第589話 作戦開始!
俺とブラックホークは高台にある元々はカイラウルの貴族が住んで居たと思われる、貴族の館を望遠魔法で様子を伺う。やっぱり貴族と言うのは一般市民を見下ろす高台が好きなのか、下の町が見下ろせる高台の丘の上に館を立てていて、しかも下の街並みの家屋と比べると大層豪華な作りになっている。
しかし、元々住んで居た貴族はもうおらず、見下ろすはずだった下の街の住民も既にいない。前の魔獣の侵攻で全滅し、その上で先日のアンデッドの大侵攻もあったので、死体の一つも残されていはいない…
「ふむ…いかにも傲慢なヴァンパイアどもがねぐらにしそうな館だな…」
ブラックホークは望遠魔法で館を観察しながらそう漏らす。
「まぁ、そのヴァンパイアの好きそうな館を作ったが、傲慢な貴族と言うのか人間の貴族も奴らと大して変わりないということだな」
俺がそうこたえるとブラックホークは望遠魔法を停止して、俺に向き直る。
「それで、本当にカローラを奴らの館に先行させたのか? 話をさせると言っていたが、ヴァンパイアにとっては外に出る事のできないまだ日中なのだぞ?」
「その辺りに関してはちゃんと対策もしているし、一応ヤマダも付いて行くと言っていたから大丈夫だろう」
ホント、ヤマダはカローラの忠実な良い弟をやってるよな… しかし、ヤマダがあそこまで尽くすとは… そんなにカローラが本当の姉に似ているのであろうか? 日本のヤマダの本当の姉を一度見てみたいものだ…
「イチロー、それで第二、第三の作戦の準備の方は大丈夫なのか?」
「あぁ、第二作戦の方はシュリに任せておけば大丈夫だ。そうだろ? シュリ」
俺は側にいるシュリに声を掛ける。
「あぁ、大丈夫じゃ、城での防衛戦ではわらわの火力が強すぎて味方を巻き込む恐れがあったのでのぅ~ ここでなら大丈夫じゃ」
シュリは二っと笑ってサムズアップをする。
「そうか、頼むぞシュリ! 次に第三作戦の下調べについてだが、ちゃんとポチが見つけてくれている、なぁポチ!」
「わぅ! ポチ! すぐに見つけた!」
フェンリル状態のポチは尻尾をパタパタと振りながら答える。うんうん、ポチはフェンリル状態でもやっぱり可愛いなぁ~
「ふむ… やはりと言うか…当然、あったのか… 館の抜け道…」
「あぁ、貴族たちは下町の人間を見下ろすような館を建てておきながら、そのくせ内心では、反逆されるのではと恐れているからな、敵や領民の暴徒が徒党を組んで館に押し入った時に隠れ潜む隠し部屋や秘密の抜け道があるのは当然だ」
「では、俺とイチローはそこに忍び込んで、カローラの話の途中や、第二作戦の後に逃げてきた奴らをそこで待ち構えていたらいいのだな…」
「あぁ、そうだ」
「しかし…本当に俺とイチローの二人だけで奴らを待ち伏せするのか? そこのフェンリルのポチも待ち伏せには参加させないのか?」
ブラックホークはポチを見る。
「ポチはこの後、地上での警戒に当たらせるつもりなんだ。あり得ないとは思うが、日中の空に逃げ出すバカなヴァンパイアがいないとも限らないからな…一応保険の為だよ」
「なるほど、そういう事か… フェンリルならば、逃げ出しても臭いで追跡できる。そして、辺りの森の木陰を使って逃げ出したとしても、森の中でフェンリルの追撃から逃れられるものなどいないだろうな」
ブラックホークはポチに手で触れるとフフっと鼻で笑う。
「わぅ! ポチ、森での獲物は逃さない!」
「納得してもらったら、作戦の最終確認だ!」
俺が声を上げると、皆は真剣な顔で俺に注目する。
「ブラックホーク、奴らがあの館にいる事は間違いないな!?」
「あぁ、この通り、追跡魔道具も館を指し示したままだ」
