第526話 違和感

 城の周辺まで近づくと、まるで新幹線の様に走っていた馬車も流石に速度を落とし、通常の馬車の速さに速度を落とす。すると、見慣れぬ豪華な馬車に城の周辺にいた人々も俺の乗った馬車に注目して、窓から外の様子を伺っている俺の存在に気が付き始める。



「あれ…イチロー様じゃねぇのか?」


「ホント! イチロー様じゃ!」


「えっ!? イチロー様が帰ってこられたのか!!」


 

 その声が辺りに響くとテントや民家の中から人々が姿を現わし、馬車の周りに集まってくる。



「イチロー様だ! イチロー様だぞ!!」


「聖剣の勇者となられたイチロー様が帰還なされたっ!!」


「良かった…本当に良かった… これで私たちは救われるわっ!!」


「これで脅えながら過ごす日々から解放されるのね…」



 領民たちは俺の帰還に喜んでくれている様であるが、言葉の端々から何かに脅えていたのが伺える。また、馬車に集まる人影の中には途中、通り過ぎた村にいたはずの見知った顔も見受けられる。


 この状況から領地内に何事かが発生し、カローラ城まで避難してきたことが伺える。



「うわぁ~ 皆さん、マスターイチロー様の帰還を喜んでますよ! マスターイチロー様は嘘じゃなくて本当に凄い御方だったんですねっ!」



 馬車に集まってきた領民にアシュトレトが感嘆の声を上げる。



「おぅ、そうだが…今までお前は俺の事をどんな人間だと思っていたんだよ…」


「エッチ大好きお…」


「それ以上はいけない」


 アシュトレトが何か不愉快な事を言いかけた所で、カローラが言葉を遮る。俺は何か言い返そうと思ったが、目の前に致し禁断症状になりかけているアイリスがいるので押し黙る。



「イチロー、とりあえずここに何か起きたみたいな様ね…」


「あぁ、ミリーズ、それは俺も分かった… 領民の言葉が籠城中に援軍が来たみたいな事を言っているから何かがあったのは確かだ」



 俺は窓の外に集まる領民を励ます為に笑顔で手を振りながらミリーズに答える。



「とりあえず、皆から一刻も早く話を聞くのが重要だわ」


「そうだな…ここで何が起きているのやら…」


 

 そして、馬車はカローラ城の城門へと近づく。



「イチロー様! イチロー様ですねっ!!」



 城門へ近づくと蟻族の衛兵と一緒に門番をしているフィッツが嬉しそうな顔をして近寄ってくる。



「おぅ! フィッツ! 久しぶりだな!」



 俺は窓を空けてフィッツに答える。



「パトロールをしていた蟻族の方からイチロー様が帰還されたとの報告を受けまして、イチロー様のお帰りを心待ちにしておりました!」


「えっ? 蟻族の連中は俺が帰ってきている事を分かってたのか?」



 すでに蟻族の連中が俺の帰還を知っていた事に驚いていると、御者席にいたベータが振り返って応える。



「はい、キング・イチロー様、アシヤ領に入ったあたりから仲間たちからの連絡がありましたので、上空で護衛を頼んでおきました」


「えっ!? マジで?」


 

 ベータの言葉に、馬車の上を見上げると蟻族が4人程、馬車の上を護衛している様に飛んでいるのが見えた。



「うわ、いつの間に!? ってか連絡しろよ… って事は城の皆にも連絡したのか?」


「これはすみませんキング・イチロー様、報連相を忘れておりました… 城への連絡はアルファーを通して伝わっておりますのでご安心を」


「そうか…」


「イチロー様! 城の皆もイチロー様のお帰りを心待ちにしておりますっ! 早く、皆さんにイチロー様のお元気な顔をお見せしてくださいっ!」


「わかった、フィッツありがとな、また後でお土産を渡すから」


 フィッツと言葉を交わすと馬車は城門の中へと進んで行く。すると既に正面玄関の前にはアソシエ・ネイシュ・プリンクリンやポチにシュリにカズオ、ディートやビアン・ロレンス、そしてエイミーと蟻族、骨メイド…ではなく今は肉メイドと…仲間たちが俺たちの出迎えに外に出て集まっているのが見える。


「ダーリン!!」


「イチロー! 帰って来たのね!」


「イチロー! ネイシュ待ってた!」


「あるじ様! 良く帰って来たのう! 心配しておったぞ!」


「旦那ぁ! 無事で何よりでやす!」


「わぅ!わぅ!」


「イチロー兄さま! お帰りなさいませ!」


「イチローちゃま! 待っていたわよ!」


「良くぞご無事でイチロー様!」


 俺が馬車を降りると空港に降りてきた有名人に集まる様に久しぶりの皆が押し寄せて来て取り囲んだ。



「おぅ、みんな! 心配かけたな! ちゃんと俺もカローラも戻って来たぞ!!」 



 俺は元気な顔を見せて集まる皆に答えていく。俺の後に続き、カローラやアシュトレト、ミリーズも馬車を降りて来て、ミリーズ達に皆も駆け寄って行く。


 だが、よく見てみるとミリーズやここでは新人のアシュトレトには皆が声をかけていくのに、カローラには肉メイド達しか集まらない。


 普段であれば、自分たちの復讐を果してくれえアイドル状態のカローラを肉メイドが過保護にするのはいつもの事だが、今日の雰囲気は少し異なる。


 何と言うか…肉メイド達がカローラを気遣うというか庇っている仕草を摂っている。

まるで、悪戯して家出していた子供を庇うように保護する母親みたいな感じだ。なんか変だな…


 そして、出迎えに出てきた皆の態度を見ていると、肉メイドを覗く全員がカローラを腫物を扱うというか、不審者でも見るような目で見ている。


 傍目で見ている俺でも気が付くレベルなので、当事者であるカローラも当然、皆の態度がおかしい事に気が付き始める。



「えっ? なんか皆の私を見る目が何というか… 罪人でも見るような目なんだけど… もしかして、イチロー様が転移したのは私の所為だと思わ入れている?」



 皆の視線にカローラは悪戯のバレた子供の様にビクビクとし始める。


「カローラよ…」


 そこへシュリがカローラに近づき、その肩に手を降ろす。


「シュリ!」


 皆が自分を遠巻きにして見る中、肉メイド以外でただ一人カローラに気を掛けて声を掛けてくれたシュリをカローラは地獄に仏のような目で見る。



「わらわとお主はあるじ様の元での古い中じゃ…だからわらわはお主の事を捨て置けん… わらわも一緒に謝ってやるから、皆に本当の事を話すのじゃ…」


「えっ!? な、なに!? 皆に本当の事を話す!? もしかして、向こうに飛ばされている間、イチロー様を独り占めして甘えいた事とか!?」



 このカローラの発現に先程まで、疑惑が強めの視線から、敵意の視線に代わり、特にアソシエ、プリンクリンがギリリと歯を慣らし始める。



「いや、そういう話ではないのじゃが…でも…それはそれで、後で色々と言われそうな話じゃな…」


「じゃあ、なんだっていうの?」



 困惑して声を上げるカローラの前に長身の人影が前に進み出る。



「それについては私から説明致しましょう… それよりも、イチロー様、良くぞお戻りいただけました…私からイチロー様が不在の間に何が起きたのかをご説明致します」


 そこにはいつもの神妙な面持ちのマグナブリルの姿があった。


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