はらつい・孕ませましたがなにか？ ～勇者パーティ内で女性メンバー全員を口説いて回った最強チートの俺が、リーダーにばれて追放？ だが、もう遅い～

第138話 もう一人の女王

「イチロー殿！　ご無事でしたか！！　かなりの時間が掛かっておりましたので心配しておりました！！」

　俺達と合流したサイリスはすぐさま俺の所に駆けてくるが、俺が抱き上げている、女王のエイミーの姿を見て、眉を顰める。

「もしかして…　それが奴らの女王なのですか…」

　エイミーは今、俺の外套にくるまれながら、抱きかかえられ、すやすやと寝息を立てている。これというのも、数時間のあいだ触手に弄られ続け、体力を失い、さらに腰砕けになっていて、自力で立てない状態になっていたのだ。さすがに自分の息子がしでかしたことなので、俺が責任を持って運ぶしかなかった。

「あぁ、こいつが虫王族女王のエイミーだ」

「ただの小娘ほどの大きさしかないのですね…　女王ということなので、もっと巨大な存在だと思っていましたが…」

　サイリスにとって敵の女王とは憎悪と敵意の対象であるはずなので、おそらく、敵意を書き立てる姿であって欲しかったのであろうが、それとは逆に触手に弄られてくたびれてはいるが、エイミーが気品と愛らしさを持った少女なので、振り上げた拳の降ろし先に困惑しているのであろう。

「サイリスの言う通り、最初はデカい姿だったよ、それも鯨ぐらいの大きさの芋虫の様な姿だった。でもそれは、ほとんどが子供を作るための第二腹部のデカさで、肝心の本体はこの大きさだったって訳だ」

「なるほど…　第二腹部ですか…　すると、イチロー殿の後ろにいるアルファーの小さい姿の者たちは、そこからでてきたものたちですか？」

　サイリスは俺の後ろの子供たちに視線を移して聞いてくる。そのサイリスの表情は、先日、食糧倉庫で難民たちを見つけた時と同じような複雑な表情をしている。

　俺はその複雑な表情をしている理由をなんとなく察する。なんでもそうだが、問題が起きて、何らかの被害が出た時は誰かがその責任を取らなければならない。戦争ともなると、その責任の取り方、取らせ方は大きな問題となる。

　配下のジェネラル達は皆、俺の部下のようになっているので、責任を取らせにくいし、トップの女王にしても、魔物の形なら兎も角、人の形をしていて、それが美少女の姿であれば、公開処刑などの方法は取りづらいであろう。

「サイリス、色々と思う所があるようだが、ここは一度街に戻ってから考えよう」

俺は悩みこんでいるサイリスに気を使って言葉を掛ける。

「そうですね、イチロー殿、ここは戻ってから考えましょう…」

　サイリスはそういうと、一度考えを呑み込んだような仕草をして、肩を落としながら出口に向けて進んでいく。

すると、出口側の方から、慌てて血相を変えた兵士の一人がサイリスの元へ駆けてくる。

「サ、サ、サイリス様！　大変です！！」

「どうしたというのだ！？」

サイリスは肩をもどして兵士に尋ねる。

「外に出た兵士が、街の周りに見知らぬ大量の軍勢が…　ものすごい数の軍勢が街を取り囲んでいるとの報告が！！！」

「そ、それは本当か！？」

「はい！、数人の兵が確認しましたから間違いありません！！」

その報告にサイリスはさっと顔色を変え、俺の方に振り向く。

「サイリス、急いで確認しよう！！」

「そうですね！　イチロー殿！」

　俺たち二人は互いに頷くと、俺はエイミーをベータに預け、サイリスと二人で出口部分に駆け出していく。

出口の広間に辿り着くと、兵士たちが、出るに出られず、広間で屯しながら狼狽えていた。

「俺が確認してくる！」

俺は飛行魔法を使うと、上り下り用のロープの垂らされている通気口へ飛び込む。

「私も後で参ります！」

　俺の背中にサイリスの声をうけながら、通路を上へ上へと飛翔する。そして、外に飛び出して、街の方角に視線を移すと、確かに街を物凄い数の軍勢が取り囲んでいた。

　ざっと、見た限り、一万程度の数ではない十万近くの数がいるんじゃないか？　これは兵士たちが見て驚いても仕方がない。こんな辺境の国でこんな大軍を見る機会なんてないからな。

　しかし、どこの軍勢がなんの為に来たんだよ。俺は望遠魔法をみょんみょんと使い、どこの軍属であるか確認する。

「えっ！？　あの軍旗はウリクリ！？　それにイアピースのものもあるぞ！！　しかも…　あの派手な軍旗って出御旗！？　王自ら進軍してきたってことか！？」

　一体、どうなっているのか分らん！　俺は真意を確かめる為に、ウリクリの出御旗がある方向へ飛翔する。そして、近くまで飛翔すると俺の姿を見つけて、ウリクリの親衛隊が警戒するのが見えたので、俺は地上に着陸し、敵意がない事を示すため、両手をあげて、出御旗の元へゆっくりと歩いていく。

