第626話 泥団子

「なんじゃ、あるじ様か」



 作業部屋の扉を開けた瞬間、俺の存在に気が付いたシュリが声を掛けてくる。



「人手がいるって話を聞いたからやって来たんだけど…何やってんだ?」



 シュリの姿を見てみると、バケツを裏返して椅子代わりにして座り、自身の両隣に土の入った桶と麻袋を置いて、大量の泥団子を作って目の前に並べている。



「あぁ、木の苗をつくっておるんじゃよ」


「木の苗? 俺は泥団子にしか見えないんだが…」


 俺はシュリに近づいて泥団子を一つ手に取って見る。


「それはディートに魔法処理をしてもらう前じゃからな」


 シュリはそう言うと麻袋の中から種を取り出して土の中に入れて丸めて泥団子にしていく。なるほど、この泥団子の中には木の種が入っているのか。


「それでなんでこんなもんを大量に作っているんだ?」


 視線を泥団子からシュリに移す。


「それはアンデッドの大軍が来た時にカイラウルとの国境の森を焼き払ったじゃろ、この地を守るためとは言え、あのまま放っておくわけにはいかんじゃろ」


「あぁ、あの時の国境の森を気にしていたのか…それでこんな大量に泥団子状の苗を作っていたのか… でも、あの面積をこの量で足りるのか?」


 シュリが大量に泥団子を作っているとは言え、その数は未だ100、200個程だ。球場の広さ単位で燃やした国境の森の事を考えると、全く足りないと思われる。


「全然足りんじゃろうな… しかし、全く何もせんよりマシじゃ、今用意出来る木の種はこれだけじゃが、また集まった時に作って徐々に蒔いていけば国境の森も元に戻るじゃろうて」


「しかし、なんでそんなに国境の森の事を気に掛けるんだ? こんな事をしなくても時間を掛ければ勝手に戻っていくだろ?」


 するとシュリは少し目を細めて寂しいような悲しいような顔をする。


「人間…特に土地の所有権の事を考えるあるじ様にとってはそうじゃろう… 領内で木を伐採したところはちゃんと植樹をして後々の資源の事を考え、自分の資源には使う事の出来ん国境の森の事など考えなくて当然じゃ… じゃが…」


 シュリは目を伏せた。


「あるじ様の下に下る前のドラゴンであるわらわは森に住む獲物を糧にしておった… それらの獣は森が無いといなくなってしまう… 焼け焦げた森を見るのは、あるじ様にとって荒れ果てた畑を見るのと同じなんじゃ…」


 そのシュリの語る姿に俺は自身の発言に配慮がなかった事に気が付く。もうずっと同じ物を食べて同じ物を飲んでいたからシュリの事を人間と同じように考えていたけど、シュリがドラゴンであり、その習性の事を失念していたのだ。


「すまん、配慮が足りんかったな…」


 俺は素直に詫びを入れる。するとそんな俺の姿を見て、シュリはフッと笑って顔を上げる。


「いや、構わんよあるじ様、わらわが勝手に少し感傷に浸っておっただけじゃ」


 そう言って笑みを見せる。


「とりあえず、俺も泥団子を作るのを手伝うから土と種を俺にも分けてくれるか?」


「あるじ様がわらわを手伝って下さるのか、ありがたいのぅ~ ちょっと待っておれ」


 そう言って、ご機嫌になったシュリは俺の分の土と種を用意してくれる。


 体力を使ってムラムラを発散するのも一つの手段だが、ものづくりに集中して心を落ち着かせる事でもムラムラを押さえつける事は出来るだろう。俺はシュリの用意してくれた種をおにぎりの具材を入れる様に土の中に入れて握り始める。


「ん? よく見たら色々な種があるな…」


「あぁ、一種類では数が用意出来ないのと、様々な種類の木があった方が森が豊かになるからのぅ~ ここいらで育つ果実の種も入っておるぞ」


「なるほど、では木が大きくなって実をつけたら採りにいくのもいいな」


 そんな話をしながら集中して泥団子を作り続ける。



 気を整え 種を摘まみ 土に入れて 握って 置く

 一連の動作を一回こなすのに最初は50~70秒

 10回の泥団子を作り終えるまでに10分以上費やした。

 泥団子を作り終えれば、また種を摘んで泥団子を作る時の流れ…

 50個を作り終えたところで異変に気が付く

 10個を作り終えても10分を過ぎていない

 50個を作り終えて完全に羽化する

 ムラムラ解消の泥団子作り10回 10分を切る!!

