第657話 匂い…
俺たちはシャコエビを堪能して城の客室に戻った。俺の部屋担当のメイドのホノカが留守番をしており、留守中に何かあったか尋ねたが何もなかったようで、シャーロット達もまだ挨拶回りに出かけている様だ。
そこで俺たちはソファーに座ってくつろぎ、メイドのホノカがお茶を煎れてくる。
「お茶が入りました」
「おぅ、ありがとな」
お茶を差し出してくれたホノカに礼を告げるが、ホノカがじっと熱い眼差しを送ってくる。ホノカは口に出しては言ってこないが、これは…致しのお誘いだな…
ホノカ達肉メイド達は表面上は自分たちの恨みを晴らしアンデッドとしてだが蘇らせてくれたカローラに対して忠誠を誓っているので、カローラのいる前では俺とは親しくしたりしない。特にカローラに忠義の篤かったナギサ、ホノカ、ヒカリの三人はその傾向が強い。まぁ、骨メイドから肉メイドになった時の慣れてなくて身体が動かせない時に、全員頂いちまったんだがな…
で、ホノカはカローラに対して忠義を保ちながら陰で、俺との背徳感ある致しにドはまりしたらしく、ナギサとヒカリはケツを触っても手を払われるの対して、ホノカは無言でケツを掴ませてくれて、そのままスカートを捲り上げてパンツを降ろしてチェストォー!!しても受け入れる。それどころかフィニッシュ時に足をロックしてだいしゅきホールドしてくるぐらいだ。
んな、訳で今晩でもまた相手をしてやるか…
そんな事を考えているとカズオが声を掛けてくる。
「そういえば、旦那ぁ、大量に買い占めた鯨の肉はどうするんでやすか? 自領に戻ってから処理するんでやすか?」
「あぁ、鯨肉か…ちゃんと朝昼晩と食事のでる宿泊中に料理するのも何だが、自領に帰るまで我慢するのももどかしいな、ちょっと一品二品何か作るか、特にハリハリ鍋は早く食べたいしな…」
カズオに答えると俺はシュリに向き直る。
「なぁ、シュリ、確か収納魔法の中に農具も入れているって話していたけど、野菜などの収穫物とかもいれていないか?」
「収穫物までは入れてないのぅ、種なら入れているが」
シュリは飲んでいたティーカップを降ろして答える。
「んー その中に水菜の種はあるか? 後、ディートの育成促進剤も」
「あるぞ、両方。一々ディートに頼みに行くのも面倒なので、簡易の魔法陣板もあるから、国境の森に蒔いた木の苗みたいにすぐに育てる事もできるぞ、あまり数をこなす事は出来んが…」
「じゃあ、水菜を何束か栽培してもらえるか? 美味いもん作ってやんから」
「分かった、あるじ様が美味い物を食わせてくれるというのじゃ、一肌脱ぐか、よっこいしょっと」
シュリはババ臭い掛け声を上げてソファーから立ち上がる。
その時、部屋の扉がカチャリと開き、シャーロットの挨拶回りの護衛についていたはずのポチが幼女状態で姿を現し、俺の方へ駆け寄ってくる。
「わぅ! イチローちゃま! ただいま! ポチ帰ってきた!」
そう言って俺に飛びついてきたかと思うと、俺の手をクンクンと嗅ぎだして、そしてペロペロと舐め始める。
「イチローちゃまのおてて、いい匂い、それに美味しい味がする…」
「流石ポチ、シャコエビを食って来たのが分かったのか…」
ポチは俺の手を舐め終えると、身体を這い上がってきて、俺の口の周りまでペロペロと舐め始める。
「ポチ~ 何やっているのよ、イチロー様にしがみ付いて顔をペロペロして… んん? 何か美味しそうな匂いがする…」
ポチの後にやってきたカローラが、俺とポチの姿を見た後、匂いに気が付いて、クンクンと鼻を鳴らし始める。
「やっぱり美味しそうな匂いがする… シュリ! イチロー様と何を食べてきたの!?」
カローラは妬ましそうにシュリに向き直る。
「あぁ、街のレストランで、あるじ様にシャコエビをたらふく食わせてもらったのじゃ、『本物のシャコエビというものを食わせてやる!』というあるじ様の言葉通り、本物のシャコエビはそれもう大層美味かったぞ」
そう言ってシュリはまだ妊婦のようになった腹を擦って見せる。
「くぅ~っ!! こんな事ならイチロー様の方に付いて行くべきだったわ!!」
「いや、カローラよ、其方もシャーロットに挨拶回りについていて、会食もあったのじゃろ?」
地団駄を踏むカローラにシュリが片眉をあげる。
「陰キャ…いえ陰の者である私が、見ず知らずのおっさんと食事して料理の味を楽しめる訳がないでしょ!」
シュリはその言葉に『そんなん言われても知らんがな』って顔をする。
そして、そんなカローラの後ろからシャーロットとミリーズたちが姿を現す。そして、ミリーズは部屋に入るなり眉を顰める。
「くさっ! ちょっとこの部屋! エビの匂いが充満しているじゃないのっ!」
