第564話 帰ってきたクリス

※祝合算190万PVを達成しました~! 皆さまありがとうございます~♪


「こちらです! イチロー様!!」


 俺はフィッツの後に続いて城の城門へと駆け出していく。あのクリスが帰ってきたというからだ。

 クリスは俺がこの城に戻った時には既に2週間、そしてシュリの事でなんやかんやあって更に1週間、合計三週間、防衛のある城を離れて過ごしていた事になる。

 なので、多くの者がクリスは既にヴァンパイアにやられたものと考えていた。現にこの領地から逃げ出そうとしたものや、城に疎開せず元の住み家に隠れ潜んでいた者は、蟻族の領内のパトロールにて、ヴァンパイアの襲撃受けて亡くなっているのが確認されていたからである。


 だから、そんな領内で三週間もクリスが生存していた事が驚きなのである。姿を見るまでは未だに信じられない。



「イチロー様! あれです!!」



 そう言って、フィッツが城門の所にいる人影を指差す。腰にはまるで番族の様に獲物の首をぶら下げ野盗の様に獣の毛皮を纏った姿、全体から漂う不潔さ、そして獣の血と脂でべとべとになった槍…



「やぁ! イチロー殿! 久しぶりだな!!」



 そう言って、垢黒くなった笑顔で手を振り出すクリス。



「クリス! 生きとったんか! ワレェェ!!」



 俺は思わず漫☆画太郎の絵柄のような顔で叫んでしまう。



「ハハハ! 何を言っているのだイチロー殿! 私はこの通りピンピンしておるぞ!」



 確かにこの小汚さ、野生感、空気の読めない所は確かにクリスだ!



「お前、この三週間何してたんだよ!」


「何をしていたって、狩りにきまっているじゃないか、見てくれ! この狩りの成果を!!」


 

 そう言って、番族が文明人が使っているのを真似て作ったような荷車を見せる。荷車はクリスが森の中でそこらの枝や木を槍を使って加工して作ったものらしく、とても文明人の作ったものとは思えない代物だ。その上にサバイバル状況下で燻製にしたらしき鹿や猪の肉塊や剥いだ毛皮が乱雑に積載されている。

 そしてその荷車を引いているのはポチだった。そう言えば最近あまり見かけていないと思っていたら、クリスの捜索に出かけていたのか…ポチはいい子だが、ちょっと可哀相だな…めっちゃ臭そうな顔をしている…



「狩りの成果を見てくれって…お前…ヴァンパイアの襲撃がある中で、三週間も狩りをしていたのかよ… よくヴァンパイアに襲われなかったなぁ…」



 もしかして、クリスには特異点的な運の良さがあって、ヴァンパイアたちに遭遇しなかったのか?



「ヴァンパイアってこの城に襲撃に来ている奴らのことか? それなら会ったぞ」


「会ったのかよ!! それでなんで無事なんだよっ!!!」


「無事ではないぞ! 聞いてくれイチロー殿! 私はヴァンパイアどもに酷く心情を傷つけられたんだ! アイツら、私を見るなり『臭っ! 信じられない臭さだ!! こんな地獄のような臭さは始めてだ!』って言ってきたんだぞ!!! なんて失礼な奴らだ!! 乙女を何だと思っているんだ!」


「いや、冒険で臭いに慣れている俺ですら臭くて近づけないのに、貴族のような生活をしているアイツらでは尚更近づけないだろ… ってか、体臭でヴァンパイアを退けたのは人類史上、お前ぐらいじゃないのか?」


 そこへ噂を聞きつけたブラックホークも臭いに顔を顰めながらやってくる。


「それは私も初耳だ… まさか体臭でヴァンパイアを退ける者がいるとは… その臭さ…本物だな…」


「イチロー殿もブラックホーク殿もなんて失礼な事をいうのだ!! これでも私は花も恥じらう乙女なのだぞ!!! 狩りをしていたらちょっとぐらい臭いがしても仕方ないじゃないか!!!」


