第470話 休日、三年ぶりの続きを…
ネカフェでの一件以降、ムルティさんとは更に仲良くなって、時々一緒に食事をしたり、またカローラと一緒にゲームをするようになった。かと言ってムルティさんは一日暇を持て余しているのではなく、時々役所に行って店の再開を訴えているそうだ。
俺の方もネットで行方不明者の出ている事件や事故、また亀岡方面の心霊オカルトスポットを調査しているが、大した成果は無く、空振りばかりである。
そんな日々が一週間程続いたので、流石に疲れてきたので、英気を養うべく、今日は一日休みをとることにした。だからいつもなら夕方に戻る為に朝の6時ぐらいに起きて朝食などや身支度をして8時ぐらいに出発するのだが、今日はゆっくりと8時まで眠っていた。
「あら、イチロー、今日はやけに遅いじゃない」
俺が起きてロフトから降りると聖剣がSちゃんをしながら声を掛けてくる。
「あぁ、最近連日調査に出かけていたからな、今日は休みにして英気を養おうと思ってな」
「へぇ…そうなの… まぁ、休みを取るのはいいけど… 一日中、部屋にいるの?」
なんか休日の旦那が家にいるのが、面倒な嫁のような聞き方をしてくる。
「いや、全く何も考えてないんだけど… なんだ?俺が部屋にいちゃマズいのか?」
「そ、そんな訳じゃないけど… 人口密度が高くなるとおもっただけよ…」
なんか引っかかるところはあるけど、流しておく。
「イチロー兄さま、一応ご飯は炊いておきましたけど、朝食はどうします?」
「あぁ、確か塩サバを買ってあったから、それでも焼いて後は卵と納豆で食うか…」
「じゃあ、準備してきますね」
「おぅ、すまねぇな、カローラ」
カローラはいつものソファーの上からぴょんと降りてキッチンへと向かう。向こうの世界ではメイド達が働いていたので何もしなくても良かったが、ここでは代わりに働いてくれるメイドもおらず、自分一人だけ一日中ゲームをする訳にもいかないので、ちょっとしたお手伝いをするようになった。炊飯や、朝食の準備もその一つである。
「はい、準備出来ましたよぉ~」
「おぅ、いい感じに塩サバ焼けてんな、じゃあ頂きます!」
「頂きます!」
俺は久々に塩サバを食う。
「うまぁ~っ!! 塩サバだけでご飯が何杯でも食えそうだ!」
「ただ焼いただけなのに、ここまで美味しいなんて、魚介類って凄いですねっ!」
向こうの世界にいた時は主に南側の地域で活動していたので、北方の油ののった鯖なんて食べる機会が殆どなかった。だから塩サバを食べるのは3年ぶりである。
ちなみにこうして朝食を摂っている今も、聖剣の触手が俺の頭の上に繋がっており、聖剣が俺を通して朝食を味わっている。味の感想も共有しているので、今の所、俺と聖剣とは味の好みは同じである。
「あぁ、食った食った…」
「ふぅ…御馳走様でした…」
食べ終えた俺たちは食後の余韻に浸る。
「しかし、ここは色んな場所、色んな時期の食べ物が食べたいときに食べられるので、ホント便利な場所ですよね…」
「あぁ、向こうじゃ食べ物の鮮度を保って輸送することは、一部の裕福な貴族だけだからな… おいそれと出来るものじゃないし」
「それで、結局、今日はどうなさるんですか? イチロー兄さま」
「そうだな…」
俺は色々と考える。思わず三年ぶりに現代日本に帰って来たのだから、現代日本の食事を楽しむだけではなく、娯楽についても色々と楽しみたいところはある。
まぁ、カローラがゲームしている所を見て実況プレイを見ているような感じで、自分も楽しめる所もあるが、実際に自分自身でやりたい気持ちが無い訳でもない。
しかし、ゲームを楽しんでいるカローラからゲーム機を奪うような大人気の無い事もできないし、中古で買ってきたパソコンではネットサーフィンは快適に出来るけど、現代標準の3Dゲームがぬるぬる動くほどのスペックは無い。そんな状況でゲームをしても余計にストレスが溜まるだけであろう。
ストレス発散の為にゲームをするのにそのゲームでストレスが溜まっては意味がない。
では、どうするか… 異世界転生して続きが見れなかったアニメや漫画、ラノベを読むのもありだな…
「俺が異世界に行っていた3年間の趣味の情報を調べて見てみようかと思う」
進行の巨人とかガラスのマスクとか、アーチャー×アーチャー、バーサーカーも続きを読みたいな。
俺はカチャカチャとジャングルのページで目当てのコミックを調べて見る。
「あれ?なんでアーチャー×アーチャー、三年も経っているのに新刊が一冊しかでてないんだ? 富山仕事しろよ…」
俺は読みたい漫画を次々と買い物かごに放り込んでいく。
「あぁ… バーサーカーのウラケン死んじゃったのか…残念過ぎる… でも、続きは出ているんだな… 逆にガラスのマスクはまだ終わってないのかよ…」
そんな感じに読みたい本を後でスマホでも読めるように電子書籍を選んでいき、購入ボタンを押そうとする。
「あれ?押せない…どうしてだ?」
どうして購入ボタンが押せないのか調べて見ると、合計金額が結構な額に達していた。前にプリペイドに突っ込んでいた金額は五万程なので残高不足で買えないのは当然だ。
「残高は一体いくらだろ…後で入金しに行かないとな…」
俺がそう独り言を漏らすと、キーボードをカチャカチャ打ち込んでいた聖剣や、コントローラーを同じくカチャカチャと操作していたカローラの二人の動きが一瞬止まり、電気が止まったように静寂が訪れる。
「ん? どうした?二人とも…」
俺はパソコンの画面から顔を上げ、二人に尋ねる。
「べ、べ、別に…なんでもありませんよ…」
「そ、そうね…私もどうレスを返そうか悩んだだけよ…」
二人はそう答えて、再びカチャカチャと音を立て始める。
「そうか…」
俺は深く考えずに、カードの残高照会を行う。
「ん? んん!?」
俺は一瞬、自分の目を疑う。しかし、何度見ても、カードの残高は81円…
どうしてだ!? 俺は5万円突っ込んだはずだぞ? 確かに聖剣には自由に使っていいとは言ったけど、これは使い過ぎだ…
二人のカチャカチャと音を立てるテンポが心なしか早くなっている。
もしかして、使い過ぎて後ろめたさを感じているのか?
いや、聖剣もカローラもそんな事を気にするような性格ではない…
とすると…もしかして、一時期流行った価格は安くて送料がめちゃ高い詐欺にでも引っかかったのか?
俺は二人には申し訳ないが、二人の保護者として、何を買ったのか見る為にカードの明細を調べ始める… そして目の当たりにした物に俺は思わず声を上げてしまう。
「なんじゃこりゃぁぁ!!!!!」
俺の声に二人はビクリと肩を震わせた。
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