第31話 お風呂にする?お風呂にする?それとも…お・風・呂?

 俺はロアンのパーティーにいた時も見張りはしていたし、一人で冒険していた時も尚更である。だから、眠っている状態でも、異変が起きた時には直ぐに気が付く。なので、女騎士クリスを拾ってから数日が経つが、俺が眠っている時にクリスの行動も手に取る様に分かる。

 

 ある日、俺が眠っていると、クリスが入っている戸棚の扉が開き、のっそりと歩いて馬車の奥にあるトイレに入り用をたす。そして、トイレから出てきて暫く食料品を眺めた後、再び戸棚の中に戻って扉を閉めて中に大人しく引き籠る。


 ちなみに、俺達全員、クリスを返り討ちするだけの実力を持っているし、別に逃げ出しても困らない、なので先程の様にトイレの世話をするのが面倒だから、拘束は解いてある。


 この様な状況下で、毎日、ポチと並んで食事を摂り、たまにトイレにいって、それ以外は戸棚の中に引き籠る。一体、どんな精神状態で過ごしているのだろうか疑問に思う。俺が言うのもなんだが、こいつはかなり特殊な精神構造をしているに違いない。


 ちなみに、ポチと並んで食事を摂るのは、さすがに犬扱いするのは俺でも気が引けたので、一緒にソファーで摂らないかと訊ねたが、『私は誇り高き騎士だ!、私がお前たち悪人と肩を並べて食事する事など出来ん!』とお断りを受け、ポチと並んで食事を摂っている…ポチならいいのかよ… しかも、ポチの食べ物を強請るのは止めて欲しい。ポチもポチでクリスに食べ物を分けてやる所が、優しい奴だ。


「旦那ぁ、城が見えて来やしたぜ」


御者台のカズオから声が響く。


「ようやくかよ、帰りは行きの倍かかったな」


「まぁ、追手から隠れながらの行軍であったからの」


前に座るシュリが答える。


「カローラ! 城が見えて来たそうだ! そろそろ起きろ!」


 俺はソファーの上の寝台で寝ているカローラに声を飛ばす。俺が声をかけて暫くしてから、もぞもぞとした動きがあってカローラの返事がある。


「…ん…分かった」


 カローラが梯子で降りてくる途中で、下にいた骨メイドのナギサが梯子の下に駆けつけ、カローラを抱きしめて、下におろす。


「なあ、主様よ…カローラへの過保護っぷりが増しておらんか?」


シュリが俺に顔を寄せて話しかける


「だよな… それに精神の幼女化の進行しとるぞ…あいつ、大人に戻る気ねえのか?」


俺はカローラの様子を見ながらシュリに返す。


「まぁ、本人がその気にならねば仕方ないじゃろう…」


俺達が話していると、馬車が動きを止める。恐らく、城の玄関前に到着したのであろう。


「どうやら、着いたようだな」


「じゃな、で、あのおなごはどうする?」


「おっと、忘れる所だった」


俺は戸棚の前まで進み、その扉を一応ノックする。


「…入ってます…」


少し遅れて中からクリスの返事がある。


「入ってますって、そこはトイレじゃねぇよ! それに俺は交代で入る気になんてねぇ!」


「…じゃあ、どうぞ…」


「どうぞでもねぇ! 城に着いたから、さっさと自分で出てこいって言ってるんだよ!って、おまっ! どうぞと言われて、トイレの中に人が入っているのに、更に人が入っていく所を想像しちまっただろうが!」


