第673話 生態テレビ電話

 部屋での話し合いの後、俺はカローラを伴って部屋の外に出て廊下を歩いていた。すると一緒に歩いていたカローラが声を上げる。


「あー 突然、トイレに行きたくなったなー でも、知らないトイレに一人で行くのは怖いなー」


 カローラは全く感情がこもらず抑揚のない声の上げ方をする。


「そうか、大変だな… カローラは粗相をしたことがあるからトイレに急がないと… おっそこにトイレがあるな」


 そう言って、廊下にあるトイレにカローラを連れて入る。そして、トイレに入り扉を閉めた途端、カローラが顔を真っ赤にして俺に講義してくる。


「なんですかっ! イチロー様! 私、粗相なんてしませんよっ! 誰かに聞かれたらどうするんですかっ!」


「いや…二人でトイレに入るのに不自然にならないように言わなきゃならんだろ…それより、カローラ、お前の方こそ演技が下手だな… さっきのセリフ、めっちゃ棒読みだったじゃん、まだゆっくりボイスの方が抑揚付けてるぞ」


 ボイスロイドどころかゆっくりボイスよりも棒読みなカローラに言い返す。


「そんなこと言っても、今の見た目は幼女ですけど、本当の中身は大人の女性なんですよ? 子供の真似なんて上手くできるはずがないじゃないですかっ!」


 中身が大人の女性? 何の冗談だ…


「分かった分かった、後で街に連れて行ってカード買ってやるから我慢しろよ」


「カード!? わーい♪ カード! カローラ、カード大好き!」


 カローラは本当の幼女のように喜ぶ。ほらね…


 俺は洗面台に向かってしゃがみ、下の扉を開くと、下の板をぐっと押し込む。すると、カコっとスライドし、持ち上げられるようになる。


「へぇ~ 面白いですね… うちの城もこんなの作りましょうよ」


 横から覗き込んでいたカローラが面白そうに声を上げる。


「まぁ、その内な…今はビアンもロレンスも城下町の再編で忙しいから、それが落ち着いてからだな」


 俺はそう答えながら収納魔法の中からパンの入った袋と着替えの服を取り出して、洗面台の下の隠し通路の中に置く。


「袋に入れているとはいえ、それでは先にネズミが齧りに来ませんか?」


「爺さん自体がネズミのようなものだからな… じゃあ、カローラ、頼んでいた事、お願いできるか?」


 俺の背中にくっつくカローラに向き直って頼む。


「分かりました、イチロー様… レビン・トレノ」


 カローラがそう言うと、カローラの髪の中から二匹のコウモリが現れる。


「はい、カローラお姉様…」

「なんの御用でしょう?」

 

 二匹のコウモリは卑下た笑みをカローラに向けながら答える。…最初はレビンとトレノはカローラと似てないなと思っていたが、この卑下た笑みを浮かべる所はやっぱり姉妹だと思う。


「ちょっと、この隠し通路の中に進んで欲しいんだけど…」


 その言葉に二人の顔が強張る。


「えっ!? この小汚い通路に!?」

「私たちが入るんですか!?」


「いや、どちらか一人でいいんだけど…」


 カローラがそう言うと、二人は互いに睨み始める。


「やってくれた方には、少し魔素を分けてあげるけど?」


「はいはいはい! 私が行きます! カローラお姉様っ!」


 カローラが報酬を提示したとたん、レビンかトレノかどちらか分からないが、一匹が隠し通路の中に飛び込んでいく。


「ちっ! トレノに先を越されたわ…」


 残った一匹の言葉を聞く限り、飛び込んだ方がトレノか…


「じゃあ、レビンの方がイチロー様にくっついて二人の感覚を共有して」


「私がイチロー様に? 分かりましたわ、カローラお姉様」


 そう言ってコウモリのレビンはぴょんと俺の頭の上に載る。



 今、一体何をしようとしているのかというと、カローラの使い魔になったレビンとトレノを使って、大史官長の爺さんと常時連絡がとれるようにしようとしているのである。

 レビンとトレノは双子だけあって、なんでもお互いの視覚や聴覚などの感覚を共有できるらしく、常時テレビ電話を使うような事が出来るそうだ。

 しかもカローラの使い魔となったことで、その感覚を他人にも共有出来るようになった。だから、こうしてレビンが俺にとりついて隠し通路の中を進むトレノの感覚を俺に共有して、爺さんのいる場所へと向かおうとしているのである。


