第94話 久々の一人旅

 俺はスケルトンホースで順調に街道を駆けていく。普段は馬車を曳いていることや、乗り心地の関係で、全力速度を出すことは出来ないが、一人乗りの今なら出来る。試しに全速をやってみたのだが、速い速い。普通の馬なら全力疾走は五分も出来ればいい方だが、スケルトンホースなら、疲労の心配が無いのでやりたい放題だ。


 そこで俺はふと思いつく。スケルトンホースに身体強化魔法を使えばもっと速くなるのではないかと。そして、実際に魔法をかけて試してみる。


「ん~ 速くならんな…」


 これはアンデッドだからダメなのか、それとも肉のないスケルトンホースだからダメなのか… どちらかだろうか? 城に返ったら、カローラに聞いてみるか。あいつはヴァンパイアだからアンデッドだし、肉はあるしで比較対象になるな。


 俺はそんな事を考えたり、試したりしながら、街道を駆け抜けていく。飯に関しては、朝、カズオが丁寧な事に弁当を作って渡してくれたしな、このままの調子で行けば、普通なら馬車で二・三日掛かるところであるが、もしかしたら、一日で行けるんじゃないかと思う。


 途中、馬を走らせながら馬上で、カズオの作ってくれたなんだか可愛らしいサンドイッチとスコッチエッグを食べ、時折、小タイムをとりながら進んでいく。そして、日が沈んだ時間ぐらいでなんとかイアピースの首都に辿り着く。流石に夜の闇の中を進むのは面倒だったので、ギリギリ辿り着けたのは助かった。


 流石にこの時間に王城へ行くのははばかられるので、今日は適当な宿で一泊して、明日の朝にでも城へ行くこととするか… では、一晩時間が出来たな… どうするか… 


 俺は一瞬、娼館とか風俗を思いついたが、その考えはすぐに消し去る。前にロアン達と一緒に旅をしていた時に、娼婦に首筋にキスマークをつけられてすぐにバレた。その後もキスマークをつけられないようにしたが、これもすぐにロアンにバレた。あいつは元々、貴族の出みたいだから、そう言うのを見抜くコツの様なものがあるのだろう。


 明日会う予定のカミラル王子が見抜けないはずがない。しかもカミラル王子にとって、俺は妹の婿だ。キスマークなんかつけてあった日には苦虫を噛みつぶした顔をされるのに違いない。


 という事で、今日は我慢だ。明日、さっさと用事を終わらせて、今日みたいに速攻で城に戻って、まだ頂いてない、ミケでも頂くか… ハバナとセットで頂くのもいいかもしれない… ぐふふ、帰るのが楽しみになって来たぞ…


俺はそんな事を考えなら中央通りを進み、良さそうな宿を見つける。


「この辺りでいいな… おい、一泊したいんだがいいか?」


俺は宿屋の前の宿の関係者と思われる老人に声をかける。


「はい、お泊りですか? 大丈夫ですよ」


 老人は俺の声に気が付いて、スケルトンホースを珍しそうに見ながら、すぐに近くによってくる。


「じゃあ、馬を回しておいてくれるか、飼い葉と水はいらんが、他の馬が怖がると思うので、場所を離しておいてくれ、その分の金は払う」


 俺は馬からおりて老人にそう告げると、老人は引き換えの割符を俺に手渡して、珍しそうにしながら、スケルトンホースを厩舎に連れて行く。


 厩舎というか馬小屋についてだが、某3D迷路の6人パーティーゲームでは馬小屋に泊まるというのが定石であったが、この世界ではそんな事は無かった。そもそも馬小屋に泊まるのは立派な営業妨害になる。金を払わない客は客ではない。一言で言えば邪魔だ。


 なら、泊まる金のない者はどうするのかと言うと、大抵は街や村の広場で寝泊りをする。広場なら噴水や井戸などがあり、水が容易に手に入るからだ。そして、お行儀の良い者は教会で泊まることも多い。礼拝所の長椅子で寝泊りしたり、大きな教会ではその様な者に対しての部屋まで用意している所がある。しかし、教会で宿泊した場合には、薪割りや掃除などの奉仕活動をするのが習慣となっている。まぁ、金のある今の俺にとっては縁のない話であるが…


 俺は宿屋の扉を潜る。宿の中は一階が受付兼食堂兼酒場になっており、二階が宿泊部屋になっている一般的な宿だ。


「へい、いらっしゃい! 飲食で? それとも宿泊?」


カウンターの内側のかっぷくの良いひげ面の親父が俺に声をかけてくる。


「俺一人、両方だ。部屋は一人部屋がいい」


 俺は店内の様子をチラリと見ながらカウンターに腰を降ろす。店内は賑わっている。恐らく、酒か料理かが美味いのであろう。


「部屋は450だ。 飯と酒はどうする?」


「酒はエールでいい、飯はおすすめをくれ」


「エールは35、飯は115、合わせて600だ。先払いで頼む」


 俺は懐から大銅貨6枚を取り出し、親父に渡す。親父は金を確かめると、ドンとエールのジョッキを出す。俺は渡されたエールを一口飲む。少し冷やしてあるな、流石は首都の宿屋だな。魔法の器具で冷やしているのであろう。


「親父、景気はどうだい?」


俺は注文の酒を次々と注いでいく親父に尋ねる。


「なんだ、兄ちゃん、なにか情報が知りたいのか? それなら、情報紙を買ってくんな」


 親父は振り返りもせず、ジョッキに酒を注ぎながら答える。まぁ、都会の酒場で一々応えていたら仕事にならんからな…


「いくらだ?」


「200だ」


 俺は高いなと思いながら懐から金を出す。この辺りは現代社会が有難く思えてくる。新聞でも150円だし、スマホを使えばただで情報が手に入ったが、この世界ではそうは行かない。200と言うと、日本円にして2000円だ。


 親父はウェイトレスにジョッキを渡すと、カウンターの奥に束ねてある紙束から一枚とって、俺に手渡す。なんか新聞というよりかはかわら版だな。


 俺はエールをちびりちびり飲みながら、その情報誌に目を通す。情報誌にはこの大陸のある程度の情報が記載されている。魔族と王国連合との戦役の状況だ。どこもかしも一進一退のようだが、このイアピース近辺は比較的、落ち着いているようだな。この辺りのボスとしていたカローラとプリンクリンは俺が服従させているし、イアピースとガイラウルの国境近辺にいたシュリも服従させた。俺って、この国にかなり貢献してるじゃん。


 しかし、こうして改めて見ると、魔族側の進撃ってなんだか、なんかこう、軍勢で陣取りみたいな感じに侵攻するという感じでなく、散発的というかゲリラ的なんだよな… なんでなんだろ? こんなの戦略的にマズイだろ。各個撃破してくれと言わんばかりじゃないか。


 といっても、魔族側の存在はドラゴンだったりヴァンパイアだったり、プリンクリンみたいに人間を惑わす奴だったり… 一般人が相手に出来る存在ではないから苦労しているんだけどな…


「へい! お待ち! ムケッカとシュハスコの盛り合わせだ!」


 魚介類をミルクで煮込んだシチューみたいなムケッカと、串焼きのシェハスコがドンと出てくる。うはっ! これは食べ応えありそうだし、美味そう~


俺は、読みかけの情報紙を懐に仕舞って、夕食をガッツき始めた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



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