第33話 ウリクリへの旅路

「今日はここまでだ」


俺は御者台から連絡扉を潜り、馬車の中に入る。


「旦那、お疲れでやす。これでも飲んで下せい」


カズオは俺が中に入ってくるのを見計らって、温かい飲み物を渡してくる。


「主様よ、どうじゃ?」


「もう、ウリクリの領地に入っていると思う。明日には人里も見えてくるだろ」


俺は、温かい飲み物をちびちび飲みながら、シュリに答える。


 俺達は今、イアピースからウリクリに抜ける、隠し通路を通って、ウリクリに向かっている。


「しかし、こんなものまであるとはなぁ~」


「囮にされていた隠居した王族も、姑息というか狡猾というか、馬鹿ではなかったみたい」


 この道を探し出してくれたカローラが口を開く。


 この隠し通路は囮にされた王族が、祖国を裏切って、ウリクリと内通する為の物である。まぁ、囮にされて殺されるぐらいなら、敵と内通した方がよいと言う事だ。この事も城に残された資料からカローラが割り出したものだ。


「しかし、主様よ、よかったのか?」


「何がだ?」


ソファーの正面に座るシュリが訊ねてくる。


「あのクリスというおなごの事じゃよ。一人で城に残してきて」


「シュリ、それなら大丈夫」


俺ではなく、隣に座るカローラが答える。


「それは、なんでじゃ?」


「あの子、ナギサとホノカと仲がいいみたいだから、色々と話をしているみたいなんだけど、その話の中で、姫が穢された事実を知っている事もあって、もはや、イアピースには戻れないと嘆いていたそうよ


「へぇ~ あいつが骨メイド達にぼやいていたのか… ん?」


そこで、俺は頭の中に何か引っ掛かる。


「あれ? 骨メイドって魔族側じゃないと話せないのじゃないのか? なんで人間のクリスまで話しているんだよ。俺、全然、あの骨メイドが何言ってるのか分からないぞ」


「あぁ、イチロー様、それですか… 大変、申し上げにくいのですが…」


カローラがもじもじしながら申し訳なさそうな顔をする。


「なんだよ」


「私と敵対したことを根に持っている者が多いようです。なので、口を聞きたくないと…」


「…あいつら、根に持つタイプなんだな…まぁ、いいけど…」


と言いながらも、心がチクリと痛む。くっそ! そんないじめみたいな事しなくてもいいのに…


「それより、主様よ、本当にあんな作戦が上手く行くと思うのか?」


「まぁ、作戦無しよりかはマシだと思ってんのだが…まぁ、大丈夫だろ」


「しかし、衣装は準備しておるが、わらわもそして、カローラもプリンクリンとはかなり体格と言うか、背の高さが異なるぞ」


 俺達の作戦は、プリンクリンの姿になった皆を囮として陽動作戦を行い、その囮に敵の取り巻きが食いついた所で、俺がプリンクリン本体に急襲すると言うものだ。


 なので、対策会議の後、カローラにプリンクリンの姿を描かせて、それを見本に裁縫のできる骨メイド達に、衣装をつくらせたのである。


「シュリ、お前がちゃんと本人に化けれたら話は早いんだが…」


「だから、主様。わらわは、対象をじっくり確認せんと無理だと言っておろうが。それに、この衣装じゃが…スカートが短すぎて、下着が見えそうじゃぞ… 本当にこの恰好でよいのか?」


 シュリとカローラはソファーから降りて、衣装棚から衣装を取り出し、プリンクリンの衣装を身体にあてて、確認する。カローラの話では、サークルの姫かアイドル風だと思っていたが、実際の出来上がった衣装を見てみると… 日本の魔法少女アニメの衣装みたいだった。こんな服を着ている奴が人類の敵なのか…


「カローラ、これで間違いないんだろ?」


「うろ覚えだから、完全かと言われると自信ないけど、大体こんなもの。プリンクリンは嫌いだけど、この服は一度着てみたかったから」


 そう言って、カローラも衣装を身体にあてて、なんだか嬉しそうにしている。そこへ骨メイドがやってきて、カローラにピンク色のかつらを被せ、もう一人の骨メイドが鏡でその姿をカローラに見せる。


