第66話 厩舎は娼館じゃねぇ

 俺たちの馬車は先程通りすがた村の広場に停車する。


「おっし、着いたようだな。ポチ留守番頼むぞ」


「わう!」


ポチは尻尾を振りながら答える。


「カズオ! お前はどうするんだ!?」


俺は御者台に聞こえるように大声で言う。


「あっしは、広場の井戸で水汲みした後、何か食材を買ってきやす!」


俺は、連絡口の所まで進み、扉を開ける。


「あっ? 旦那?」


「ほれ、食材の金だ」


俺はカズオに金貨一枚を渡しておく。


「余った分は今後の食費としてとっとけ」


「へい、分かりやした」


 そして、俺はまた馬車の中に戻っていく。すると、カローラが早速いつものお出かけ準備をしていた。ゴスロリドレスに骨メイドが差すカーテン付きの傘。お出かけの度にゴスロリドレスは必要かと思ったが、衣装をよく見てみると、肌の露出部分は、ほぼ顔しかない。なるほど、こいつなりの日光対策と言うわけか。


「シュリも本買いに出かけるんだな?」


「そうじゃ、ミケの散歩も兼ねて行ってくる」


猫の散歩って…まぁいいや。


「で、ケロースは俺と馬買いに行くとして、ユニポニーはどうするんだ?」


「私はここで、留守番をしておきます」


ケロースと違って囮用の馬には興味が無いらしい…


「では、行くとするか…」


男同士で出かけるのは気に食わないが、馬選びだから仕方がない。


 俺がひょいと馬車から下りると、もの珍しに集まった村人たちが俺たちの様子を伺っていた。


「おい、兄ちゃん、面白いもん乗ってんな」


おっさんの村人の一人が声をかけてくる。


「いいだろ? 魔族側の奴らから奪ったんだよ」


「はぁ~ それでか、骨の馬とかこんなバカでかい馬車なんて初めて見るでよぉ~」


特に警戒していない素朴な村人のようだ。これなら話がしやすい。


「ちょっと、おっちゃん。俺たち、このあたりに出没しているバイコーンの討伐を頼まれたんだが、知ってるか?」


「いや、知らんかったなぁあ~ たまに戦から逃げ延びた馬がうろうろすることはあっても、バイコーンかどうかまで見とらんからのぅ?」


 あぁ、確かに遠目で見れば、角なんてよく見えないし、見ていたとしても普通の馬としか認識しないわな…


「そうか、おっちゃん見てないのか、じゃあ、これから囮用の馬を買いにいくんだが、馬売ってる場所は知ってるか?」


「あぁ、知っとるとも、そっちの道を10分ばかし行ったところに、牧場があるでよ、そこに頼めば売って貰えるべ」


 俺はおっちゃんの指さす先を見てみる。確かに遠くに牧場が見えるな… こんなことなら、直接牧場へ馬車で向かえばよかったな… まぁ、いいや、久々に歩くか…


「おっちゃん、ありがとよ。行ってくるわ」


おっちゃんに礼をつげると俺は牧場へと向かう。


「結構、距離あるな」


「では、走っていくか?」


「いや、距離あるって言ってんだろ?」


「やれやれ、これだから人間は…」


ケロースは人間を見下した態度をとる。なんか、こいつ一々ムカつくな~


「では、私が手本を見せてやろう、後から付いて来い!」


そう言うとケロースは牧場に向かって疾走し始める。


「あいつ、人間形態なのにはぇぇ~」


俺は身体強化魔法と心肺強化魔法を使ってケロースを追いかけた。




 牧場の館の玄関で、ケロースがニヤニヤとした顔で俺を見る。マジムカつくわ~、ちょっと足が早いからといって、この態度はマジ、ムカつく。…クッソ…ちょっと足の速さで勝ったぐらいで…


