第577話 ドズノレ中将のいう事は正しかった

「ア、アンデッドの群れ!? どこにどれぐらいの数現れたんだ!? アンデッドの種類は!?」


 俺は報告をした蟻族に矢継ぎ早に尋ねる。


「はい! キング・イチロー様! 場所はカイラウルの国境付近! 数はあまりにも多くて数えきれませんっ! アンデッドが五分、地面が五分に見え、それが地平線まで続く有様でした! アンデッドの種類ですが、人間がベースになったものと先日この領地を襲った魔獣がベースになったものが半々といったところで、形状は死肉を纏ったゾンビ状態のものから骨だけになったスケルトン状態になったものまで多岐にわたります!」


 普段、感情の起伏に乏しい蟻族が興奮気味に述べる。やはり蟻族と言えど、この数はかなりの脅威に思えるのであろう。


「なんという数だ! 一体どこからそれだけの数のアンデッドを用意したのというのだ!」


 マグナブリルも驚愕の声を上げる。


「イチロー様、それだけの数、そして魔獣を含んでいてカイラウル方面という事でしたら、先日のカイラウル方面に魔獣が侵攻した時に出たカイラウルの領民の犠牲者と打ち倒された魔獣を使ったものと思われます。レヴィンとトレノのやりそうなことです…」


 カローラはこの状況に慌てず騒がず淡々と述べる。


「先日のカイラウルの魔獣の進攻時の物って… あの時、カイラウルは殆ど壊滅したよな… マグナブリル… カイラウルの総人口ってどれぐらいか分かるか?」


「他国の事なので正確な数は分かりませぬが… 我がイアピースと同じ大きさの国土を持ち、また気候にも恵まれている事を勘案致しますと、凡そ100~120万かと…」


 マグナブリルは困惑と焦燥の声で答える。


「100~120万って… その内、前回の侵攻で2割ほど生き残っていたとしても80~90万の死者…そこからどれだけアンデッド化させたんだ!?」


 ガソダムのドズノレ中将が戦いは数だって言ってたのが凄く正しい事が良く分かる状況だ。2000程の領民に蟻族が120人程、それにダークエルフが10人、俺たちメンバーを加えてもそんな数相手に出来ないぞ!! 洪水や津波を人の手で止める様な物だ! ここまでの数になると天災レベルだぞ!!


「イチロー様、ご安心下さい。全ての死体がアンデッド化出来るわけではなく、死体の状態が重要ですので、魔獣に食い殺された死体ならあまりアンデッド化出来ないでしょう。それにレヴィンとトレノの性格ですから、数十人しか住んでない村を一々回るのではなく、人口の集中した町や大都市しか回ってないと思われるのでもっと数は少なくなります。だから最終的には一、二割というところじゃないですか?」


「いやいや! 一、二割って言っても10~20万だぞ!? それに報告通りなら同等数の魔獣のアンデッドもいるんだぞ!? 20~40万の軍勢じゃねぇか!!」


 単純な数で計算すればこちらが2000程で相手が40万…キルレシオ1:200って無茶すぎる話だ… 実際にこちらで戦える人員はもっと少ないからな…


「それに状況はもっと悪うございます… 籠城するにしろ、出来上がりつつある城下町は捨てる事になりますし、そして前回の収穫後と違って今回は収穫前の時期…」


「あっ!」


 マグナブリルの言葉で現状が最悪な状況であることに、俺でも気が付いた。


「カイラウルの国境より進軍してくる40万ものアンデッドに収穫前の畑を踏み荒らされたのでは、もはや収穫することは叶いませぬ… 例え籠城で耐えきったとしても、後に来るのは食料の無い冬… とても越えられるとは思いません…」


「確かに籠城して城の中からぺちぺち攻撃していれば勝てるかも知れないが、それをすると畑は絶望的だな… 収穫までまだまだ先だしな… 想像を絶する飢餓が発生するぞ」


「領外に食料購入を望もうとしても、今までの設備の拡張や今回のヴァンパイアの対策費でかなり資金を使っておりますので、かなり厳しいですな… 今領内では、ガラスなどを筆頭に交易的に価値ある物が作られておりますが、価値があるというだけで実際に交易できぬ状態では食料の代わりに口にする事も出来ませぬし、畑が壊滅した後で交易して食料を得ようとしても、足元を見られ、こちらにとってかなり不利な契約を要求される可能性がございます」


 マグナブリルは、ただ飢餓を回避する方策だけではなく、その先の交易を見据えた提言をしてくる。このあたりは流石、イアピースの元宰相だけはある。


「つまり…マグナブリルとしては、畑を踏み荒らされる前に、カイラウルの国境付近で対処しろと言いたいのか?」


「然り! 畑を踏み荒らされてはこの地の未来はございませぬ! また、国境付近は互いにいらぬ警戒や不信感を抱かないように、村や畑はございませぬ。いらぬ配慮をすることなく戦闘の大規模攻撃などを行う事ができます」


 マグナブリルは内政的には打って出ろと言っているのだ。


「やるしかないようだな… 分かった! 城の主だったメンバーを今すぐ会議室に集めてくれ! 今から出撃の作戦とそのメンバーを決めるぞ!!」


「わかりました! アルファー! 伝令を頼む!」


 マグナブリルは秘書兼護衛に使っている蟻族のアルファーに指示を飛ばす。


「分かりました。マグナブリル様! ただちに!」


 アルファーはそう答えると、スカートをちょいと摘まむと瀟洒に駆け出していく。


「続けて悪いが、マグナブリルとカローラは引き続き、城にある戦闘用の備蓄がどれだけあるか調べてもらえるか?」


「それは凍らせた聖水武器だけではなく、回復剤や魔石、その他の戦闘用アイテムって事ですよね?」


 カローラが尋ねてくる。


「おぅ、そうだ、肉メイドを使ってそれらの在庫を調べてくれ! それが戦略を決める重要アイテムになる可能性がある!」


「わかりました! イチロー様! ホノカ! すぐさまメイド達に調べさせて!」


「カローラ様、ただちに調べます!」


 そう言って肉メイドのホノカもスカートをちょいと摘まんで、アルファーに負けじと駆け出していく。


「俺は食堂に寄ってからすぐに会議室へと向かう!」


 そう言って執務椅子から立ち上がる。


「食堂のカズオ殿に御用ならメイドに呼びに行かせますが?」


 マグナブリルが俺の意図が分からず声を掛けてくる。


「いや、朝も昼も食ってないから腹が減ってんだよ! すぐに食えるものを貰っていくから!」


 俺はそう言って食堂へ駆け出して行ったのであった。



 


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