第528話 誤解
「ヴァンパイアの襲撃をうけているだと!?」
マグナブリルの言葉に俺も少し驚く。帰路の途中の村に人気が無かったので、このアシヤ領に何かあったことは予想していたが、それがまさかヴァンパイアの襲撃だったとは…
「はい、イチロー様、それもホラリスでイチロー様が消えた時期に合わせて、始まりまして…」
「俺が消えた時期からか… 具体的にはどんな感じだったんだ?」
チラリとカローラに視線を向けるマグナブリルに俺は詳細を求める。
「はい、まず初めにアシヤ領の一番周辺の村から始まりました。イチロー様もカローラ嬢もホラリスに向かわれるという事だったので、エイミー殿がお預かりしていた集落の危機を知らせる魔道具に反応がありまして、すぐさま蟻族の精鋭を向かわせました」
マグナブリルの言葉にエイミーがコクリと頷く。
「で、駆けつけてみたら村を襲っていたのがヴァンパイアだったと分かったわけか」
「はい、イチロー様、急いで駆けつけたのですが、何分一番周辺の村であったので、蟻族が到着した時には村人は殆ど襲われた後で、生存者はたった一人という有様で…」
マグナブリルは地図で最初に襲撃を受けた村を指し示しながら、残念そうな顔で説明する。
「それで襲撃してきたヴァンパイアをある程度は打ち取れたのか?」
「それが…襲撃してきたヴァンパイアが、単なる吸血衝動を持つだけの下級のヴァンパイアではなく… 魔法や飛行… 霧化などを使えるかなり上位のヴァンパイアで、駆けつけた蟻族の精鋭も対ヴァンパイア装備をしておらず、一人も打ち取る事が出来ませんでした…」
「えっ!? 魔法に飛行…それに霧化まで使えるヴァンパイアって、ネームドクラスの上位ヴァンパイアだぞ!?」
敵を打ち取れず、申し訳なさそうな顔をするマグナブリルの言葉に、俺は目を丸くして声を上げる。
「はい、しかも敵は一体ではなく複数存在しております」
「複数っ!? それはマジか!?」
吸血衝動だけの下位ヴァンパイアなら、一人が感染して他にヴァンパイア化を感染させていき群れを作ることがあるが、上位のヴァンパイアとなると食糧事情の問題から狩場が重ならないようにそれぞれのヴァンパイアが縄張りを持つように互いの距離を取るのが普通だ。
なので上位のヴァンパイアが複数で行動することは、一冒険者だった頃から聞いた事が無いし、そんな輩が存在していたら冒険者仲間の間で噂になったであろう。
「はい、本当でございます…」
「マジか…敵が上位のヴァンパイアだったら、物理攻撃が主体の蟻族じゃ厳しかったんじゃなかったのか? 迎撃に向かった蟻族は無事だったのか?」
「初戦は対策をしてなかったので、危うかったですが、今の所蟻族の被害は出ておりません… その代わり、領民の保護は叶いませんでしたが…」
「…それで、俺が帰ってくる今までの間にどれぐらいの被害が出たんだ?」
「三か所の村が壊滅しました…被害者は103人です…」
マグナブリルは俺を真っ直ぐ見ながら答える。
「103人か…」
「はい、帰還した者から状況を聞き、即座に対策を打ち立てたのですが、相手が上位のヴァンパイアだけあって、付け焼き刃の様な状態でしてあまり有効な対策になり得ませんでした。またヴァンパイア側も最初に襲撃した村から徐々に版図を広げるやり方ではなく、散発的でランダムな襲撃の仕方なので兵力を集めて数的優位性を持って対処する方法が取れず、また、だからと言って領地全体に兵を分散させれば各個撃破されてしまうので、対処に苦慮致しました」
「…なるほど、それで城の近辺に領民を疎開させて全兵力を持って、ヴァンパイアに対抗した訳か」
「左様でございます。まぁ、それぞれの生計があるところ、いきなり城の周辺に疎開させましたので作物の収穫や生産性は低下致しますが、領民の保護は叶いますので」
壊滅した村が三つという事は初日と二日目は対応できず、三日目に領地全域に疎開勧告を出し、それに間に合わなかったか従わなかった村が襲撃を受けたのであろう。領地全体の領民を疎開させるのは大胆な手段であるが、即座に全域疎開させなければ被害の数が一桁二桁ぐらい増えていただろう…