「うわぁ… そんな色の髪してんのか… 益々、魔法少女じゃねぇか…」


「わらわはかつらを被らんでも髪の色を変える事は出来るが、随分と派手な色じゃなのう…」


 そう言って、シュリは衣装を身体にあてたまま、髪の色をピンクに変える。俺はその姿をまじまじと見る。


「な、なんじゃ、あ、主様… そんなにわらわを見つめて… その…似合っておるのか?」


シュリは頬を染めながら、上目づかいでもじもじと恥じらう。


「シュリ、早く大きくなるか、クソ穴以外の穴を作れるようになれよ」


「クソ穴って… 主様… もう少し、普通に褒めてくれてもいいのに…」


シュリは目を伏せて、ふくれっ面をする。


「いや、俺は普通に褒めているつもりなんだが…まぁいいや、飯食って寝たら、明日はウリクリ領内だぞ」


「イチロー様! イチロー様!」


カローラが俺にしがみついて声を弾ませる。


「なんだ?カローラ」


「街に寄って!街に!」


見下ろす俺に、カローラはぴょんぴょんと飛び跳ねて訴える。


「街には元々寄るつもりだが…」


「カード! カード! ウリクリ限定パックが欲しい!」


「あぁ、カードか! それは俺も欲しいな…おい、カズオ!」


俺は炊事場にいるカズオに声をかける。


「へい、旦那、なんでしょう?」


「これから向かうプリンクリンの居場所への道筋に大きめの街はあるか?」


「へい、ちょっと待って下せい」


カズオは料理の手を止め、エプロンで手を拭きながら、こちらにやって来る。


「カローラ嬢、地図はありやすか?」


「ある! ヒカリ! 地図持ってきて!」


カズオの言葉に、カローラは骨メイドの一人に声をかける。


「あれ? この前と同じ骨メイドじゃないのか? じゃあ、こちらも別の骨メイドか?」


俺はもう一人の骨メイドを指差しながら訊ねる。


「イチロー様、そちらは前と同じホノカですよ。今回、ナギサはくじに負けて、勝ったヒカリが同行しました」


「…俺には見分けがつかん… 今回の一件が終わったら、何か見分けのつく事を考えようか…」


 俺達がそんな事を話していると、骨メイドのヒカリが地図を探し出し、テーブルの上に広げる。


「ありがとうごぜいやす、ヒカリさん。で、みなさん、説明いたしやすが」


そういって、カズオと地図を中心に、皆が地図を覗き込むように集まる。


「今、イアピースとウリクリの間にある隠し通路を抜けた所が、ここでごぜいやす」


カズオは山脈の北側の一点を指差す。


「で、今暴れまわっておられるプリンクリンさんは、魔王の本拠地があるフナイグ側に近い、ウマリホーのあたりでやす」


そう言ってカズオは、ウリクリの西側ウマリホーに指先を滑らす。


「で、今の現在地から、ウマリホーに向かう街道を見ていくと…」


カズオは指先を現在地に戻し、ウマリホーまで向かう街道をなぞっていく。


「途中でタトヒルがありやすね」


カズオは指先をタトヒルの所でポンポンと叩く。


「どれぐらいの街なんだ?」


「さぁ? あっしも行ったことがねぇですので…どれだけの規模かは…」


そういって、カズオは首をひねる。


「でも、イチロー様! 河川があるから、海運物流でそこそこ栄えているんじゃない?」


カローラが期待に瞳を輝かせて言ってくる。


「確かにそれはあるな… イアピースのカズオが囚われた街でも売っていたぐらいだし、売っている可能性は大きいな」


「しかし、主様よ、わらわ達はプリンクリン打倒の為に来ておるのに、そんな事をやっていていいのか?」


浮かれている俺達に、シュリが警告する。


「どんな時でも、心に余裕は必要だぞ」


「慢心ではなく余裕なら良いのじゃが…わらわは主様が軽はずみな言動が多いので心配じゃ」


「えぇ~ カード買いに行くぐらいで、慢心はねぇだろ。それより、早く晩飯にして、じっくり休むぞ!」


そして、俺達は晩飯を食って、明日へと備えた。





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