第97話 孕んだよ、全員集合!

 イアピースに来るときは俺一人だったので一日で辿り着くことが出来たが、帰りは11人のダークエルフがいたので、幌馬車を買ってからの帰路になったので三日を要した。


 ダークエルフ達は、俺に敵意を向けるでもなく、逆に好意をむける者が多い。にこポや撫でポではなく、致ポかよ…


 そんな事を考えていたら、今後、身重になる姉の面倒を見るためについてきた末子のシーハンがダークエルフの習性について色々語ってくれた。


 そもそも、エルフ族は出生率が低く、今のダークエルフの娘たちは、かなり無理をして作ったらしい。そして、その低い出生率で出来た子供を大切にするために、どの様な相手でも、その相手に尽くし、良好な夫婦関係を構築して、その中で子供を大切に育てるそうな。確かに、夫婦仲が悪い状態なら、この世界ならちゃんと子供を育てにくいと思う。種族の繁栄の為に、色々と考えているんだな…


 他にもそれぞれがバラバラの男ではなく、一緒の男という事で、一体感があるらしい。この辺りの感覚は、俺には理解出来んな…


「そろそろ、見えてきたな」


スケルトンホースに乗って先導する俺は、幌馬車の御者を務めるシーハンに告げる。


「えっ!? イチロー兄君様は勇者だけではなく、城主でもあられるのですか? すごいですね!!」


 本当はカローラの城だが、お前の物は俺の物、俺の物は俺の物… 黄色い服を着た少年の言葉はホント、役立つ。


「本当! 主人ちゃま! 私も見たい!」

「ご主人様が、そ、そんなに見せたいんだったら、見てあげてもいいんだからねっ!」

「主人ちゃま、みんなが邪魔でみえない~」


 ダークエルフたちは皆、御者台に出て来て、俺は生まれて初めて、ダークエルフが溢れてくるという現象を見る。


「そんな慌てなくても、これから住むんだからいくらでも見れるだろ…」


 俺はそう言いつつ、改めて城を見直す。ちゃんと元の色に戻っているようだな… まぁ、あれから四日程たったから、時間もあるし、カローラの激高もあったからプリンクリンも必死に働いたのであろう…


「シーハン、ちょっといいか?」


「なんでしょう? イチロー兄君様」


俺は、馬車に馬の歩調を合わせて、御者のシーハンに声をかける。


「こいつらって、いつもこんな感じなのか? 俺が捕まえた時はもうちょっとマシだったぞ?」


「はい、これが姉たちのいつもの状態です。逆に街道封鎖をしていた時がおかしかったんですよ」


 ん~ なんか引っかかるな… イアピースの城でもある日突然に人類側に対抗し始めたと言っていたし、そういえば、ハバナも最初は人類からの解放とか言っていたよな… 今はそんな事、全然言ってなかったし… なんだろ? なんか洗脳か何かされていたのか?


「何かありましたか?」


「いや、なんでもない」


 キョトンとした顔で聞いてくるシーハンに俺はそう答える。まだ、推察の範囲を超えない事だ。とやかく言うべきことでもないだろう。そんな事よりも俺は今度こそ、ゆっくり風呂に入りたい。前回はカズオのせいで入れなかったからな…




 そして、俺たちは城門を潜り、城の玄関前まで辿り着く。


「ようやく、帰って来たな…」


「はぁ、改めて、城門の内側でみると凄いですね…」


シーハンが辺りをキョロキョロ見回す。


「じゃあ、皆は玄関前で待っててくれ、俺とシーハンは馬と馬車を片づけてくるから」


「馬なら、私が片づけておこう」


 突然、男の声がする。この城で男の姿を見ていないので驚いてその声の方に向きなおると、褐色の肌をした男がいる。


「えっ? えぇぇ!? なんで、ケロースがここにいるんだよ!!」


 俺は驚いて二度見する。確かにユニコーンからバイコーンになったケロースだ。確か、妹と馬の三人なのか三頭なのかで、牧場を作ると言っていたはずだ。それがなんで、この城に来ているんだ?