 そんなレビンが小声で俺に囁いてくる。


「ねぇ…イチロー様… カローラお姉様なんてほっといて、私に御寵愛をいただけないかしら? 魔力を頂ければ、なんでもして差し上げますわよ…」


「…おい、カローラ…さっそくレビンが俺を唆してきてるぞ…」


 元の姿のレビンは今の幼女のカローラよりは大きいとは言え、ロリっこには変わりないので興味が無い。


「きぃー! まだ下剋上を狙っているの!!」


「いや… カローラお姉様の妹なら、お姉様と同じようにイチロー様に尽くすべきかな…と…」


「どうでもいいから、さっさと感覚を共有してくれ…誰か来るかも知れんだろ?」


 俺の頭の上で姉妹喧嘩を始めそうだったので、さっさと仕事に取り掛かる様に促す。


「わっ分かりましたわ! イチロー様!」


 レビンはぎゅっと俺の頭にしがみ付き、感覚を共有し始める。すると、自分の見ている視覚と通路の中にいるトレノの視覚が混ざり、頭が混乱しそうになったので、俺は目を閉じて自分の視覚を遮断する。

 すると、トレノの視覚だけになって、まるで自分がトレノになってそこにいる様な感じになる。


「なるほど、こんな感じに感覚を共有できるのか… でも、身体の操作の方は出来ないから3Dゲームのプレイ動画でも見ている感じだな…」


「イチロー様、頭の中で念じて下されば、感覚共有でトレノにも伝わりますので、ある程度操作できますよ」


 レビンが説明してくれる。


「そうか、やってみるか…」


 実際やってみると自分がコウモリになって身体を動かす感じではなく、少しタイムラグがあるゲームを操作している感じで通路内を進むことができた。


(じゃあ、そこの通路を右に曲がってくれ)


 そんな感じに頭の中で念じながら、爺さんの隠し部屋からここまでの道を逆に辿っていく。


(次は左… そしてそこの十字路を真っ直ぐ… そこそこ…その扉だ…)


 トレノは扉の前に辿り着く。


(扉の中に入れるか?)


(一応、これでもヴァンパイアですからね)


 トレノから返事が返ってきて、トレノが扉を開ける映像が見える。


「なんじゃ? コウモリ!?」


 すると、トレノの聴覚を通して爺さんの声が響く。


「安心して、私はイチロー様の使いの者よ」


 コウモリのトレノが爺さんに答える。


「あのイチローの使い? コウモリまで使えるのか! これはたまげたものじゃのう!」


 爺さんの驚く表情が見える。


(トレノ、爺さんに例の入口に食料と服を置いておいたと伝えてくれ)


「爺さん、イチロー様より伝言よ、例の入り口に食料と服を置いといたわ」


 こちらからの言葉は直接届ける事は出来ないが、これはスゲー便利だ。


「ん! 食料と服!? それはありがたいのぅ! すぐに取りに行く!」


 後、調べてもらっていた事が分かったか尋ねたかったが、トイレの外を警戒していたカローラが声を上げる。


「イチロー様! メイドが巡回に来ましたわ!」


「分かった!」


 俺はすぐさま、洗面台したの隠し通路の扉を閉めていく。


(トレノ、後でゆっくりと話を聞きたいと伝えといてくれ)


「爺さん、イチロー様が巡回のメイドが来たから、話は後でと仰っているわ」


「分かった、わしも食料を取りに行ってから話をしよう」


 俺たちはそそくさと自室に戻ったのであった。


連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

pixiv http://pixiv.net/users/12917968

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