「しかし、全域の領民を城の周りに疎開させて、全兵力で防衛しているというのに、未だにそのヴァンパイアを討伐できていないというのは… それほどまでにそのヴァンパイア達が強敵なのか? 何か有効な対策が出来なかったのか?」
「はい… 領民を城の周辺に疎開させた事で戦力を集中出来るようにはなりましたが… アソシエ様が魔法で撃退しようとしても民家やテントを盾にするような動きをしましたので、結局蟻族による近接攻撃で対処しなければいけません… 神官であるマリスティーヌ嬢に聖水を量産して頂き、それを凍らせて剣としたり、水鉄砲の弾としたりと、色々努力して頂いておりますが、しかし、それだけでは上位ヴァンパイアと対するには厳しい状況ですので、今は現状維持の状態で拮抗しております」
なるほど、出迎えの場にマリスティーヌの姿が見えなかったが、聖水作りに忙しかった様だな…
まぁ、一応マリスティーヌがこの領地の教会を統括する神官という立ち位置だが、ヴァンパイアと対処する能力が優れている訳ではない。逆に師匠扱いのミリーズがいない状況で、今まで被害者を初期の領民100人程度で押さえている方が優秀だと言えるだろう。
「なるほど…俺の消失、それにカローラが一緒だった事、また時期が重なって、襲撃犯が上位のヴァンパイアと色々な要素が加わった事で、カローラがこの件に絡んでいると思われていたんだな?」
「左様でございます」
俺の言葉に、マグナブリルはビビりまくっているカローラをチラリと見ながら答える。
「しかしながら、他の御仁は兎も角、私はカローラ嬢がこの件に関わっているとは思っておりません」
マグナブリルの言葉にカローラは少し安心したような顔をする。
「そうなのか?」
「はい、私はカローラ嬢と何度かカードゲームのお相手をしてまいりましたが、カローラ嬢はその様な回りくどい性格ではなく、またこの様な知略を巡らせるような方ではありません」
そのマグナブリルの言葉に、カローラは疑惑の目を向ける者たちに、してやったりとドヤ顔を向ける。
マグナブリルの言葉で自分の身の潔白が記されてドヤっているが…それと同時にバカだって言われているんだぞ?
「確かに…それは俺も同意見だ。そもそもカローラはカズオ飯が食えなくなるような事やゲームの遊び相手や趣味友がいなくなるような事は望まないだろう…しかし、聖水を凍らせて剣にしたり、水鉄砲で射撃するとかよく思いついたな」
俺が冒険者だった時はミリーズがいたので、いくらでも武器に属性付与をしてもらえたので、対策を考える必要はなかったが、予め聖水を量産して置いて凍らせて剣にする方法はなかなかいい方法だ。
「それは、この領地にヴァンパイアの襲撃があると聞きつけて、応援に駆け付けた方がおられまして、その方のアイデアでございます」
「へぇ~ 俺の領地に応援に駆けつけてくれた者がいるのか、俺からも礼を言っておかないとな」
「イチロー様が戻られた時は作業中なさっていたので、お迎え時には姿を御見せいたしておりませんでしたが、そろそろ終わると思うのですが…」
マグナブリルがそう言うと執務室の扉がノックされた。
「ディート様、マリスティーヌ様、そしてヴァンパイアハンター様が来られました」
扉の向こう側からこの執務室の警護をしていた蟻族の声が響く。
「噂をすれば… イチロー様、ご紹介したいのですが、よろしいですかな?」
「あぁ、入ってもらえ」
俺がそう答えると部屋の扉が開かれて、ディート、マリスティーヌ、そしてヴァンパイアハンターが姿を現す。
「えっ!? ちょっ! ヴァンパイアハンターって…お前だったのかよ!?」
俺は姿を現したヴァンパイアハンターの姿に思わず声を漏らしてしまった。
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