第499話 収納魔法の原理
ミュリは俺が収納魔法から鹿ジャーキーを取り出している所を凝視する。
「えっ!? この収納魔法? それだけの魔法技術を持っていて収納魔法を教えて欲しいのか?」
ミュリが交換条件として指名したことが収納魔法だったことに、俺は少し驚く。あれだけの魔法技術を持っているのだから自前で開発しててもおかしくないと考えていたからだ。
「えぇ…収納魔法の存在は知っていたけど、それはこう… いや…この情報は貴方にとっては禁則事項の情報ね… まぁ、とある集団の独占技術だったから、私は実際に見た事無いからどんなものか詳しく知る術がなかったのよ」
「そうなのか…でも教えてくれと言われてもな… この収納魔法は俺が開発したものじゃなくて、ディート…あ…つまり別人が開発して、俺に施してくれたものだからな… ある程度の説明は出来るけど、お前に教えられるほどじゃねえんだよ…」
俺はディートが収納魔法を施してくれた時の事を思い出しながら説明する。
「ディート? もしかしてディートフリード様の事!?」
「なんだ、ミュリもディートの事を知っているのか… という事はディートも色々と名を遺すような偉業を成し遂げるんだな… 現状でも色々成し遂げているけど」
ミュリが様付けするぐらいだから、尊敬される人物として名を遺したんだろうな… でも、さっきの事で聖剣も様付けしているぐらいだから、どうかは分らんが…
「うーん… 直接、収納魔法の覚え方を教えられなくても、その時の詳細な情報は覚えている? その情報によっては交換条件として認めてあげるわ」
ミュリは再び鹿ジャーキーに手を伸ばして話し出す。
「詳細な情報ねぇ…確か、持てる全ての魔力を注ぎ込んで収納空間を作らなければならないって事で、魔力の通りを良くする変な薬を飲んだ後、ディートの作ってくれた変な腕輪を嵌めて自動的に作ってもらったんだよ」
「えっ? それだけ? 大規模な儀式魔法を使ったりはしてないの?」
ミュリが目を丸くして聞いてくる。
「あぁ、俺も当時、これだけでいいのか?って聞いたら、開発するのは難しかったけど、出来てしまえば簡単に覚えられると言ってたな… そうそう、収納空間を作る時に、魔圧がどうこう言ってたな、なんでも収納空間を作る為には一定の魔力を送り続けないとダメとか…」
「一定の魔圧… 収納空間を作る魔法に一定の魔力を送り続けるポンプみたいな仕組みの腕輪だったのかしら… で、作った後はどうやって使うの?」
ミュリは腕を組んで少し考え込んだ後、顔を上げて聞いてくる。
「めっちゃ簡単だぞ? 身体を使って輪を作り、念じるだけでこうやって物の出し入れができる」
そう言って、ミュリの目の前で更に鹿ジャーキーを取り出して見せる。
「たったそれだけで… おかしいわね… たったそれだけの動作で、魔法で作られた収納空間を扱えるはずがない… という事は… やはり、最初に飲んだ魔法の通りの良くなる薬に何かあるわね…」
「そうなのか?」
「えぇ、そうよ、例えばイチロー、貴方はマインクリエイトやったことがある?」
ペット扱いの聖剣は様付けなのに、飼い主の俺は呼び捨てかよ…なんかモヤモヤするな…
「あぁ、あるぞ、ブロックでできた世界で箱庭つくるゲームだろ?」
「そうよ、それで異世界に行くためのポータルがあったわよね?」
「あぁ、黒曜石で輪になったゲートを作って点火するやつだろ?」
ポータルについては動画で腐るほど見たし、自分でやっていた時も作った記憶がある。
「えぇ、それよそのポータルと同様で、何もない所に点火してもゲートは作られない。ゲートが作られるのは黒曜石で作ったゲートがある場所だけ…」
「ん? という事は…」
「恐らく最初に飲まされた薬の中に収納魔法を作る為の物質が含まれていて、それで身体で輪を作る事によって、魔力を使って念じるだけで収納空間のゲートが出来ると思うわ」
そう言って、ミュリは鹿ジャーキーを齧りながら、人差し指と親指で輪を作って見せる。
「なるほどな… それで簡単に収納魔法が使えたわけか… で、そこから収納空間の作成の仕方まで分かるか?」
「うーん、そこは貴方とカローラ二人から血を貰って解析してみるわ、私の予想通り、血の中に収納空間を開く為の魔法因子があるなら、そこからどうやって収納空間を開くのか、そもそも収納空間がどんな物なのか解析していくわ」
俺が思い出しながら話した内容で、ここまで収納魔法の原理について見当がつくのは恐れ入った。
「お前、俺の断片的な話でそこまで見当がつくのは凄いな」
素直に感心する。
「フフフ…もっと褒めてもいいのよ?」
そう言ってミュリはニヤリと笑う。
「上がった株を自ら落としていくスタイルは止めとけよ… で、先程の話で、魔法技術のことや魔力量の事に関しての交換条件として成立するのか?」
「そうね…貴方とカローラの血も貰えるなら十分成立するわよ」
そう言ってミュリは頭の上に手で丸を作って合格サインを出す。俺はそれに応えてコロンビアガッツポーズをする。
「では、早速、お前さんの魔法技術と魔力量のコツとやらを教えてくれよ」
俺はテーブルに肘をついてミュリに前のめりで尋ねる。
「良いわよ…でも、後で騙されたとか、なんだそんな事だったのか! とか言い出さないでよ? あと約束を反故しないでね…」
「なに? 俺が約束を反故するとでも思っているのか? 分かった! そこまで言うのなら、先に俺とカローラの血をやるよ!」
約束を守らない男と思われては立つ瀬がないので、俺はソファーから立ち上がるとキッチンに言って醤油皿を掴むとカローラが寝ている寝室へと向かう。そして、カローラの血を醤油皿の上に垂らして帰ってくる。
「どうだ! カローラの血だ!」
ミュリは強張った顔でカローラの血が醤油の様に入った醤油皿を受け取る。
「えっと…ありがとう… でも、どうやって採取してきたのよ?」
「寝ているカローラの指に針を差して無理矢理絞ってきた。後は俺の血だな待ってろ」
そう言って、カローラにしたように、俺も自分の指先に針を刺して血を醤油差しに絞り出す。
「無茶するわね… 色々な意味で…」
「ミュリ、お前の持つ魔法技術と魔力量にはそれだけの価値があるという事だよ」
そう言って俺の血が注がれた醤油皿をミュリに差し出す。最初はじっと俺の差し出した醤油差しの血を眺めていたミュリであったが、ふっと溜息をついた後、決意した顔を上げて俺を直視する。
「分かったわ…私の魔法技術のコツや魔力量の秘密…教えてあげるわ…」
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