第75話 婆さんは林に柴刈り

「しかし、まぁ… 少しだけ、戸棚の中から出たくないクリスの気持ちが分かったよ…」


俺はそう言葉を漏らす。


「あぁ、そうじゃな… あの町には再び訪れにくいな…」


向かいに座るシュリも項垂れて答える。


「私もあんな公開処刑の気分を味わうのは初めて…」


カローラも俺の横でそう漏らす。


「こんな時は美味いものでも食って気分転換するのがいいな…」


「そうじゃな…クリスが落ち込んだら、骨付きあばら肉を食いたがるのが少し分かった気がするわ」


シュリが頭を上げて答える。


「よし! そうするか!! おい! カズオ!!」


俺は意を決して、御者台のカズオに聞こえるように声を上げる。


「へい! 旦那ぁ! なんでやすか?」


御者台のカズオから返事が返ってくる。


「今日は早めに飯にするから、どこか野営の出来そうな所へ止めてくれ!!」


「へい! 分かりやした!!」


カズオの快い返事が返ってくる。


「ポチ!」


「わう!」


 俺がポチを呼ぶと、気持ちの嬉しさをぶんぶんと尾っぽを振り回してポチが俺のところにやってくる。


「よーし! よし! よし! ポチは可愛いなぁ~! いい子だ! いい子だ! よし! よし! って、ミケもいたのかよ」


 俺がポチをワシワシしていると、手に何か異物に触れたので確認してみると、ポチの背中の毛にミケが埋もれていた。よく考えれば、こいつの事すっかり忘れていたわ。


「酷い言い方にゃー 私はずっとポチの背中にいたのに…」


「あぁ、お前も臭いが苦手で逃げていたもんな…」


今日のミケはいつものポチの上で寛いているのとは異なり、なんだかぐったりしている。


「なんか、お前、ぐったりしてるな? どうした?」


「臭いものは食べられないし、生肉もなんだか… だから、お腹が減って動けないのです…」


 あぁ、確かに生肉は食べられないと言ってたな、それではポチと一緒にいても何も口にしていなかったのか… しかし、こいつ野性味ないな… 今日日、家猫でも腹減ったらもう少し自分で何とかするぞ…


「今日は早めに飯にすっから、もうちょっと待て」


「はぁーい」


ミケはぐったりとして気の抜けた声で答える。


「それより、ポチ」


「わう!」


ポチは俺の前にお座りして、瞳をキラキラさせて尾っぽをふる。


「すまんが、肉になる獲物を捕まてきてくれんか?」


「わう!」


ポチは答えるように吠えると、出入口の前に進み、お座りして俺の方を見る。


「あぁ、今開けてやるからちょっと待て」


 俺は出入口の所に行き、馬車はまだ動いているが、扉を開け放つ。すると、ポチは競馬のスタートダッシュの様に馬車の外へ飛び出していく。


「頼んだぞ~ ポチぃ~」


俺は飛び出してくポチの背に声を飛ばした。


「なんか、ミケを背中に乗せたままであったのぅ…」


「もうなんか、ミケはポチのオプション状態になってるな…」


そうして、暫くしていると川のある水場の近くに馬車が止まる。


「旦那ぁ! この辺りでいいですかね?」


「あぁ、大丈夫だ!」


俺は御者台のカズオに答える。


「さてと、縄はどこにあったかな?」


「縄なんぞ、どうするのじゃ?」


俺が道具箱を漁っているとシュリが声をかけてくる。


「いや、カズオに料理を任せている間に、俺はポチが取ってくるであろう肉を燻製にするための薪や柴を集めてこようと思ってな」


「あぁ、それなら外の道具箱の中じゃ」


たまに柴刈りをするシュリが答える。


「おぉ、そうか、ありがとな」


シュリにそう告げて俺は馬車の外に出る。


「あれ? 旦那、どうしたんでやす?」


「あぁ、カズオが料理をしている間に、俺は燻製用の薪や柴を集めてこようと思ってな」


御者台から降りて来たカズオにそう答える。


「それは助かりやすね、旦那。あっしも町で買ったものを保存食にしたいので頼みやす」


「あぁ、分かった… で、シュリ、お前も柴刈りに行くのか?」


 俺とカズオが話していると、シュリも柴刈りの準備をして馬車の外に出てくる。しかも、帽子に首からタオル。手には軍手のような手袋に鉈。足は膝までの高さがある履物、そして背中には背負子を背負っている。


「主様とカズオが働いておるのに、わらわだけ遊んでいる訳にもいかんじゃろ」


シュリは当然と言う風に答える。


「しかし、シュリ、えらく様になってるなぁ~」


「あぁ、前に柴刈りした時に色々と苦労したのでのう…」


 口調といい、様になっている姿といい、昔、田舎に遊びにいった時のばーちゃんを思い出した。確か畑に行くときはこんな感じだったな… 今度、シュリにもんぺでも買ってやるか…似合いそうだ。


「では、いきますかのぅ~ 婆さんや、 わしゃ~ 薪とってくるでよぉ~ 婆さんは柴刈ってきてくんろぉ~」


俺は日本昔ストーリー風にシュリに話しかける。


「なんじゃ? 主様、その喋り方は? それになんでわらわが婆さんになっておるんじゃ」


シュリは首を傾げて尋ねる。


「いや…なんとなく、合いそうだったから… まぁいいや、という訳で、俺は薪、シュリは柴取ってこい」


「相分かった。主様よ」


シュリはコクリと頷く。


「カズオ、水汲みは骨メイドに任せて、お前は料理しといてくれ」


「へい、旦那、わかりやした」


「こうして、考えると仕事をしないのはカローラだけじゃのう…」


「まぁ、あいつは幼女だし日の上っている間は外に出れんからな…代わりに骨メイドが働いていると思え」


 実際、骨メイドが掃除・洗濯を行ってくれているので、俺たちはかなり快適に過ごせているからな。そもれもカローラのお蔭と考えておこう。


 そういう事で、シュリは近くの林の入口近辺で刈りやすい柴を刈っている。俺は主に燻製用の薪を探すために林の奥へと進んでいく。


 薪といっても燃料用と、今回の燻製用に使うものとは少し異なる。燻製用は煙の匂いの良いものを使い、後でナイフで削ってウッドチップにする。だから、燃えやすそうだったらなんでも良いという事ではない。


「これは普通の薪にしかならんな… あれはもう朽ちてそうだし…」


 俺は林の木々を物色しながら進む。元の世界であれは自分の好みのものをネットでポチでいいが、この世界ではそんな訳には行かない。好みうんぬんより、燻製に適した木が見つかれば御の字である。


「おっ!? これナラだな。燻製に使えるぞ」


 俺は楢の木を見つけると、剣で薪によさげな枝を数本切り落とし、その上で運びやすい大きさにカットする。このままではまだ生木なので、魔法を使って水分を抜き、乾燥した木材へと変える。一瞬で生木を薪に出来るので、ほんと魔法は楽だと思う。


カサリ…


落ち葉を踏みしめる音がする。敵意は感じないので普通に振り向くとポチがいた。


「おぉ、ポチ! 獲物を…って、なに捕まえて来たんだよ…ポチ…」


ポチは褐色の肌の人間を咥えている。そして、俺の目の前でぺっと吐く。


「もしかして…これ、噂のダークエルフっていうやつか?」


伸びて居る褐色の肌の人間を確かめてみると、長い耳をしたダークエルフの女であった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




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