ブラックホークは追跡魔道具を懐から出して俺たちに見せる。追跡魔道具を見せる。魔道具は確かに館を強く指し示している。
「よし、大丈夫だな! 後は先行しているカローラが全員揃っているかを確認する。全員揃っていない場合にはカローラから連絡があるが、無い場合は全員そろっているものとして作戦を進める!」
ここがブラックホークが一番懸念を示していた所であるが、もう作戦開始時間まで猶予がないので、納得している様だ。俺たちの方は全面的にカローラの俺たちを裏切らないという事を信用しているので心配していない。ただ、カローラがポカをするのは心配だが…
「そして、第二作戦の時間が来れば、シュリは遠慮せず盛大にぶっ放してくれ、皆、時間合わせの魔道具はちゃんと持ってるか?」
俺がそう言うと、皆時間合わせの魔道具を出して見せる。皆の懐中時計の様な魔道具は、ちゃんと針が動いており、第二作戦開始までの時間は残り15分となっている。ポチの首に下げられた魔道具もちゃんと残り15分を指し示している。
「よし! 時間は大丈夫だな! 後、第三作戦で、隠し部屋や秘密の抜け道に逃げ出してきた奴らを待ち伏せし討伐する! シュリは第二作戦の後、上の方から隠し部屋や抜け道へと合流してくれ」
「わかったのじゃ!」
シュリはドンと胸を叩いて力強く返答する。
「ここで作戦の中止や失敗して、奴らを取り逃がす事は出来ない! 絶対にここでヴァンパイアとの争いに終止符を打つぞ! 何か問題が発生しても、問題を解消して必ず役目をやり遂げてくれ! では! 作戦開始だ!」
俺の声に皆が決意を秘めた顔でコクリと頷く。
「じゃあブラックホーク行くぞ!」
「あぁ!」
俺とブラックホークは早速駆け出す。
「ポチが調べてくれた館への秘密の抜け道は、この先にある狩猟小屋の毛皮の敷物の下だ!」
「館から随分と離れた場所にあるのだな」
「まぁ、近いと暴動とか起きた場合にすぐ見つかっちまうからな、おっあそこだ!」
森の中を駆けている先に狩猟小屋が見えてくる。そして、小屋に辿り着いた俺たちは扉を開けて小屋の中に入る。
「抜け道の先の場所とは言え、結構生活感のある小屋だな」
「まぁ、逃げ出した際、暫くここで隠れ住む必要があるかもしれんからな、この敷物の下だな…あったぞ」
ブラックホークと話をしながら毛皮の敷物を捲ると隠し扉が出てくる。そして、その扉を開け放つと暗い空間にそこに伸びる梯子が目に映る。俺は照明の魔法を使って抜け道の中を照らし出す。
「狭いな…側面は石壁ではなく土壁か」
「とりあえず、館との距離があるからさっさと降りて先に進むぞ」
俺たちは抜け道の中に梯子を使わず飛び降りる。そして、なんとか男一人が歩ける幅の抜け道を駆け出していく。
「おっ! 石壁の場所が見えてきたな!梯子もある!」
「うむ、俺の追跡魔道具も上を指し示している。恐らくここが館の下あたりなのであろう」
「よし、昇っていくぞ!」
俺たち二人は梯子を上り、上の跳ね上げ扉を押し開ける。
「どうだ? イチロー 中の様子は?」
「ん? 部屋かと思ったらここ三叉路の通路の途中だぞ?」
俺は梯子を昇り切り、通路に出る。
「本当に三叉路だな… どうするイチロー ここで待つか?」
俺は少し考え込んだ後答える。
「いや、時間は少しあるから二手に分かれて調べよう… もしかしたら他の場所に続く抜け道があるかもしれん」
「なるほど、その可能性は確かにあるな… では時間がない、すぐに調べよう!」
こうして、俺とブラックホークは二手に分かれて館の地下を調べ始めたのであった。
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