第53話 リア充爆発しろ

「済まなかったね、みんな、言葉一つで8時間も放っておいて」


そう言って主様は空いているソファーに腰を下ろす。


「えっ? 8時間? もう、そんなに経っておったのか?」


「へい、おやつの時間にパンケーキ作って、先程お出しした、ミートパイとフルーツパイは夕食代わりでやす」


わらわの驚きの声にカズオが答える。


「凄い濃密な時間だったわね、ダーリン☆」


そう言ってプリンクリンが主様の隣に密着するように座り、腕を絡ませる。


「そうだね、ハニー… それよりもお腹が空かないかい?」


「そうね、私もお腹が空いちゃったわ、ダーリン☆」


「僕達の分も、食事を用意してくれるかい?カズオ君」


主様はプリンクリンといちゃつきながら、カズオに向き直り、さわやか笑顔でお願いする。


「へ、へい、分かりやした。今、温め直してきやす」


そう言ってカズオは二人の様子に狼狽えながら、席を立ち、厨房へと向かう。


「…で、主様よ…」


「ん?なんだい、シュリちゃん」


シュリちゃん… ん? シュリちゃん!? 主様がわらわを『ちゃん』付けとは!?


「あ、あ、主様… 一体、どういう事になっているのか事情を説明してもらえるか…」


わらわはプリンクリンのあまりにもの変貌ぶりに、驚き、説明を要求する。


「あぁ、プリンクリンの事だね…これは…そう愛だよ! 愛!」


「はぁ?」


わらわは主様のあまりにも想定外の言葉に、目を丸くする。


「僕はね、プリンクリンに愛を分かってもらう為に、しっとり、ねっとり、ぐっちょりと誠心誠意を込めて、愛の実践行為を行ったのだよ」


「私、分からせられちゃいました~☆」


そう言って、主様の隣のプリンクリンは両手を頬にあて、赤面する。


「はぁ…」


 いや、もう…わらわはなんと答えてよいやら…おそらく、主様のいう実践行為は愛というものではなく、ほぼ100%欲望だと思うのだが…


「愛というものを十分、分かってもらったプリンクリンは、もう俺達に敵対する存在ではなく、逆に愛の奉仕者となった訳だ…」


「……」


もう、愛の奉仕者とか、訳が分からん…


「お、お待たせしやした。夕食のミートパイとフルーツパイでやす」


 丁度良い所へ、カズオが夕食を持ってくる。このまま二人の話を聞いておったら頭がおかしくなりそうであった。


「ほほぅ~ カズオ君、また腕を上げたね」


主様が差し出された料理を見て、爽やか笑顔でカズオを褒める。


「へ、へい…ありがとうごぜいやす…」


反応に困るカズオは狼狽えながら答える。


「ねぇねぇ! ダーリン、私が食べさせてあげる! ほら、あーん☆」


「ふふ、プリンクリンは可愛いな…あーん」


「ねぇ、ダーリン、美味しい?」


「うん、美味しいよ、ハニー。じゃあ今度は僕の番だ」


「嬉しい!私に食べさせてくれるのね」


「ほら、プリンクリン、口を開けてごらん…」


「はい、ダーリン☆ あーん」


「ほら、口の中に入っていくよ…ちゃんと飲み込んでね」


「いやん、ダーリンので口の中がいっぱいだわ☆」


主様とプリンクリンはわらわたちの目の前で、互いに食べさせ合いを始める。


「なぁ、カローラよ…」


わらわは目を伏せながら、カローラに声をかける。


「なあに?シュリ」


見ていられないと言った感じで、本を読み始めていたカローラはちらりとわらわを見る。


「わらわは先程まで『初恋、はじめました』で似たようなシーンを読んでおったのじゃが…」


「あぁ、獄長とハート様がベンチでお弁当を食べるところでしょ?」


カローラも『初恋、はじめました』を熟読しているらしく、直ぐに該当シーンを言い当てる。


「そうじゃ…わらわはなんというか…胸をときめかせるというか…キュンキュンさせながら読んでいたのじゃが…」


そして、顔を上げて、いちゃいちゃする、主様とプリンクリンを見る。


「なんで現実はこう…ウザイのであろうな… こう胸がむかむかするというか… 全然、胸がときめかん… ホント、ウザイ…」


 一応、主様の一番の従僕を自負しておるわらわには、わらわたちを差し置いて、主様といちゃいちゃするプリンクリンにある程度の嫉妬のような思いもあるが、それ以上に二人の光景がウザイ…


「ん~ 『初恋、はじめました』の中の二人は、恋に対して、初々しくておぼつかない二人が演じてるからね…」


「それじゃ! 獄長とハート様は恋に初々しかったから、胸がときめいたが、今、目の前の主様とプリンクリンは肉欲の果てじゃからのう…」


「あぁ、えげつない例えですが、分かりやす…」


カズオも同意して頷く。


「さてと、お腹がいっぱいになった所で、僕は休ませてもらうよ」


主様がプリンクリンに口を拭ってもらいながら言う。


「さすがに8時間、ぶっ通しは疲れたからね…」


「あぁ…そうじゃろうな…」


わらわは顔をひきつらせて答える。


「じゃあ、みんな、おやすみ。良い夢を」


そう言って、主様とプリンクリンは部屋を後にする。わらわたちはその様子を呆然と見送った。


「では、わらわたちも寝るとするか…」


「そうでやすね…」


「私はもうちょっと本を読む」


カローラはそういうが、骨メイドに抱きかかえられ寝室へと連れていかれる。


「そういえばミケは…」


 わらわは視線を動かして、ミケの姿を探すが、ミケは寝ているポチの横に寄りかかって既に寝ておった。クリス同様にポチに寄りかかって寝ている。


「なんか、わらわの部下にするつもりで連れて来たのに、ポチに取られてしまった気分じゃな…まぁ、良いか… そんな事より、わらわも眠い」


 主様も去ったので緊張が解けたのか、一気に眠気がくる。わらわは欠伸をしながら、ぎゅぅ~っと伸びをする。


「おやみすなさいやす。あっしは片付けをしてから…」


カズオがそうって片付けようとしたところ、骨メイドがカズオに首を振って、片づけを始める。


「えっ?ノゾミさん、代わりにやって下さるですかい? それはありがてい。頼みやす」


カズオも欠伸をはじめ、後の片づけを骨メイドに任せ、自室に戻るようだ。


「では、また明日な」


こうして、わららたちはそれぞれ、眠りにつくことになった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



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