第661話 カイラウルの歴史

 俺は受付カウンターに戻る司書の姿を確認すると近くの机に腰を下ろして本を読み始める。


「して、どうなのじゃ? あるじ様よ」


 シュリが隣に座って身体を摺り寄せて本を覗き込んでくる。


「いや、まだ読み始めた所だ、焦るなよ」


 なんだか中坊の時に友人とエロ本を見るようなドキドキした気分で本のページを捲っていく。本の内容はレストランでお姉さんに聞かせてもらった内容とほぼ変わりないが、本の内容では更に王の慈悲深さが誇張されており、逆に顔だけで甲斐性の無い男の非道な行いが詳細に記載されて、より対比が際立っている。


「やはり、この男はゲスでどうしようもないクズじゃのう… 飲む・打つ・買うの道楽の限りを尽くして娘を顧みないではないか」


「逆に王の方は慈愛に満ちて、まるで聖人のように描かれているな…こんなもん子供の頃から聞かされていたら、市井の男と結婚するより、王の妾になった方がマシだと思うようになるわな…」


 本には双子の姉妹の話以外にも姑にいびられて夫が助けてくれない新妻を王が現れて救い出す話や亭主関白の夫に奴隷のように扱われる妻を解放する王など、男問題に悩む女性の元へ寺生まれのTさんさながらに王が颯爽と現れて、女性を救い出して妻にして幸せにするという話ばかりだ。


「あるじ様とは逆の話ばかりじゃのぅ…」


「ちょっと待て、幸せに過ごす女性の元に俺が現れて、女性を攫って不幸にしていくといいたいのか?」


「いやいや、この本の内容のように男問題で悩む女性ではなく、女性自身が問題を起こしている所に現れると言う意味で言ったのじゃ、あるじ様は皆を不幸にしていると思っておるのか?」


 シュリがじっと見つめてくる。


「いや、思ってねえよ…」


「ならいいじゃろ」


 なんか誤魔化されたような気がするな…


 そんな事を思いつつも本の最後のページを見て、発行年月日を確認する。


「新大陸歴1431年5月30日か… 今が新大陸歴1454年だから23年前か…やはり童話としては新しいな… 今の皇帝カスパルが帝位についたのは何年だろ?」


「さぁ? 歴史の本を調べればよいのでは?」


「そうだな、また司書にカイラウルの歴史の記された本の場所を聞くか」


 俺は本を本棚の元の場所に戻すと、司書のいる受付カウンターへと戻る。


「さっきはありがとな」


「あぁ、これはイチロー様、本はお役に立ちましたか?」


 司書はカウンターから立ち上がって応える。


「役に立った、知りたかった事が知れたし、新しい事も分かった、次は歴史の事を調べたいのだが案内してもらってもいいか?」


「もちろん、喜んでご案内いたします」


 そう言って、嬉しそうな顔で受付カウンターから出てくる。その嬉しそうな顔を見る限り、ようやく司書らしい仕事が出来て喜んでいるのであろう。


「ささ、こちらです」


 再び司書が俺たちの前を歩いて先導し始める。


「こちらでございます、イチロー様」


「こちらって、具体的にはどの本棚?」


 案内された場所は本棚が多すぎて本棚が特定できない。


「こちらにございます本棚が全て歴史関係の本棚でございます」


「えっ!? 全部!?」


 俺は案内された場所の無数の本棚が全て歴史関係の本棚と言う事で目を丸くする。


 いや…今までの歴史の事を考えるとこれだけの本があって当然か…


「これだけあると目当ての本がどこにあるのか調べるだけでも時間が掛かりそうじゃのぅ…」


 シュリは本棚を見上げてそんな言葉を漏らす。


「具体的に何についての歴史かを言って頂ければ、その本棚にご案内いたしますよ」


 司書がそう言ってくる。


「ここのカイラウルの歴史について調べたいのだが」


「ならこちらの本棚一帯でございますね」


 司書は本棚の一角を指し示す。


「カイラウルの歴史に絞ってもこれだけあるのか…」


「カイラウルは建国より300年続く国でして、毎年その時に起きた事を本にしているのです」


「あぁ、だから300冊ぐらいになる訳だな」


「はい、なのでそれらの本を一つ一つ調べるのは面倒なので、一冊にまとめた総記がございます。そちらを読んでから詳細に調べたい年の本を読まれるのがいいかと思われます」


 司書はそう言ってカイラウル史総記と記された本を手渡してくる。


「ありがとな、そうするわ」


「では、また何かあればお申し付け下さい」


 そう言って司書が受付カウンターに戻ると、俺は机に座って歴史書を読み始める。一冊ぐらいならそのまま頭から読んでも面白そうだが、そんな事をすれば後片付けや引っ越し準備の時に本を読むのに耽る状態になってしまうので、本の後ろのページから捲って行って、現皇帝カスパルが帝位についた年を調べる。