 どこがちょっとぐらいなんだよ… 現代日本なら通報されて警察が来てテロ扱いされる臭さだぞ…


 そういってクリスが地団駄を踏んでマジおこになり始める。


 あ~そう言えば先日、シュリのマジおこ地団駄をしている姿を見たけど、クリスの地団駄と比べるとシュリの方が100万倍…いや0にいくつかけても0だったな…プラス100万程可愛げがあるわ…



「イチロー様、ブラックホーク殿、その辺りで勘弁してやってもらえますかな…」



 そんな俺とブラックホークに同じく騒ぎを聞いてやってきたマグナブリルと蟻族一向が現れる。



「マ、マグナブリル様っ!!!」



 ヴァンパイアのみならず、俺たちからも鼻つまみ者(激臭的な意味で)されているなか、クリスは唯一の味方が現れたと思い、マグナブリルに駆け寄る。



「止まれぇぇぇぇ!!!! それ以上私に近づく出ない!!!」



 マグナブリルが怒声をあげてクリスの動きを制止し、マグナブリルとクリスの間に蟻族がマグナブリルを警護するように割って入る。



「クリス・ゾン・コミクよ、其方の言い分は聞いてやろう…しかし、それは風呂…いや、噴水の後だ!」



 マグナブリルがそういうと、蟻族の連中がクリスに近づいていく。



 ガチャン!! ガチャン!!



「えっと…マグナブリル様… これからお風呂に入るのは分かりますが… 何故、私は鎖につながれるのですか?」



 クリスは蟻族によって両手を鎖でつながれた事に首を傾げてキョトンとした顔をする。



「訂正しておくが風呂ではなく噴水だ… 浴場の他の利用者の迷惑になるのでな… それと…」



 マグナブリルの目がクワ!!っと大きく見開き、クリスにガンを飛ばし始める。



「お主は自分がどの様な状況になっておるのか、野生生活をしておる間に忘れたようだな… 三週間前に何をしたのか忘れておるのか? あ?」



「さ、三週間前? た、確か…その頃は城にいて… それで食事に肉が出る事が少なかったので…あっ…」



 クリスは自分のやらかした事を思い出したようで、見る見る内に顔が青くなっていく。



「クリスよ…ようやく思い出した様だな… 誉れ高きイアピースの元騎士でありながら、一度ならず二度までも肉の盗み食いなどといういやしい事をしよって… しかも本来は刑罰を科す所、お仕置きで済ましてやったのに逃げ出すとは…もはや勘弁ならん!!! その根性叩き直してやるわっ!」


「ひぃぃぃぃぃ!!! お許し! お許しをぉぉぉぉ!!!」


 

 クリスは豚の様な悲鳴を上げ、鎖でつながれ今からと殺場に連れていかれる豚の様に引きずられていく…



「なんか前に一度見た光景が繰り広げられているな… まぁ、クリスの事はマグナブリルに任せて、俺は談話室に戻るか…」


 そうして城に戻ろうとすると、荷車に繋がれていたポチが吠える。



「わぅ!」


「ん?どうしたポチ、クリスの臭さが移ったから洗って欲しいのか?」



 するとポチは荷車の荷台を検めろと言いたげな仕草をする。



「荷台を見ろってか? 何か珍しい物でも見つけたのか?」



 俺は珍しい獲物でも手に入れたのかと思って、荷台を覆うように置かれている獣を毛皮をぺろりと捲る。



「!!! ちょっ!! これって!!!」


「わぅ!!」



 俺はすぐさま引きずられていくクリスに向き直り、大声で叫ぶ。



「マグナブリル!! ちょっと待ってくれ!! クリス!! コイツをどこで見つけたんだっ!!!」



 俺の声にマグナブリル達は立ち止まる。



「あっ、荷台に乗っている人の事ですか? 山の中で拾いました~」



 クリスは引きずられた姿勢のままのん気に答える。



「山の中で拾ったって… これ…特別勇者のヤマダとトマリさんだろ… なんで生きていてここにいるんだよ…」



 そこには駐屯地で出会った特別勇者、マサムネの部下のヤマダ・タロウとヴィダー泊さんの姿があった。


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