俺はニヤニヤするケロースの横を通り抜けて、玄関をノックする。


「なんね? なんか用かいね?」


玄関を開けて、初老のおっさんが出てくる。


「ちょっと、馬を買いたいんだが…」


「金はあるんね?」


 おっさんはぶっきらぼうに言い放つ。俺は懐から金貨の入った袋を取り出し、何枚か手のひらに出して見せる。


「ふーん、じゃ、くるんね。厩舎にいくんね」


おっさんは俺の掌の金貨を覗き込んだ後、玄関からでて、館の裏手に向かい歩き始める。


「ここが厩舎ね、好きにみるといいんね」


 俺たちは厩舎に案内されて辿り着いた。俺としては馬の事はさっぱり分からんから、おとなしく見ているのだが、ケロースの方はまるで初めて遊園地に来た子供のようにはしゃいでいる。


「ははは! こんなに馬がいるではないか! しかも、選びたい放題だと?」


「いや、一頭だけだぞ…」


「ちっ!」


くっそ、舌打ちしやがった。


「まぁ、いいじっくり選ぶとしよう!」


 ケロースはまるでスキップでもするような軽快な足取りで厩舎の中を進んでいく。しかし、じっくり選ぶと言いながら、最初の何頭かの馬には見向きもせず、先に進んでいく。


「おい、ケロース、なんでこのあたりの馬は見向きもしないんだよ」


俺が声をかけると振り返って、フンっと鼻をならす。


「これだから人間は…それはオスだ! 見て分からんのか!」


「いや、見て分からんのかと言われても、人間が見て分かる訳が… あっごめん、見て分かったわ」


 馬の下腹部を見ると、立派なモノが存在する。これがウマナミというやつか…確かにでかいなぁ~ 流石のマイSONもこれにはかなわん…


「分かればいいのだ、では先に行くぞ!」


 デッデデデデッデ~♪と鼻歌交じりにケロースは厩舎を進んでいく。しかし、見て分からんのかといいながら、あいつ自身は見向きもしてなかったよなぁ… どうなってんだ?


 そんな風にケロース共に馬を見ていくか、ホント、こいつと付き合うのは疲れる… ただの囮用の馬なのに、好みがうるさ過ぎる…


「この馬はどうなんだ?」


「それはババアだ」


「では、この馬は?」


「ダメだ。非処女だ」


「じゃあ、この馬なら?」


「俺はギャル系は好かん」


 なんか…俺、こいつの女選びに付き合っているような気がしてきた… いつまでこんな事が続くんだよと思っていたら、ケロースが一頭の馬の前で立ち止まった。


「どうした? その馬が気に入ったのか?」


「こ、この娘は素晴らしい… 白馬でなく、芦毛なのが残念だが…」


ケロースは目を奪われたように見入っている。


「見てくれ! このつぶらな瞳を!」


ケロースは馬と目を合わせる。


「いや、馬は全部つぶらな瞳だろ…」


「見てくれ! この愛らしい顔立ちを」


ケロースは馬に顔を寄せる。


「いや、分からん…」


「あぁ、この肢体もなんと美しい事か…」


ケロースは馬の体に手をあてる。


「お前…なんか目がやらしいぞ…」


「ほら、声を出してごらん…」


「ヒヒィーン」


馬がケロースに答えるように嘶く。


「聞いたか! この鈴のなるような爽やかの声を!」


「普通の嘶きにしか聞こえねーよ…おっちゃん、違いがわかる?」


俺は案内してくれている、おっちゃんに尋ねる。


「いや、わしも分かんね。こんな客、初めてなんね」


「まぁ、そうだわな…じゃあ、その馬にするか…おっちゃん、いくら?」


「あん馬、まだ2歳馬なんで、6でいいね」


俺はおっちゃんに金貨六枚を手渡す。


「じゃあ、ケロース! その馬を連れて帰るぞ!」


俺が支払い終わってケロースを見てみると馬に頬ずりをしていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



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