「ははは、いやぁ~ 牧場を始めようにも金は無いわ、妹と妻のプルラが妊娠するわで、どうしようもなくなってな、もうイチロー殿にすがるしかないと思ってな」


「ちょっと、待て! 妹も妊娠ってまさか…!?」


「イチロー様… ご無沙汰しておりました… ユニポニーでございます…」


厩舎の方から褐色になったユニポニーがやって、俺の目のまえで自分の腹をさする。


「イチロー様のお蔭で、子を身ごもる事が出来ました…」


「ははは、そう言う事で、イチロー殿と我らは言わば兄妹だ! よろしく頼むぞ!」


「えぇぇ… 俺がケロースと兄弟って…」


本人が目の前だが、ケロースと兄弟は嫌すぎる。


「さぁ、お嬢さん、私が厩舎に連れて行ってあげよう… う~ん、いい尻をしているなぁ~ ここの馬は骨だけだったから、久しぶりの肉付きの馬だ…」


 ケロースはそう言って、幌馬車の馬を厩舎に引っ張っていく。あいつの口ぶりからすると、あの二頭は雌だったのか… あぁ、普通に面倒見るだけではすまないな…


「では、私はイチロー様の馬をお預かりいたします…」


 そして、ユニポニーが俺が乗っていたスケルトンホースを連れて行く。ユニポニーなら大丈夫だと思うが、ケロースはなぁ… 早速、馬の尻撫でてるし… まぁ、来てしまったのなら、しょうがないし、馬の世話をして働くなら別にいてもいいだろう、俺はダークエルフたちに視線を戻す。


「じゃあ… 中に入ろうか…」


ダークエルフたちは嬉しそうに頷く。きっと城の中に入るのが楽しみなのであろう。




「何… これ… 城の中はあんまり戻ってないじゃん…」


 俺は中に入って、いの一番で驚く。確かに城の外側はあのラブホテルみたいなショッキングピンクから元の白色に戻っていたが、白の内部の壁紙などは、俺が出た時のピンクとハートマークの壁紙だった。


「旦那、おかえりでやす」


「主様、おそかったのぅ」


「わう!」


カズオとシュリとポチが出迎えてくれる。


「おう、今帰ったぞ。他の連中はどうした?」


「ミケとハバナは一緒に遊んでおったと思うが、ハバナの事じゃ、また高い所に登って降りられんようになっておるのじゃろ」


あぁ、出会った時みたいに怖くて降りられなくなっているのか…


「で、カローラは?」


「そろそろ、来ると思うのじゃが…」


「あ、きやした!」


 そう言って、カズオが広場にある階段の方に向き直る。すると、二階から豪華なゴスロリドレスを来たカローラがしずしずと降りて来て、その後ろにメイド服姿のプリンクリンが付き人の様に付きしたがって降りてくる。


「なんじゃ? ありゃ?」


「へ、へい、なんでも城の内装を元通りに出来なくて、それに怒ったカローラ嬢がプリンクリンさんに身体で払えって言い出して、あんな事に…」


カズオが俺に耳打ちをして説明しているうちに、カローラが俺の前までやってくる。


「イチロー様、おかえりなさいませ」


いつもの様な幼女っぽい所作ではなく、どこかお貴族様っぽい所作のお辞儀をする。


「お、おぅ、ただいま…」


「ダーリ…」


 後ろのプリンクリンが口を開こうとすると、カローラがキッっと睨む。すると、プリンクリンは開こうとしていた口を閉じて、押し黙る。


「ところで、イチロー様…」


 カローラは俺に向き直り、目を細めて、姑が嫁いびりをする時の様な表情と口調で言ってくる。


「後ろのダークエルフたちはなんですか? 前に見た者たちのように見えますが…」


「そうじゃ、なんであの時のダークエルフがおるのじゃ?」


 普段なら、孕ませたからやってきたと言うところであるが、今のカローラにはなんか言いにくいな…


「私たち、ご主人たまの子を身ごもったからやってきたの!」


俺が言いあぐねていた事を、後ろのダークエルフの一人が声をあげる。


「えぇっ!? そなた達、全員なのか?」


シュリが目を丸くして驚く。


「あの時の10人…、全員です!」


他のダークエルフが答える。


「た、た、たまたまだと思う…多分…」


俺は、皆から目を逸らして震え声で述べる。


「いやいや、たまたまで10人全員、孕まんじゃろ…」


「あっしの知る限りで… 人間の娘さん三人が2回づつで、イアピースの姫様、プリンクリン嬢、ユニポニーさん、そして、ダークエルフの娘さん10人… 合計で、19回でやすか…」


「いや、この調子じゃったら、ハバナも孕んでおるじゃろ… だから20回連続か… 恐ろしい数じゃな… やがて、この地は主様の子で溢れるのではないか…」


 指折り数えるカズオにシュリが付け加える。いやいや、流石に大陸に溢れるほどは無理だろ、多分… しかし、20人か… 野球チームとサッカーチームが作れるな… 


「とりあえず、イチロー様… 私の城を産婦人科や保育所にするのはやめて頂けませんか…」


カローラは強張った顔で言ってきた。




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