　すると、軍勢側も俺がウリクリの認定勇者であるイチロー・アシヤだと分かったのか、出御旗までの兵士たちが左右に分れ、道が出来る。

「おやおや、勇者イチロー殿、これは御息災のようですね」

　俺に聞き知った声がかかる。マイティー女王の声だ。この声の先を見ると、重装な近衛兵に守られ、荘厳で威厳を備えた鎧姿のマイティー女王が、威風堂々に備えていた。

俺は、マイティー女王の姿を確認すると、片膝をつき、敬意を現す姿勢をする。

「ありがとうございます、女王陛下。突然の出御で驚きました」

「ははは、ノブツナ殿より、この国ベアースの状況はうかがっていたのでな、戦力の逐次投入は愚策であろう？　なので、イアピースとも連携して、全軍を持ってベアース救援にかけつかたのだ」

　戦力を小出しにせず、全力投入って…　エイミーにしろ、マイティー女王にしろ、女王は考える事、同じなんだな…　しかもちゃんと理にかなっている所が恐ろしいわ。確かにあの虫たちをあいてにするなら小出しにしても被害を出し、時間がかかって、無駄に兵糧などの資源を消耗するだけになる。

　だから、出せる戦力は全部出して、一気に殲滅しないと被害が広がるだけだ。しかし、戦後の事を考えると、自国だけ被害を出していては、何かあった時に不利になるからイアピースも引き込んだと言う訳だろうな…

「ところで、イチロー殿よ、あんな所から飛び出してこられた様だが、対魔族に対する戦況はどうなのだ？」

「はい、今しがた、敵の女王を取り押さえてまいりました」

「敵の女王を取り押さえた？　すると、此度の敵の侵攻を鎮圧したというのか？」

マイティー女王の声のトーンが少し上がる。

「はい、女王も既に屈服し、その配下の者たちも全て、調略し、味方に引き込みました」

　俺の言葉に一瞬、辺りが静まり返る。しかし、次の瞬間、マイティー女王の笑い声が辺りに響き渡る。

「ハハハハハッ！　私とあろうものが、イチロー殿の実力を見誤っておったとは！！」

マイティー女王は腹の底から笑い声をあげていた。

「どうされたのだ？　マイティー女王よ」

「げっ！　カミラル王子！！」

　マイティー女王の笑い声に姿を現したのは、イアピースのカミラル王子であった。まぁ、イアピースとの連合軍で軍を動かすなら出て来て当然だが、こんな所で会うとは…

「聞いてくれカミラル王子よ、我らが軍勢と資源をかき集め、大軍を整える間の時間を稼ぐために、遣わしたイチロー殿が、我らが準備をして、行軍している間に、敵を全て制圧したと言うのだ」

カミラル王子はマイティー女王の言葉に、俺の名前を聞いて、ぎょっと目を見開いてこちらを見る。

「イチロー！　それは誠なのか！？」

　カミラル王子はむき出しの目で俺に尋ねる。すると俺の後ろから息を弾ませて走って来たサイリスが俺の隣に跪いて、俺の代わりに答える。

「誠でございます！」

「そなたは？」

「はい！　発言失礼いたします！　イアピース国第一王子カミラル閣下！　わたくしめはベアース国、第四騎兵隊副団長のデミアル・ルド・サイリスと申します！！」

　流石、サイリス、副団長の身分とインテリ肌もあって、相手がちゃんとイアピースのカミラル王子である事が分かったのか。

「ベアース国のそなたが言うのであれば、真実なのであろうな…」

「はい、今も敵の拠点から兵を戻すのに、敵であったジェネラル達が兵の搬送を手伝っております」

　そう言って、サイリスが後ろの方を振り返ると、俺の出て来た穴から、ジェネラル達が兵士たちを抱えて飛んで出てきているのが見える。

「わしが苦労してようやく一人を捕らえたというのに、イチロー殿はあれだけの数を調伏させたのか」

そう言ってマイティー女王の影から出てきたのは剣聖のノブツナ爺さんであった。

「ノブツナ爺さんもここに？」

「あぁ、現状を見て来たのはわしだけだったのでのう、従軍するのは当然じゃ」

　ノブツナ爺さんの姿を見て、あの本の事が頭に過ったかが今はその話をするべき場合ではない。

「愉快ではないか、イチロー殿を時間稼ぎの当て馬のように使った私が、逆に道化にされてしまうとはな！　ハハハハハ！」

マイティー女王の笑い声が辺り一面に響いた。