第676話 壁の中にいる!
俺はレビンから告げられた言葉に部屋の中を見回した後に口を開く。
「いやいや、冗談だろ? そんなとってつけたように都合のいい話があるか?」
「冗談ではありません、本当の事だと仰っています。一番奥のシャーロットの部屋がガストロノモ王子の母親第一王妃のアペリティフ様の元お部屋で、ミリーズの使っている部屋が、その第一王女のポスター様の元お部屋、そしてこの部屋がガストロノモ王子の元お部屋だそうです」
肩に載るレビンが説明する。
「マジか…」
「えぇ、マジだそうです」
俺は部屋の中を見渡していく。
「じゃあ、この部屋にある家財道具を調べていけば、ポロっと玉璽が出てくるというわけか?」
「…いえ、家財道具に関しては、王子の暗殺を企てた者たちが、後々護衛の血で部屋が汚れたという事で、全て取り替えたそうですよ、まぁ、家財道具の中に隠してないか調べる為に運び出したと思われますが…」
レビンが爺さんの言葉を伝える。
「だろうな…俺でもそうする… という事は、この部屋は既に家探しされて玉璽のある可能性なんて無いだろ… 爺さん、玉璽の場所が分かったって言ってたんじゃないのか?」
「…それに関しては、玉璽の在処が分かったと言ったのではなく、玉璽があった最後の場所の見当がついたとしか言ってないと言い訳してますよ」
「…言われてみれば、確かにそうだったな…」
でも、ご飯お代わりし放題(小さく有料)のような詐欺みたいなもんだろ…
「となると… 残る怪しい場所と言えば… 床の石畳の下から出てきたボロボロの凶器と… アレだな…シャーロットが信仰しているクローゼット裏の壁の中の死体…」
「イチロー、凶器の方はただの錆びた凶器だけど、怪しいのは壁の死体の方…」
死体を発見したネイシュがそう告げてくる。
「やっぱり、そうだよな…この部屋で怪しいものと言えば、あれしかないよな… もしかして、消えた王子って…あの死体の事なのか?」
「そうだとすると、イチローがあの死体を見つけた時、すぐにカイラウル側に連絡しなかった非常識に助けられた事になるわね… 連絡していたら、今頃、玉璽はプリニオやカスパルに渡っていたという事になる訳だし…」
ミリーズが複雑な顔をして言ってくる。
「という訳で、あの死体を壁から出して調べようと思うが… シャーロット、構わないか?」
あの死体を信仰の対象としているシャーロットに一応尋ねる。するとシャーロットは困ったような顔をしながら答える。
「…そうですわね…仕方ありませんよね… 国が魔族の危機に晒されている状態ですから… でも、最後にお祈りさせてもらっていいですか?」
「あぁ、構わん、それぐらいの時間の余裕はある」
俺が答えると、シャーロットはクローゼットの所へ向かい、パンパンと拍手を打って拝み始める。
「…今から御無礼を致しますが…どうぞ、お許しください…御先祖様…いえ、ガストロノモ叔父様…」
シャーロットは十分お祈りをした後、クローゼットの上のお供え物を下げて、こちらに向き直る。
「では、始めて下さい、イチロー様…」
「分かった」
シャーロットの承諾を得た俺はクローゼットを動かして、ネイシュと二人して石壁を取り除いていき、壁の中の死体を取り出す。
「まさか、あんたが今回の最重要人物のガストロノモ王子だったとはな…」
壁の中から取り出して、シーツの上に置いた干からびた死体にそう声を掛ける。
「じゃあ、イチロー、玉璽を持ってるか調べてみる」
「おう、やってくれネイシュ」
ネイシュが死体の側に膝を着いて死体を改め始める。
「イチロー様…」
死体を改め始めた途端、カローラが俺の袖をクイクイと摘まんで話しかけてくる。
「ん?どうした、カローラ」
「その死体が…『いやぁぁ!! やめてぇぇ!! 乱暴しないでぇぇ!! 私には心に決めた人がいるのっ!!』って言ってますよ…」
「ぶふぉっ! ちょ! 何言ってんだよ! こいつ!!」
カローラが苦笑いしながら伝える死体の言葉に俺は思わず吹き出す… 後、何気にセリフが会食パーティーでのブラックタイガーの言葉と被っているのが腹立たしい…
「ネイシュ、なんかその死体、余裕ぶっこいているみたいだから、遠慮なく調べちゃって」
「イチロー、分かった」
ネイシュは丁寧に衣服を脱がせながら調べていたが、俺の言葉でナイフで服を切り裂きながら調べ始めた。
「『やめて! 私をどうするつもり!? まさか…エロ小説みたいな事をするつもりなの!?』って…騒いでますよ… 何なんですか? この人…」
「知らんがな…ただのガストロノモ王子だろ… ってか、後で図書館の爺さんにガストロノモ王子がどのような人間だったか聞いてみるか…」
そうしてネイシュが死体を改めていき、とうとうパンツ一枚の姿になった。
「『酷い…初めてだったのに…こんなのって…』って言ってますよ…」
「…言わせておけ、それでネイシュ、見つかったか?」
するとネイシュは首を横に振る。
「見つかってない…服も全部調べたし、口の中や、飲み込んでないかお腹を押して調べて見たけど出てこない…」
「マジで!? じゃあ武士の情けと思って脱がせてなかったパンツと…後、死体が入っていた壁の中も調べてみるか…」
ネイシュが壁の中を調べ、俺が最後の一枚のパンツを切って調べた。
「まぁ… こんなペラペラのパンツに玉璽がある訳も無く… ネイシュ! そっちの方はどうだ?」
「イチロー、見当たらない!」
壁の中を調べていたネイシュが首を振ってこたえる。そこで俺は死体に向かって怒鳴り声を上げる。
「玉璽を持ってないって… 嘘だろ!? お前、一体どこの誰なんだよっ! ガストロノモ王子じゃなかったのかよ!!」
「えぇぇ…ガストロノモ叔父様とは…違うのですの…」
シャーロットも非常に困惑する。
普通、この流れならこの死体が持っているはずじゃないのか? 持ってないのなら、本当にこの死体は誰なんだよ…
そこで俺はカローラに向き直る。
「カローラ、この死体は誰なんだ? なんて言ってるんだ?」
霊の言葉を直接聞けない俺はカローラに尋ねる。
「…えっ…マジでそんな事を言うんですか…イチロー様…この死体が…『私の願いを聞いてくれたら、教えてあげてもいいんだけどなぁ~ チラチラ』って言ってますけど…」
「くっそ腹立つわぁ~!! 生きている人間なら痛めつけてでも話させる事が出来るけど、霊相手じゃなぁ…」
「私の神聖魔法でも、消滅させたり昇天させたりするから…話を聞き出せなくなるわね…」
ミリーズも顔を顰め、俺は頭を掻き毟って溜息を付く。
「分かった…願いを聞いてやんよ… それでその願いというのは?」
カローラを通して願い事を尋ねる。
「えっと…」
その後、カローラが口にした言葉で俺たちは目を丸くしたのであった。
連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei
pixiv http://pixiv.net/users/12917968
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