「うぁっ! 本当にエビの匂いが充満してますね… まるでエビがいるような…」
シャーロットは匂いに少し驚いている程度であるが、ミリーズは眉を顰めて鼻元を覆う。そして、俺をキッと睨む。
「イチロー! ちょっと『エビの人』って言われてはみ子にされたぐらいで、エビの匂いを充満させる事はないじゃない!」
「いやいやいや、僻んで嫌がらせの為に部屋の中にエビの匂いを充満させたりしねえよっ! ただ、外のレストランで、皆でシャコエビを食って来ただけだよ!」
「食べただけでこれだけの匂いを充満させるなんて…一体どれだけ食べてきたのよ…」
「一人50匹ほどかな~」
「50匹って…」
ミリーズはそう声を漏らした後、シュリにキッと視線を移す。
「シュリちゃん…こういう事にならないように、シュリちゃんにイチローの監視を頼んだのに…」
「す…済まぬ…ミリーズ殿、シャコエビが美味くてつい…」
シュリは申し訳なさそうに縮こまる。
「ミイラ取りがミイラに…いや、『エビの人』監視が『エビの人』になるって感じかしら…」
「ぐぬぬ…わらわまで『エビの人』になってしもたのか…」
「という事は、あっしも含めてあっしら三人は『エビの人たち』って事になりやすね…」
カズオも申し訳なさそうな顔をしてそう漏らす。
「はぁ…イチローがこの状態だったら、明日もシャーロットに同行してもらうのは無理ね…さらに匂いを漂わせる『エビの人』になっちゃっているんだもの…」
ミリーズはそう言って頭を抱える。
「いや、風呂入れば明日には匂いも取れるだろ?」
「いいえ! お風呂に入っても落とせそうにないほどエビの匂いが充満しているのよ! もはや、手や口だけでなく身体からもエビの匂いを醸し出しているんじゃないの!? ポチちゃん! するでしょ?」
「する」
ミリーズに尋ねられたポチは一言で答えたので、俺も再びポチにたずねる。
「えっ!? マジで!?」
「うん、する」
「やっぱり… 明日もイチロー抜きで回らないとダメなようね…」
ミリーズは再び頭を抱える。
「いやいやいや、待ってくれ、風呂に入って香水付ければ大丈夫だろ? 何ならヴァンパイアの襲撃の時に作ったディート特製のヴァンパイア除け香水もあるぞ?」
「何を言っているの! イチロー!! あんなものを付けたら今度は『エビの人』どころか、『うんこの人』って思われるでしょ!!!」
ミリーズは口角泡を飛ばして声を荒げる。
「ちょ…『うんこの人』って…」
「いい! イチロー! 『エビの人』程度なら、『この人、本当にエビが好きなんだぁ~エビの匂いがする』程度で済むけど、『うんこの人』の場合は、『この人、うんこの匂いがする…うんこ漏らしているのかな…』って思われるのよ!! 私、とてもそんな人間をつれて回れないわよっ!!」
そういってミリーズは手で顔を覆って真剣に嘆き始める。その後ろでは、結構他人事の様に思っているシャーロットが笑いたいのを我慢して、肩をプルプルと震わせている。
「…確かに…『エビの人』ぐらいの話しだったら、俺も受忍限度の範疇だけど… うんこ漏らしていると思われる『うんこの人』は受忍限度の範疇外だ…」
俺がそんな独り言のような言葉を漏らすと、嘆いていたミリーズがキッと顔をあげる。
「普通の人は『エビの人』も受忍限度の範疇外なのよ!」
「ぶふっ!」
そのミリーズの言葉にシャーロットが堪え切れずに吹き出してしまう。
「え…? シャーロット…なに?」
「いや、ご、ごめんなさい…な…なんでもないのよ…」
シャーロットは口元をひくひくさせながら必死に誤魔化す。
「まぁ…いいわ…そう言う事でイチロー… 明日も別行動よ…分かった?」
「…分かったよ…」
俺は仕方なく答える。すると、今まで黙っていたカローラが港にいた仲買人の爺さんのように揉み手をしながらミリーズに話しかける。
「あのぅ~ ミリーズ…さん、明日の護衛の件だけど、私はその…シュリと交代と言う事でよろしいでしょうか?」
卑下た笑みを浮かべる。
「ダメよ、カローラちゃん…シュリも『エビの人』になっちゃっているから、明日もこのままカローラちゃんに護衛をお願いするわ」
「えぇ~っ!! 私も美味しいものお腹いっぱい食べたいのにぃ~!!」
カローラの絶叫が部屋の中に響いたのであった。
連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei
pixiv http://pixiv.net/users/12917968
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