをして立てないとヴァンサンに抱っこしてくれとせがんだので私が代わりにジャネットをおんぶした。


「わ、わーい…。お姉様のおんぶだあ!昔みたーい…」

 と言った後にチッと舌打ちの音がした。

 治療も私がした。


「いい歳なんだから女の子が廊下を走っちゃダメよ?ジャネット」


「は…はーい」

 そしてその後小声で


(うるせーよブスが!出しゃばりやがって!)

 というとんでもない悪口が聞こえたが聞こえぬフリをした。


 こいつら三人…ほんと油断も隙もないわ。

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