第534話 楽しいカローラ一家

「えっ!? えっ!? えっ!?」



 襲撃してきたヴァンパイアの言動、それに対するカローラに反応に俺は困惑する。しかも、いつの間にかカローラは俺の背中に隠れて、俺の服の裾を掴みながらガタガタと震えている。



「えーマジ 人間の手下!? キモーイ」

「人間の手下が許されるのは下位ヴァンパイアまでだよね!」

「キャハハハハハハ」



 カローラの様な黒髪ではなく茶髪でギャルっぽい二人の少女がカローラの姿を見て、甲高い声を上げて嘲笑う。



「俺には長女であろうが、末子であろうが、人間の手下なんて我慢できない!」



 黒髪ポニーテールの線の細い少年はカローラを罵る様に指差す。



「フフフ…カローラはプライマ家の中でも最弱…」



 大人カローラを妖艶したような女性がほくそ笑む。



「人間ごときの手下になるとは、プライマ家の面汚しよ…」



 細マッチョ系壮年の男性のヴァンパイアが腕組みしながらカローラを見下ろす。



「えっ!? えっ!? えっ!? もしかして…アイツら…カローラの家族なのか!?」


 

 ヴァンパイアたちの言葉に困惑しながら背中に隠れるカローラに尋ねる。



「その様な最弱の面汚しを我らプライマ家の者だと言うでないっ!!」



 俺の言葉におそらくカローラパパであろう男性のヴァンパイアが怒りの怒声をあげる。



「姉さん、俺恥ずかしいよ」



 少年のカローラ弟は本当に恥じているのか顔を羞恥に赤く染める。



「姉よりすぐれた妹が存在していてどう思う!?」

「ねぇ?ねぇ!? 今どんな気持ち? どんな気持ち!?」



 双子のカローラ妹は小躍りしそうなぐらいにカローラを煽りまくる。



「初めての子供だったから、甘やかしすぎちゃったのよね…」



 現代日本で大人モードになった時のカローラにそっくりなカローラママが呆れたように声を漏らす。



「…イチロー様…」



 そんな中、俺の背中に隠れるカローラが小さく呟く。



「なんだよ…カローラ」



 すると、ぷるぷると震える指先をカローラ一家に指し伸ばす。



「イ、イチロー様の力で…アイツら…やっちゃってください…」



 涙目になってそう告げる。



 ダっせぇ… 滅茶苦茶ダっせぇ… 恐らく、カローラ史上、一番ダサいカローラの姿だ…

 今までイキがっていた小学生が不利になった途端、年上の兄弟の後ろに隠れるようなダサさだ…

 先程まで、『そこらの野良ヴァンパイアなんて、瞬く間にギャフンととっちめやる!』ってドヤっていた姿はどこへ行ったんだよ… 滅茶苦茶ダせぇ…



「キング・イチロー様!」



 カローラのダサさに俺まで恥ずかしくなってきそうな所、エイミーの声が俺を正気に戻させる。



「一番槍は我が蟻族騎士団が引き受けますっ! イチロー様は我々の戦況見て判断してからお願いします!!」



 エイミーがそう言うと、蟻族騎士団が聖水を凍らせた剣や槍を手に一斉にヴァンパイアたちに襲い掛かる。それと同時にカローラママ、カローラ弟妹達は一斉に領民のいる城下の街並みやテントの周辺に散開する。


 なるほど、互いに戦い慣れ始めている様で、ヴァンパイアたちは民家やテント、領民を盾に範囲攻撃や飛び道具を使えないように立ち回り、蟻族の方は四方八方から取り囲んで打ち取ろういう動きをしている。


 

 さて、俺は俺の仕事をするべきだな…



「聖剣!」


「ハイハイ、魔族を倒せばいいんでしょ」



 俺の手に聖剣が姿を現し、俺はカローラパパと思われる人物に聖剣を構える。



「ほほぅ… お前が聖剣を手にするイチローと言う名の下等種か… たかが聖剣を手にしたぐらいで上位種である私に立ち向かうとは、大した蛮勇だ…」



 カローラパパは口元をゆがめて笑う。



「おい…カローラ…」



 俺はカローラパパに神経を集中しながら背中にいるカローラに声を掛ける。


「なっなななっ…なんですか!? イチロー様っ!」


「アイツは…カローラ、お前の親父なんだろ?」


「そ、そうですけど… 私の父親のハイエース・コーラス・プライマ…です」


「ぶっ!!」


 カローラパパの名前に俺は強敵と敵対している最中だというのに噴き出してしまう。



「おっ おまっ! ハイエース!? マジでハイエースなんか!?」



 俺が噴き出すと正面に相対しているカローラパパの…ハイエースが、ギリリと歯を食いしばり仁王様の様な憤怒の形相を現わす。



「下等種… 貴様…さては転生者という奴だな…」



 カローラパパは敵意むき出しのギラギラした目で俺を睨みつける。



「… どうして…そう思う…?」



 俺は聖剣をハイ…カローラパパに向けながら逆に問い返す。するとカローラパパは怒りに震えながら拳を握り締める。



「転生者という奴は… 私の名を聞く度に…嘲笑するように顔をニヤつかせよって… 私のような上位種… しかもプライマ家の長にしてこの大陸のヴァンパイアの頂点に立つ私の名を嘲笑うなど… 絶対に許される事ではないっ!!!」



 カローラパパはそう言って怒声をあげるが、転生者…特に日本人が上位ヴァンパイア…しかもその頂点に立つものの名がハイエースと言うのを聞いて、笑わないはずがない… ってか笑わせにくんなって思うのが普通だろ…

 何か…こうもっといい名前があっただろう…レクサスとかクラウンとか…頂点に相応しい名前にしなかったんだよ…



「カローラ…改めて告げるけど… お前のおやっさんは手加減して戦えるような相手じゃない… 本気で戦わなければならん…」



 俺は背中のカローラに話しかける。



「そうなんですよっ! 私のお父さん、めちゃ怖いんですよっ!! 分かってくれます!?」



 なんか微妙に意図が通じていないような返事が返ってくる。



「いや、そういう事を言ってるんじゃなくて… 加減をする余裕が無いから… お前の父親を殺してしまうかも知れないって言っているんだよっ!」


「ククク…私を殺すだと? 下等種が随分と面白い事を言うではないか… やれるものならやってみるがいいっ!!」


「お父様本人が言ってるんですっ! イチロー様! ギャフンと言わせてやってくださいっ!」


 カローラは俺の後ろで怒気を漲らせるカローラパパを指差して声を上げる。



「おまっ! 先生に悪戯っ子を怒ってくれって言うみたいに言うな… !!!!!」



 そう言いかけた途端、目の前のカローラパパがまるで転移でもしたように、俺のすぐ目の前に現れて、かぎ爪を伸ばして振り払う。



「くっ!!!」


 

 聖剣で受けるには距離が近すぎる為、俺は身体をよじってカローラパパの後ろに回り込むように移動する。



「ほほぅ…流石、聖剣に選ばれた下等種…あの攻撃を避けるとは…」


 

 カローラパパはニタリと笑う。



「どうやら、冗談抜きに本気でやらねばならないようだな…」



 俺は独り言を呟くように覚悟を漏らした。






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