第54話 リア充の末路
あぁ…やっちまったなぁ…
俺は食堂のテーブルに両肘をつき、考え込む。
「ねぇねぇ、ダ~リン」
プリンクリンが俺の首に腕を絡めて、じゃれついてくる。
「おぅ…なんだ、プリンクリン」
「ダーリンってば、朝から素敵よぉ~大好き☆」
「おぉ、そうか…」
自分で仕出かした事とはいえ…こんな事になるとは…
「おはよう~ 主様よ」
そこへ、シュリがトコトコと食堂に現れる。
「ちょっと、プリンクリン。何か飲み物を取って来てくれないか…」
「はぁい、ダーリン。愛情たっぷりのお茶を入れてくるわね」
そう言って、プリンクリンはスキップでもしそうな軽い足取りで厨房へと向かい、俺はプリンクリンの姿が見えなくなるのを確認してから、シュリを手招きする。
「なんじゃ?主様よ」
シュリは俺の所にやってきて、テーブルの端で顔だけぴょこんと出す。
「正直、プリンクリンが少しウザイ…」
「いや、それは主様のせいであろうが…わらわに言われても…」
そう言って、顔だけのシュリが眉をしかめる。
「それは分かっているんだが、どうにかならんか?」
俺の言葉にシュリは一度、厨房の方を見て、俺に向き直る。
「では、ウリクリにプリンクリンの御首級を差し出すのか?」
「いや、それは流石に…」
俺はシュリの言葉に顔を背ける。
「なら、我慢するしか無かろうに、今はプリンクリンも浮かれておるから、そのうち大人しくなるかもしれん」
「やっぱ、それしかないわなぁ~」
そう言って俺は頭を抱える。
「ダーリーン!」
「ほれ、主様、呼んでおるぞ」
シュリが意地悪そうな顔をして言う。俺は指の隙間からチラリとプリンクリンを見る。
「愛情たっぷりのラブラブカフェを持ってきたわよ☆」
カップの中にはフレッシュを使ってハートマークが描いてある。
「お、おぅ…ありがとう」
たかが、カフェだが、朝から愛が重い… 仕方なく、俺はカップの把手に指を通す。するとその時、プリンクリンが口に手をあて、少しえずき始める。
「ダーリン、ごめんなさい…ちょっと、朝から胸や胃のむかつきがあって…」
プリンクリンはそう言って、口元とお腹に手を当てる。
「いやいやいや、それはいくらなんでもおかしいじゃろ。昨日の今日でつわりなんて…」
俺はシュリの言葉に思い当たる事があって、シュリから目を反らす。
「ん? なんで、主様は目を反らしておるのじゃ?」
「…いや、確かに昨日の今日で妊娠するはずはないが、最初に会った時に、ガッツリ中で出したからな…」
俺は自分の罪を告白する気分で告げる。
「え~!? あれから二週間近く経っておるから…想像妊娠ではなく、本物と言う事か?」
シュリはまた仕出かしたのかという顔をする。俺は懐をまさぐり、一本の棒を取り出す。
「シュリ、これをプリンクリンに持たせて来い」
「主様、これはなんじゃ?」
シュリは手渡された棒を見つめる。
「これは、妊娠検査棒だ。俺が魔法工房で買っておいてものだ」
「主様よ… こんな棒を買う前に、なんで避妊具を買わんのじゃ…」
シュリはジト目をしながら呆れた様に言う。
「だって、そんなもん付けていたら、気持ちよくねぇーだろうが! それに中出しこそ男の本懐!」
「わらわは女なので、その男の本懐とか分からぬが、後でそんなにビクビクするならもっと、考えてから行動した方が良いぞ… 主様は本能のままに動き過ぎじゃ」
「ぐぬぬ…」
俺はぐうの音も出ない程、シュリに正論を吐かれて押し黙る。
「まぁ、やってしまったものは仕方がない… プリンクリンに持たせたらいいのじゃな?」
