第37話 カズオとポチの行動


カズオの行動


「はぁ、旦那は騒ぎが起きるまで待ってろって言ったやしたが、本当起きるんでやすかね…」


カズオは邸宅の中にある庭園の繁み中で、そう呟く。


「く~ん」


ポチのカズオの近くて座っている。


「折角、夜なべして、衣装も作り、オメカシまでしたというのに誰にも見て貰えないのはちょっと、残念でやすねぇ…」


 邸宅に侵入して30分程経つが、騒ぎの起きる気配はない。シュリとカローラの姿は邸宅の中に入っていったので、そこからどうなっているかはカズオには分からず、ただ時間だけが過ぎていくのを感じられる。


 カズオはポチと一緒に居るが、シュリの様に会話が出来るわけがなく、ただなんとなく感情が読み取れるだけなので、ポチと会話して時間つぶしをする事は出来ない。


 どうにかして暇を潰すことが出来ないかと考えていると、漸く邸宅の方から動きがあるような声が響いてくる。


「なんだ!これは! 仲間が倒れているぞ!」


一人の男の第一声から始まり、次々と人の声が上がり始める。


「こちらにも倒れているぞ!」


「こっちもだ!」


「夜勤組は全滅か?」


 幾つもの声が上がり始め、もう騒ぎになっていると思い、カズオは確認する為、繁みから顔を出し、確認を試みる。


「「あっ」」


 しかし、顔を出した瞬間、事態を確認していた男と、その様子を確認しようとしていたカズオとが目が合う。


「いたぞぉ!!いたぞおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」


男はいきなり雄叫びをあげる。


「ひぃっ!!」


カズオはバレた事と男の雄叫びに小さく悲鳴を上げる。


「うあああああああああああ!!!いたぞおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


さらに続く雄叫びにカズオは頭を引っ込め隠れるが、男の雄叫びに仲間が合流し、声がカズオへと近づいてくる。


「出て来いクソッタレエエエエエ!」


 男達の雄叫びと、近づいてくる足音の恐怖に、カズオはたまらず、繁みから飛び出して逃げ出そうとする。


「いたぞぉ!!いたぞおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」

「くそぉぉぉぉ!貴様ぁぁぁぁ!!!!」

「プリンクリンたんの衣装だとぉぉぉぉぉ!!!!」

「化け物めえええええぃ!チキショォオオオーー!!」


 男達の雄叫びはカズオが姿を見せた事により、一層勢いを増し、カズオに襲い掛かってくる。カズオは逃げながらチラリと男達の姿を見る。男達は血走った目を見開き、まるで鬼の様な形相でカズオに向かってくる。


「ひぃぃぃぃ!!!」


 カズオはその太短い足で逃げようとするが、男達の足の方が早く、すぐに距離が縮まる。そこへ、ポチがカズオの股を潜ように駆け出し、そのままカズオを背に載せて駆け出す。


「くそぉぉぉ!! 狼!? いや、フェンリルか!!」

「そんなものまで、用意していたのかぁぁぁ!!」


 カズオに一太刀浴びせるまでもう少しに近づいていた男達は、ポチによって引き離されたことによって怒りの怒声をあげる。


「ひぃぎぃぃぃぃぃ!!!」


 なんとか男達から逃れたカズオであるが、高速で立体的に駆けるポチの背中で、恐怖の悲鳴を上げる。


ぎぃりぃぃぃぃぃ!!!


 カズオ達を追掛ける男達の激しい歯ぎしりの音が響く。なぜなら、カズオ達を追う男達の目には、ポチの背に乗り、プリンクリンの姿をしたカズオのケツの、女物の下着が丸見えだからである。しかもケツに食い込んでいる。


「きぃぃぃさぁぁぁぁまぁぁぁぁあ!!!!」

「そこまでぇぇ!プリンクリンたんを愚弄するかぁぁぁぁぁ!!!」


 カズオのケツの女物の下着が、男達の怒りに油を注ぎ、その怒りを一層強く燃え上がらせる。


「ごぉぉろぉぉぉじぃぃぃでぇぇぇやぁぁぁぁるぅぅぅぅぅ!!!!!!」

「うあああああああああああ!!!」


 カズオを追う男達の数は最初の数人から、20人程に膨れ上がり、その中には近接戦を行う者だけではなく、魔術師などの遠距離攻撃を行う者も混じり始めた。


「その汚ねぇケツのクソ穴に、チェーンマジックミサイルをぶち込んでやるぅぅ!!!」


「ひぃぃぃぃ!!! そんなのらめぇぇぇ!!!」


 幾つもの魔法の閃光がカズオたちに降りかかるが、ポチは加速や減速、壁走りなどを巧みに使って回避する。


 そして、ポチは門の方向に向けて疾走する。カズオはもう逃げ出すので安全だと考えていたが、その直前でカクンと直角に曲がって、邸宅の敷地を抜け出さない。


「くっそ!! 逃げ出すかと思ったが、どこまでも俺達を馬鹿にしておちょくるつもりか!!!」


「プリンクリンたんを… 俺達を馬鹿にしやがってぇぇぇ!!!」


 カズオ自身は逃げ出して欲しかったが、ポチはイチローの言っていた陽動作戦を完遂させる為、逃げ出すつもりはない。


「ただ、追うだけでは駄目だ!! 囲めぇぇ! 囲んで袋叩きだぁぁぁ!!!」


 プリンクリンに魅了されて操られているといっても、男達は名うての冒険者たちである。あっという間に、先手を打つ連携を取り始め、包囲を築こうとする。


 しかし、冒険者の連携よりも、ポチの機動力の方が上回り、中々包囲する事は出来ない。逆に男達の前で、急に方向転換することで、カズオが振られて、そのカズオのケツで男達が飛ばされていく。


「くっそぉぉぉぉ!!! 普通に武器で攻撃されるより、腹立つわぁぁぁ!!!!」


カズオのケツに吹き飛ばされた男が吠える。


 だが、カズオを狙う剣戟や魔法が止むことはない。むしろ増えていく。その一太刀、一撃がカズオを霞めていき、カズオの衣装を少しづつ剝ぎ取っていく。


「いやん! らめぇぇぇ!!!! 見えちゃうぅっぅ!!!!」


 通常の女性であれば、少しづつ肌が露わになっていく光景は煽情的であるが、そこはカズオである。特殊な性癖の人間でなければ煽情的とは思わない。しかも、その光景をみる男達は、プリンクリンの魅了により、プリンクリンに忠義と親愛を持つ者ばかりである。すなわち怒りしか湧かない。


 いつしかカズオを追いまわす者は、カローラが戦闘不可能にさせた者以外、殆どの取り巻き連中が参加している。


「さ、さすがにあっしでも、こんな人数…相手にできない!!! ら、らめぇ!! やめてぇぇぇ!!!」


 普段はイチローをキモがらせてイラつかせる言動が、陽動作戦という今の現状では、これまでない程に合致して状況になっていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「騒ぎは始まったようだな… 上手くやっているようだ… これなら、俺は問題なく、プリンクリンの寝室に辿り着けそうだな…」


隠蔽魔法を使っているイチローは三階の窓から、下で行われている騒ぎを見下ろしている。


「さて… この先に行けば、寝室だと思うが… 簡単にいくかな?」


そう言ってイチローは先に進んだ。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇


※プリンクリンが大変な事になるまで後2話


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