第613話 BL晩餐会
ブラックホークとルミィーが訪れた日の夜、二人を歓迎する意味で、会食形式の晩餐会が執り行われた。そこでブラックホークとルミィー、そしてシャーロットがお互いを紹介した。
ルミィーは勿論、ブラックホークも39人以上いる王女の一人なのでシャーロットの事は知らなかったようであるが、逆にシャーロットの方はブラックホークの事を知っていたようだ。
「まぁまぁ! 貴方がかの有名なヴァンパイアハンターのブラックホーク様ですのね! ご活躍のお噂は私の耳にも届いておりますわ! なんでも一度首都カイラウルに現れたヴァンパイアも討伐してくださったのよね? 下々の者が噂しておりましたわ!」
「あぁ、あの時の事か… 船の乗客に紛れ込んでカイラウルに上陸したヴァンパイアだったな… 大した敵ではなかったと思う… ただ、今の俺はヴァンパイアハンターを辞めて、ただの冒険者となった… まぁ依頼があればヴァンパイアの討伐も行うがな」
「あら?そうですの… どうしてヴァンパイアハンターをお辞めになったのか理由を聞かせて頂いてもよろしいかしら?」
屈託のない表情のシャーロットに聞かれると、ブラックホークは隣に座るルミィーに視線を向けて暖かな笑みを浮かべる。
「ヴァンパイアに攫われていた妹のルミィーをようやく見つける事が出来たのだ… だから敢えてヴァンパイアばかり狙う必要もなくなったんだ」
「あっ…ブラックホーク・ジョンの妹のルミィーと申します。初めましてシャーロット様」
ルミィーははにかみながらシャーロットに小さく会釈する。
「まぁまぁ! ヴァンパイアに攫われた妹を助け出すだなんて素晴らしいですわ! それにこんなに可愛い妹さんが… ん? 妹…さん?」
挨拶してきたルミィーに視線を移したシャーロットが何か違和感を感じたのか、マジマジとルミィーの事を見始める。
男の俺からすれば、完全に女の子にしか見えないが、やはり女性の視点では本物の女の子かそれとも男の娘か分かるのだろうか…
「あぁ、ルミィーをこうしてヴァンパイアから取り戻す事が出来たのだが… どうやらヴァンパイアどもにおかしな処置をされたようでな… だから、ルミィーの身体を元に戻す為にこうして二人で旅を続けている訳なのだよ」
見破られたと思い困惑するルミィーの横で、ブラックホークはワインを飲みながら平然とした涼しい顔で答える。
「あぁ、なるほど…そういう訳でしたのね…納得致しましたわ!」
「えっ? えっ!?」
シャーロットもブラックホークの言葉に納得したようでうんうんと頷く。ブラックホークとシャーロットが何事も無かったかのように食事を続ける中、困惑するルミィーはブラックホークとシャーロットの二人を交互に見る。
…ってか、ブラックホークの奴… デミオ…いやルミィーがアレが生えているというか男の娘って知っていたのかよ… しかし、どうやって知ったんだ? まさか直に見て確認したのか?
そこへカズオが追加の料理を持ってくる。
「旦那ぁ~ ヴィクトル爺さんの新作のソーセージとオイナリサンのセットでやす! どうぞ、お召し上がりくだせい!」
「ぶほぉっ!」
俺は口にしていた水を吹き出しそうになる。
「旦那ぁ、大丈夫でやすか? 落ち着いたらとりあえず、これを召し上がってくだせい」
カズオはそう言って俺の目の前に一本のソーセージと二つのお稲荷さんの載った皿を差し出す。
「…カズオ…お前、狙ってやってんのか?」
「は? 何の事でやす? それよりもヴィクトル爺さんが皆さまの感想を聞きたがってやしたよ」
カズオの顔を見ると本当に何も知らないような顔をしている。まぁ…ブラックホークとシャーロットの会話にルミィーのアレの話が出るなんて、エスパーでもない限り分からんからな…
「知らないのならいいや… しかし…これ… どんな顔して食って…どんな感想をすればいいんだよ… すべすべぷるんとした少年の様な味わいとか言えばいいのか…?」
「ぶほぉっ!」
「ちょっとミリーズ!」
俺がそんな言葉を漏らした瞬間、誰かが吹き出したような音が響き、その後にアソシエの声が響く。何が起きたのかと思って見てみると、ミリーズがテーブルの上に突っ伏して、ピクピクと肩を震わせていた… 恐らくショタBL好きなミリーズが俺の言葉に反応して我慢できずに吹き出したのであろう…
「あら? ミリーズ様、大丈夫ですの?」
「急いで食べると喉を詰まらせるぞ」
諸悪の根源であるシャーロットとブラックホークが何食わぬ顔…いやすべすべぷるんとしたソーセージをモグモグと食う顔で声を上げる…言い出しっぺのお前らが、良く平然とこれを食えるな…
そんなブラックホークの隣では当事者の一人であるルミィーが耳まで真っ赤になって顔を伏せている… そりゃまぁ…そうなるわな…
「ミリーズ…大丈夫?」
「聖女の貴方に何かあっても私たちじゃ治せないんだから…」
「…大丈夫…大丈夫よ… ちょっと…深手を負っただけだから…」
そんな中、ネイシュとアソシエの介護を受けてミリーズが回復しつつあった。
「ふむ、このソーセージ、熟成が未熟でまだ若々しいがぷるんとして中々の味だったな」
「このオイナリサンというのも、ふんわり柔らかくて大変美味でしたわ」
「ぶはぁっ!」
起き上がろうとしていたミリーズであるが、ブラックホークとシャーロットの感想の言葉を聞いて再び吹き出し、今度は床の上に倒れ込む。
「ミリーズ!」
「ちょっと! 白目をむいて痙攣しているわ!」
「…今度は…ダメ…致命傷…だわ…」
心配する二人にそう言い残してミリーズは痙攣する。
「チョット誰か、ミリーズを横に出来る所に運んでやってくれないか? 後、マリスティーヌ、ミリーズに鎮静魔法を掛けてやってくれ」
「えっ? そんなのでミリーズさんが治るんですか?」
ミリーズの事を心配するマリスティーヌは俺の対処に疑問を投げかける。
「あぁ、それで治る。絶対に治るはずだ… でも再発すると思うから、何度か鎮静魔法を掛けてやってくれ…」
「わ…分かりました…やってみます…」
こうしてミリーズはネイシュやアソシエ、マリスティーヌに付き添われながら、蟻族に担がれて晩餐会の会場から運び出されていく。
「ミリーズ様、体調がよろしくないのかしら?」
「回復担当が体調を崩すのは良くないな」
そんな運び出されるミリーズを見て、ブラックホークとシャーロットがそんな感想を漏らす。加害者の自覚がないっていうのは怖いな…
「ところでルミィー、先程から食事の手が進んでいないようだが、ルミィーも体調が悪いのか?」
ブラックホークの隣で耳まで真っ赤にして黙りこくっていたルミィーがブラックホークに声を掛けられ、ピクリと肩を震わせる。
「いや…その…わっ…私はもうお腹いっぱいで…」
「そうか… 食が進まないのなら仕方が無いな… だが、折角もてなしで出してくれた料理だ。お前のソーセージとオイナリサンは私が頂こう」
ぐほっ!
俺は必死に口元を覆う。
…良かった…先にミリーズを運び出して貰っておいて…もしミリーズがいたなら、先程の言葉…致命傷で済まなかったであろう…
こうして、晩餐会は色々とあったが終了したのであった…
連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei
pixiv http://pixiv.net/users/12917968
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