「あぁ、妊娠している物が、一分程、その棒を持てば、真ん中の所に赤い印がでる」
「分かった…」
シュリは不機嫌な顔をしながらも棒を持ってプリンクリンの所へトコトコと行く。
「プリンクリンよ、大丈夫か? もしかすると、其方は妊娠しておるかも知れぬ。調べてみるので、この棒を持ってみい」
「わ、私が妊娠? ダーリンの子を…」
プリンクリンはシュリの言葉に、口元の手を放し、シュリが差し出す妊娠検査棒を恐る恐る受け取る。
「一分程まてば、結果が分かるそうな」
プリンクリンは真剣に祈るような眼差しで、妊娠検査棒に注視する。
「うくっ!」
しかし、その途中で再び吐き気が襲って来たらしく、口元に手をあて、妊娠検査棒を落としてしまう。
「おはようごぜいやす! 朝食が…おっと、何か落ちてやすぜ…」
そこへ厨房から朝食を乗せたカートを押しながらカズオがやってきて、途中で、プリンクリンが落とした妊娠検査棒に気付いて拾い上げる。
「…できやした!」
カズオは拾った妊娠検査棒の赤い印が見えるように持ちながら、笑顔で告げる。
「おめぇぇが、それ持って微笑むなぁぁぁ!!!」
俺は咄嗟にカズオにケリを食らわす。
「うぼぉぉ!!」
腹に俺のケリを食らったカズオは吐き出す様な声を上げた後、妊娠検査棒を手放して転がっていく。
「だ、だんな! なんでいきなり蹴ってくるんですかぁ!!!」
カズオは俺に蹴られた腹を押さえながら、抗議の声を上げる。
「お、お前が絶対に許されない行為をしたからだろうが!!」
「あっしには何の事か分かりやせん! シュリの姉さんも何かいってくださいよぉ~!」
鬼の形相で怒る俺の顔を見て、カズオはシュリに泣きつく。
「…いや、さっきのはカズオが悪い… お陰で、妊娠しておらんのに、わらわまで気色悪くて胃がむかつき始めたわ…」
そう言って、シュリも口元と腹に手を当て、眉を顰める。
「えぇぇ~!? シュリの姉さんまで…って、あっしも腹蹴られた痛みで…」
カズオも口元と腹に手を当て、えずき始める。
この状況下にポチも食堂へ姿を表す。ポチは皆を一望した後、何か嗅ぎつけたのか、プリンクリンの所へ向かう。そして、何度かクンクンとプリンクリンの臭いを嗅いだ後、俺に向き直る。
「わう!」
ポチは一度、吠えると、俺にケツを向け、猛烈な勢いで近づいてくる。
「いや、ポチ! ちょっと、今、ややこしいから… ちょっとケツ押し当てんなって!!」
俺は必死にポチのケツアタックを阻止しようとするが、今日のポチは何だがやる気が違う。俺にケツをこすりつけるのをやめない。
「おはよぉ~」
今度はカローラが眠気眼をこすりながらやって来る。そして、目をこすり終わった手をどけて、プリンクリン、シュリ、カズオが口元と腹に手を当ててえずく姿と、ポチが俺の股間に尻をこすりつけているという、地獄の様な惨状を目の当たりにする。
「えっ…何これ…」
カローラはみじろぎながら、声を漏らす。
「に、妊娠しちゃったの…」
プリンクリンがカローラの言葉につらそうに答える。
「えっ?全員? カズオまで? ポ、ポチは今妊娠させているところなの?」
カローラは顔を引きつらせる。
「じゃあ… 私は二度寝してくるから、イチロー様…頑張ってね…」
カローラは後退りながら、食堂から逃げ去ろうとする。
「ちげぇーよぉ!!!」
俺の言葉が届く前に、カローラは慌てて駆け出していった。こうして、俺達は朝食を食い損ねたのであった。
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