 かわりに目の前に並べられる泥団子が増えた

 最後の種を摘まんだ時 イチローの泥団子作りは ムラムラを置き去りにした


 

 そんな感じに何処かの会長の様な事を考えていたら、本当に最後の種となった。


 うーん…最後の一個か…普通に握っても面白くないな…



「シュリ、ちょっと砂はないか?」


「砂? あるが何に使うのじゃ?」


 そう言いながらシュリは部屋に置いてある砂の入った土嚢を持ってくる。


「砂を泥団子にまぶして、手拭いできゅっきゅっと磨いていくと… ほれ! どうだ! これが真の泥団子というものだ!」


「おぉぉ!! 土が輝いておるっ! 宝玉じゃ! 土の宝玉じゃ!! あるじさまっ! わらわにその宝玉を見せてくれっ!」


 シュリが瞳を輝かせて異常に興奮して手を伸ばしてくる。


「ほれ、今回はさっと磨いただけだが、目の細かい布とかでもっと時間をかけて磨くと、マジもんの宝玉のようにてっかてかに光るぞ」


「それは誠か! あるじ様よっ! わらわが磨いていくのでこの宝玉をわらわに貰えんかっ!?」


 光り物に興味をしめすなんてカラスみたいだなと思ったが、よく考えたらシュリは光り物が好きなドラゴンだった… 今まで金や銀の貴金属には興味を示さなかったのに土の泥団子の輝きに興味を示すとは…シュリらしいな…


「元々はシュリの用意した土と種で作った物だから別に構わんけど…国境の森跡地に蒔く筈の物じゃなかったのか?」


 近くの水場で手を洗って備え置きの手ぬぐいで手を拭いながら答える。


「あるじ様が作って下さった宝玉じゃ! 勿体なくてそこらに蒔ける訳がなかろう!」


 シュリは掲げた泥団子を眺めながら答える。


「まぁ…シュリがそう言うならそれで構わんけど… それよりもこの泥団子はこの後どうするんだ? このまま国境の森に蒔きに行けばいいのか?」


 泥団子を眺めるシュリに近寄って尋ねる。


「いや、このままでは中に木の種を入れたただの泥団子じゃ、この後ディートに成長促進の魔法処理を掛けてもらわねばならぬ」


「じゃあディートを探して呼んで来ればいいのか?」


「ディートが言うには専用の魔法陣の上で専用の魔法薬を散布して処理をしなければならないそうじゃ、だからディートの作業部屋まで運ばねばならん…ところであるじ様よ…」


 ジト目でシュリが俺を見てくる。


「なんだ?」


「…どうしてわらわの乳を揉んでおるんじゃ…」


 シュリに言われてはっと気が付くと、俺は無意識にシュリの胸を服の上から揉んでいた…


 恐らくものづくりの集中が切れて、押さえきれないムラムラが無意識にシュリの乳を揉ませたのであろう…


「そ…そこに…乳がある…から?」


 俺はどこぞの登山家のように答える。


「自分で掴んでおいてなんで疑問形なんじゃ… まぁ良い… あるじ様にはこの土の宝玉を頂いたからのぅ、乳ぐらい揉ませてやろう」


 シュリは俺に乳を揉まれている事を気にすることなく、再び泥団子を眺めはじめる。


 くそぉ~ シュリの奴…こんな俺好みの凶悪な乳をしていて、俺に揉みしだかれておきながら、何一つ感じる様子が無いとは… やはり元々のドラゴンには無い器官だから性感帯とかないのか?


「話は戻るが、この泥団子をディートの所に持っていけばいいのか?」


「そうじゃ」


「じゃあ、俺が収納魔法に入れてディートの所に持っていくから、シュリはその泥団子でも磨いていろよ」


 そう言って俺は泥団子を収納しようとして動く。


「いたたたたたたぁ!!!」


 突然にシュリが声を上げるので振り返る。


「どうした!? シュリ!」


「どうしたもこうしたも無いわっ! わらわの乳を掴んだまま動くな! あるじ様よっ!」


 言われて見てみると、俺はシュリの乳を掴んだまま動いていて、シュリの乳を引っ張っていたので慌てて手を離す。性感帯はないのに痛覚はあるのか…


「すまんすまん、シュリの乳の揉み心地が良かったんで手を離すのを忘れてたわ」


「忘れたで済むかっ! 千切れるかと思ったぞ! あぁ… あるじ様が強く掴むから赤くなっておるではないか…」


 シュリは胸元を開いて掴まれた胸を確認する。俺が掴んだ所が赤くなっているのが見えたがついでにシュリの俺好みの薄い色をした乳首も見える。


 …くっそ! 乳首もあるなら服の上からではなく、直に触って乳首も摘まんでおけば良かった…種を摘んで乳首を摘まないなんて…俺は何をやってんだよ…


 シュリは俺の視線に気が付いたのか、さっと胸元を隠す。


「もう揉ませてやらんぞ! あるじ様! それにどうせなら乳首も摘まんでおけば良かったとか思っておるじゃろう… 乳首を摘ままれておったら本当に千切れておったぞっ!」


 なんでこういう時に、俺の心裏をズバリと読んでくるんだよ…


「分かったよ… 本当にすまんかった… 詫びに俺がこの泥団子をディートの所へ持っていくから…」


 これ以上乳を見ていたらムラムラが収まらん…


「分かったのならいい… わらわは部屋に戻って薬を塗ってくる… あの薬は虫刺されだけではなく腫れにも効くからのぅ…」


 あの薬って…あぁ、カズオがいらん遊びを覚えたやつか…まだ持っていたんだな…


 そうして部屋に戻るシュリの背中を見送りながら、俺は泥団子を収納魔法の中へしまっていったのであった。


連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

pixiv http://pixiv.net/users/12917968

ブックマーク・評価・感想を頂けると作品作成のモチベーションにつながりますので

作品に興味を引かれた方はぜひともお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る