「あったあった、えっと…カイラウル歴274年、新大陸歴で1424年…30年前か… えっと…なに? この年よりカイラウル歴をカイラウル帝国歴と改める…ってか…やっぱり現皇帝カスパルが国称を王国から帝国に改めたのか…」


「その年に支配国が出来たのか?」


「いや、出来たとは記載されて無いな…ホント自称だよな…」


 俺は呆れた感じで答える。


「しかし、先程の童話は24年前に作られたのじゃろ? で、カスパルが30年前に帝位についたというのなら、あの童話とカスパルとは無関係ではないのか?」


「いや、どうだろうな、先を読み進めてみるか…」


 そうしてページを捲って先を読み進めると、何々伯誰それの娘何々を妃として娶ったという項目がずらりと並んでいた。


「いやはや、スゲーな…歴史書でこんな項目がずらりと並んでページを埋め尽くしているのなんて初めて見るぞ?」


「いやいや、あるじ様の領地で領記をつくれば似たような状態になるぞ」


「…確かにそうだな…特に俺が適当に付けた蟻族の連中の名前がずらりと並ぶわけか…」


 次のページを捲って見るが、やはり同様に誰誰を妃にしたという記述しか記されていない。


「本当におなごの事しか記されておらんのぅ…」


「そうだな…多分種牡馬の種付け日誌ってこんな感じなんだろうな…」


 そんな感じにページを進めていると、あるところで違和感を感じる。


「ん?」


「どうした? あるじ様、誰か見知った名前があったのか?」


「いや、そうじゃないが、ここ…この年は一人しか嫁にしてないな… しかも、肩書が妃ではなく、情婦になってるし、名前も誰誰伯の娘何々じゃなくて、ただ単に名前だけが記されている…」


 俺は該当箇所を指先で示すとシュリが覗き込んで確認する。


「本当じゃのう… 毎年10人近くのおなごを仕入れておるのに、その年だけは一人じゃのう…しかも名前しか記されておらん」


「しかも年を見てくれ、あの童話が発行される一年前だ… これは何かあるな…」


「しかし、この本にはこれ以上の事は記されておらんぞ?」


「ならその年のカイラウル史の本を読んでみるしかないな、ついでにその年の前後も」


 そう言って俺たち二人は本棚を見る。


「えっと、童話が発行されたのが確か1431年じゃったな…しかし、本の背表紙を見る限りそんな年数の本は無いぞ?」


「あぁ、カイラウル歴で記されているんだよ、カイラウル歴だと281年だ、だからその前後の280年から282年の本を探せば大丈夫だ」


 俺とシュリは椅子から降りると本棚へと向かい目的の本を探し始める。


「えっと、280年…281年…282年…」


 俺は年代を言いながら本を探す。


「あった!有ったぞ!あるじ様」


 下の方を見ていたシュリが声を上げる。


「おぉ、有ったかシュリ、何年の奴だ?」


「280年と281年じゃ」


 シュリは本を本棚から抜き出して答える。


「という事は282年も近くにあるはずだな」


「一番下の棚にあったので、次の年は一番上では無いか?」


 シュリに言われて次の本棚の一番上を見上げる。


「おぉ、有ったぞ!282年だ!」


 しかし、目的の本は俺でも見上げる程高い位置にある。


「あるじ様、その本に手が届くか?」


「いや、背伸びしてもちょっと届かねえな… シュリ、ちょっといいか?」


 俺はシュリに向き直る。


「なんじゃ?」


「俺がシュリを抱きかかえて高い高いしたら届くと思う」


「あぁ、なるほど、では抱きかかえてくれ、あるじ様」


 シュリは本棚に向かって俺に背を向けて両手を挙げる。俺はシュリに徐に手を伸ばして掴む。


「おっと…そうきたか…あるじ様…一応聞いておくが…どうして脇ではなく、乳を掴むのじゃ? …しかも直接直に…」


 シュリは肩越しに振り返ってジト目で俺を見てくる。


「…そこに掴みやすそうな乳があるから?」


 俺はシュリの服の下に直接手を入れて直に乳を掴みながら答える。


「いや、その言葉は前にも聞いたわっ! 乳を掴みたければ自分の乳を掴めばよかろう! さぁ、わらわの乳で遊んでおらんで、さっさとわらわを高い高いせい!」


「分かった…」


 乳を掴んだ指の間にシュリの胸のぽっちを挟むことが出来た俺は、満足して素直にシュリの脇を掴んで高い高いをする。


「よし! 目的の本をとれたぞ! あるじ様、下ろしてくれい」


「分かった」


 俺はシュリをゆっくりと丁寧に下ろす。


「あ」


 下ろされたシュリはこちらに向き直った瞬間、声をあげる。


「どうしたシュリ、また乳を掴んで欲しいのか?」


「いや、あれを…」


 そう言ってシュリは少し離れた場所を指差す。


「あぁ、アレは脚立だな…」


「…最初からアレを見つけておれば、わらわの乳を掴まれんかったのに… まぁ良いわ、さっさと本を調べるぞ」



 



連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

pixiv http://pixiv.net/users/12917968

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