第65話 馬主になろう

「えっ? マジでくれるの?」


俺は差し出されたユニコーンの角を見て尋ねる。


「えぇ、人間にとっては貴重品でも、私たちにとっては毎年生え変わるものなので」


「えっ? そうなん?」


俺は更に驚いて目を丸くする。


「主様は知らんのか? 鹿なども、毎年角が生え変わるんじゃぞ。 ユニコーンも同じでも不思議ではあるまい」


「えぇ~ そうなんだ…」


 俺は差し出された二本の角をまじまじと見る。特に急いで欲しかった訳でもなく、一本大体金貨80枚程度で売れるものだ。金にはなる。しかし、一番惹かれるのはレア素材という事だ。なんか持っているだけでステータスみたいな?


俺は手に取って見ようと手を伸ばすが、二人は角を持っていた手を引っ込める。


「あくまでこれは成功報酬です。バイコーンを倒してからです!」


ケロースが言い放つ。


「分かったよ、倒せばいいんだろ、倒せば」


俺は伸ばした手を引っ込め、その手で頭を掻く。


「しかし、どうやってバイコーンを見つけるかが問題だな…」


「二人を襲いに来るんだから、二人に囮になってもらえば?」


カローラが暖かい飲み物を飲んで、ほっこりしながら言う。


「いやいや、流石に依頼人に囮になれというのはダメじゃろ」


「かと言って歩いて探し回るのも面倒だしなぁ~ ポチに探してもらうか?」


「わう!」


ポチは出番かという様に吠える。


「ん~ ケロースの様子を見る限りポチも処女じゃからなぁ~ バイコーンが逃げるじゃろ… 主様が致して処女を奪うなら別じゃが…」


「しねぇーよ!! 俺を獣姦に導くな! それとポチも期待気に俺を見るな!」


猛烈な勢いで尻尾を振っていたポチがくぅ~んと項垂れる。


「では、どうするのじゃ?」


「うーん、ユニコーンである二人が襲われたと言うなら、馬なら処女だろうが、非処女であろうが、寄ってくるんじゃね? 俺も村の馬がバイコーンに孕まされたって話を聞いたことがあるから。二人はどう思う?」


俺は、実際の被害者である二人に聞いてみる。


「あぁ、奴らなら確かにそうですね… 今回、私たちを襲って来たのもそれが目的でしょう…」


ケロースとユニポニーが頷く。


「なら、近くの人里にでも行って、囮用の馬でも買うか」


「主様、借りるのではなく、買うのか? 金がかかるぞ?」


シュリが金の心配をしてくる。


「ここいらの田舎なら馬一頭金貨10枚もしない、ユニコーンの角が貰えたら十分お釣りがくるだろう」


「なるほど、馬一頭よりも、人間にとってはユニコーンの角の方がよっぽど高価なのじゃな」


「まぁ、確かに馬は生活必需の生き物だが、ぽこぽこ生まれるしな、その点、ユニコーンの角はめったに手に入らん」


俺は飲み干して空になったコップを腕を伸ばして炊事場の所に置く。


「では、先程通り過ぎた村に引き返して、馬を買うか?」


シュリも飲み干したコップをおろす。


「じゃあ、そうするか… おい、カズオ!」


 俺は馬車の中から御者台にいるカズオに呼びかける。暫くするとガサゴソと物音がして、連絡口からカズオが顔を覗かせる。


「へい、旦那、なんでやしょ?」


「さっきの村に引き返してくれ、囮用の馬を買いに行く」


「分かりやした。ちょっと先へ進んで馬車を回せそうな所を見つけたら、回してさっきの村へ引き返しやす」


そう言ってカズオは御者台に引き返してく。


「しかし…あのオークは本当に醜悪ですね… 生理的嫌悪どころか鳥肌が立ってきました…」


ユニポニーがそう漏らす。


「私もだユニポニー、あのオークに対しては吐き気すら催す…」


「お前ら、言いたい放題…ほんとフリーダムだな…」


俺はそう彼らに感想を漏らす。


 そして、暫く馬車は進み続けると、大きな広場を見つけたのか、ぐるりと大きく回り始め、またまっすぐ進み始める。


「まぁ、村に戻って、どこかで適当な馬でも買って、バイコーンの来そうな所につないでおけば勝手に向こうから来るだろ」


「何を言っている! 馬を適当に選ぶなんてありえない!」


俺のポロっと漏らした言葉にケロースが声を荒げる。


「おい、急になんだよ…」


「君は馬というものを全く理解していない! 馬にはそれぞれの色、姿、声、性格など様々な魅力を持っているのだ!」


 俺が前世で焼け死ぬ前に馬のゲームが発表されるとあったが、それをやっていたら、俺も馬に対する見る目が違ったのか? まぁ、やってないから何とも言えないが…


「これでは、馬の選定を君に任せておくことは出来ないな! 馬の選定は私が行う!」


 ケロースは鼻息を荒くして宣言する。まぁ、馬であるバイコーンを呼び寄せる為の囮に使う馬を、これまた馬であるユニコーンが選ぶんだ、間違いは無いだろう。


「じゃあ、馬の選定はお前に任せるよ。他の奴も村の中を見て回りたかったら、見て回ってもいいぞ」


「ほんと! イチロー様!」


カローラが瞳を輝かせて声をあげる。


「お、おぅ… いいが… どうしてそんなに喜んでんだ?」


「カード買いに行きたい!!」


カローラは腕を大きく広げてアピールする。


「いや、さっきの村じゃカードなんて売ってないだろ…」


「でも、掘り出しものがあるかも!」


カローラは期待に目をキラキラさせている。


「まぁ、あんまり期待すんなよ… で、他の奴は?」


「わらわは本が欲しいのぅ」


シュリがそう言う。


「本も厳しいんじゃないかぁ… あっても農業関係だろ…」


「そうか…まぁ、農業関係の本も一度読んでみるか…」


いいのかよ、そんな本で…シュリ、お前は農業でも始めるつもりかよ…


 そんな事を考えながら他のメンツを見る。クリスは…まぁ、放っておくか、いい大人だし、次にポチは…まぁ、村に用事はないだろ。ミケは… と思っているとミケと目があう。


「私は友達が欲しい」


「友達が欲しいって、もう猫は増やさないぞ」


 あらかじめ釘を刺しておく。前に猫の多頭飼いで苦労したからだ。こっちの世界でも同じ苦労はしたくない。あっでも、メスの猫獣人ならいいな… その時は考えよう。


しかし、俺はどうしようかな~ 特に金で買えるものに欲しいものはそんなにないしなぁ~ でも別に節約をしている訳ではない。ウリクリからの報酬もあるし、ユニコーンの角も貰えるし、あわよくば、バイコーンの角も狙える。


「旦那ぁ~ 村が見えてきやしたぜ」


御者台からカズオの声が響く。


「では、ウマの娘を買いに行くとするか」


ケロースが声をあげる。


「お前、本当に囮用を探すつもりなんだよな?」


俺はケロースの発言に疑念を感じた。



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