第548話 さらばクリス…君の事は忘れられない…
「えっ!? あのクリスが行方不明!? いつもの様に勝手に狩りに出かけているだけじゃないのか?」
フィッツのクリスが行方不明という言葉に、あのクリスがそんな大層な事になるなんて信じられなかった。だが、フィッツは俺の言葉を否定するように小さく首を横に振る。
「いつものクリスさんなら、2~3日で獲物を抱えて戻られるのですが…もう2週間も狩りから戻って来られてなくて…」
「2週間も帰ってこない…? そもそも、ヴァンパイアの襲撃が始まってから、日が落ちてからの郊外の活動は禁止されていたんだろ? それなのになんでクリスは狩りなんて出かけたんだよ」
現在、ヴァンパイアの襲撃以降、アシヤ領では日が落ちてからの郊外での活動は禁止されている。なので、民家を建築するための木材の伐採や石材の採取等も、朝日が昇ってから夕方日が沈むまでの間に行う事を厳命されている。
通常の防衛戦でも何とか被害を出さないようにするのが精一杯なのに、少数の衛兵だけで作業員を守り切るのは不可能だからだ。
「それが…ヴァンパイアの襲撃が始まって以降、食肉の輸入が滞ったり、狩りの効率が落ちて、食卓にあがる肉が少なくなってきたんですよ…」
「あぁ、それで肉大好きなクリスが我慢できなくなって…」
「いえ、こっそり厨房の肉を盗み食いしている所をマグナブリル様に見つかってかなり怒られたそうで…その後のお仕置きが嫌で山に逃げ出したそうで…」
その話を聞いて俺は頭を抱える。
…クリスの奴…全く成長してねえじゃねえか… 駐屯地の時も、壮行会の肉を盗み食いしている所をマグナブリルに見つかって、馬車に隠れてついてきたというのに…立て続けでまた盗み食いとは…
アイツはあれか? 一度野生化した時に食性が雑食から肉食に変化したのか?
そもそもなし崩しでも一人騎士団長に任命されたっていうのに、盗み食いなんて恥ずかしい事をしやがって…
俺は成長しないクリスの所業にクソデカ溜息をつく。
「まぁ、クリスはあんな奴でも、なんて言うか…出来の悪い子供みたい存在感のある奴だったからな… いる時はいる時で面倒や奴だが、いなくなると…なんだかぽっかり穴が開いたようで寂しいな…」
「そうですね…色々問題が多い方でしたが、気さくで話しやすくて、子供たちにも人気でしたからね…」
やはり、フィッツも問題児だと認識していたのか…子供たちに人気があるのも精神年齢が近そうだから分かる…
「遺体は無いが…ヴァンパイアの襲撃が終わったら、アイツの墓標でも立てて、肉でも備えてやるか…」
「…そうですね…天国のクリスさんも喜ぶと思います…」
その後、俺はしんみりした空気の城門を後にして、お土産配りを続けるために再び城内へと戻る。後、お土産を渡してないのは、マリスティーヌと引き籠って執筆活動をしているハルヒさんと、中々時間が合わないシュリ、そしてハバナとミケだな…おっとコゼットちゃんの事を忘れていた。ヴィクトル爺さんの所で見かけなかったけど、どこにいるんだろう…アシュトレトはいつでも召喚できるし後回しでいいか。
それにしてもミケを見かけないのも謎なんだよな… あの風呂場でのファースト致し以降、ミケの奴は夜な夜な俺のベッドに忍び込んでくるほどの致し好きになったはずなのに、夜這いどころか姿を見ないなんて…どういう事だ? もしかして、クリスみたいに外にでてヴァンパイアにやられてしまったのか?
猫だしそもそも獣人というな人だしで首輪をつけて紐を繋いでおくわけにもいかんからな… 不用意にヴァンパイアの襲撃のある夜に外に出てしまったかも知れん… そうだとしたら勿体ないし悲しいな… 許すまじヴァンパイア!!
そんな事を考えながらハルヒさんの部屋へと向かう。
「ハルヒさん、はいりますよぉ~」
俺は声掛けして扉を開く。ハルヒさんは執筆に集中して、外から声をかけられても気が付かない事が多いからだ。
「あら、イチローさん久しぶりね、駐屯地から戻ったところなの?」
ハルヒさんは一体、いつの話をしているんだ…
「いえ…それはかなり前の話で…今回はその… ホラリス経由で現代日本に行っていたんですよ…」
「えっ!? 現代日本!? 戻れる方法があるの!? 一体どうやって現代日本に戻って帰ってきたの!?」
おっとりしたハルヒさんでも流石に現代日本の話は、執筆中のペンを置き、食い入るように聞いてくる。
「それが…行きも帰りも突発的な事故の様な物で、再び行き来できるようなものじゃないです… 再現も難しいですね…」
神アシュトレトにお願いすれば行けるかもしれんが、そんなホイホイと応えてくれるもんじゃないだろうな…今のアシュトレトはあんなんだし…
「そうなの…帰りたいとは思わないけど、ちょっと行って帰ってくるぐらいはしたかったわね…」
こっちの世界の生活の不便さを考えるとそう思うわな…
「その代わり、ハルヒさんにお土産を買って来たんですよ」
「あらあら、なにかしら? 楽しみだわ!」
珍しくハルヒさんが子供の様な興味津々の表情になる。
「作品の中で登場させていたぐらいなんで、また読みたいんじゃないかなぁ~って思って、中古ですがコイツを買って来たんですよ」
そう言って、俺は北方の拳コミックス全巻セットを取り出す。
「まぁ~!!! 北方の拳のコミックスじゃない!! 私、ずっと読みたかったのよぉ!!」
「ブックオフィサーで色々売ってたんで他にも買ってきましたよ」
そう言って、俺はガンガンコミックのセットを取り出して積み上げていく。
「まぁ!まぁ! これは何よりものお土産だわ!!! あっ! アーチャー×アーチャーもあるじゃない!! 続きがずっと気になっていたんだけど結末が読めるなんて夢みたいだわぁ~!!」
「あっ、ハルヒさんすみません…アーチャー×アーチャーまだ終わってないんですよ…でも鬼滅の剣は終わってますよ」
「ガーンだわ… まだ終わっていないなんて… でも鬼滅の剣は最初の方しか読んでなかったけど楽しみだわ!!」
100セット以上はありそうなコミックの山に、ハルヒさんが無邪気に喜ぶ。俺も同じ立場だった同様に喜ぶだろうな~
「俺もまた読んでみたいので、ハルヒさんが読み終わったら食堂の横の談話室にでも置いといてもらえますか?」
「えぇ!いいわよ!」
こう言っておけば、ハルヒさんの執筆引き籠り生活もいくらか改善されるだろう。
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