 俺がサブいぼを立てながらそう叫ぶと、扉がゆっくりと開き、中からふくれっ面をしたクリスが俺に目を合わせない様に出てくる。


「なんだよ、そのふくれっ面は?」


「なんでもない、お前には関係ないだろ…」


 クリスは減らず口で返す。何か言い返してやろうかと考えたが、こいつとの会話はクソほど面倒くさい。なので、無視して俺は出口の扉へと向かう。


 俺が一番最初に馬車から降りると、玄関前の通りを挟むように骨メイドや骨従者が列をなして、出迎えをしていた。


「ようやく、帰って来たかぁ~長かったなぁ~」


俺はなんとなく、身体を伸ばしながら、骨たちの間を抜けて、玄関へと向かう。


「無事に戻れただけでも、儲けものじゃろ」


俺の後にシュリが続く。


「みんなぁ! 帰って来たよ~」


次にカローラが骨たちに手を振りながら出てくると、骨たちは拍手で迎える。


「なんだよ! この出迎えの違いは!」


「もはや、お姫様状態じゃな…」


カローラは左右の拍手する骨たちに手を振りながら進んでくる。


「わう!」


次にポチが馬車の中から出てくる。


「ひぃ!」


その後ろに続いてクリスが姿を現すが、骨たちの姿を見て悲鳴を上げる。


「なんだよ、骨なら馬車の中にもいただろ? 何を今更ビビってんだよ」


「い、いや、流石にこの数は驚くだろ!」


クリスはポチの陰に隠れる。


「こちらから手を出さなきゃ、襲ってこねーよ」


クリスは顔を青くしながらポチに寄り添って進んでくる。


「旦那ぁ、あっしは馬車を回してきやすので、後になりやす」


御者台のカズオはそう言って、厩舎の方へ馬車を進ませる。


「じゃあ、中に入るぞ」


骨従者が玄関扉を開け放ち、俺達は城の中へと進んでいく。


「ようやく、帰り着いたぞ!」


 俺は腕を広げて叫ぶ。城の中に入った事で、ようやく逃走の緊張から解放された気分になったからだ。


「先ずは飯か?それとも広いベッドでぐっすり寝るか? いや、長旅の垢を落とす為、風呂が一番か?」


俺はやりたい事を次々と口にしていく。


「わらわも同じじゃな、とにかくゆっくりしたい」


シュリもそう言って、きゅーっと伸びをする。


「メイド達に部屋とご飯の準備をさせるから、先にお風呂に入って。部屋は前の部屋を準備させるから、それとクリスにも部屋を準備するから、後で案内させるわ」


そう言ってカローラが骨たちに指示をしていく。


「それは困る!」


クリスが突然叫ぶ。


「何が困るんだ?」


「もし、王国軍がここまで来た時に、私が客室などにいたら、裏切ったと思われる! それは困る! だから、私は牢獄にでも放り込んでくれ!」


随分とややこしい事を言うな…


「多分、ここまでは来ないと思うが、お前がそう言うなら牢獄にするか。 で、あるのか?牢獄」


俺はカローラに訊ねる。


「あるよ」


クリスはほっとして、顔を緩ませる。


「拷問具付きの」


クリスの顔が強張る。


「ここの前の持ち主が、拷問好きだったようで、変態じみた物や、断末魔を楽しむ物だったり、色々な拷問道具がある」


「ひぃぃぃぃ!!」


カローラの説明に、クリスは顔を青くしながら悲鳴を上げる。


「拷問具付きの部屋なら、仮に王国軍が来た時に、様々な拷問に屈しなかったと思われて、お前の株があがるぞ?」


俺はニヤついた顔で、悪戯っぽく告げる。


「い、嫌だぁ! どうせ使うつもりだろう!!」


クリスは俺の言葉に否定の叫びをあげる。


「ちっ、信用されてねぇな…」


「お前の何処に信用される要素があるのだ…」


「まぁ、そうじゃな」


「うんうん」


クリスだけではなく、シュリとカローラも同意する。


くそ! みんなして俺の事を拷問するような極悪人だと思っていやがる。滅茶苦茶、心外だ!


「まぁ、俺の事は兎に角、カローラ」


「はい、イチロー様」


カローラは俺を見上げる。


「こいつの落ち着ける牢獄を用意してやってくれ」


「わかりました」


カローラはこくりと頷く。


「で、クリス。お前は牢獄の準備と、俺達が風呂あがるまで、応接間にでも待ってろ。その後、骨メイド達に身体を洗ってもらえ」


俺はクリスに向かって告げる。


「な、なぜ、骨メイドに洗ってもらわねばならんのだ! 自分の身体ぐらい自分で洗えるわ!」


クリスは肩を怒らせながら口答えしてくる。


「だって、お前、凄くくせーんだよ…」


「し、失礼な事を言うな! 私だって乙女なんだぞ!!」


クリスは己が臭いの事を言われて、口をどもらせる。


「乙女っていったってくせーもんはくせーんだよ!! 特になんていうか…そう、獣臭い」


「け、獣臭い?」


愕然とするクリスに、カローラがクリスから顔を背けて、ぷっと吹く。


「えっ? 私は本当に獣臭いのか?」


クリスは狼狽えながら目を丸くしる。


「今までずっと黙っておったが、其方は、森の中に紛れ込んでも違和感ないほどに獣臭いぞ」


「くっ!!」


シュリの言葉にクリスは赤面になって目を反らす。


「くっ!じゃねえよ、ずぶの素人が剥いだ皮なんて着ていたら獣臭くもなるわ」


クリスは顔を真っ赤にしながら俯いて、羞恥の為に身体をチワワの様にプルプルと震わす。


「ナギサ、ホノカ、後でクリスを洗ってあげて」


カローラがそういうと骨メイドの二人はコクコクと頷く。


「ナギサ殿、ホノカ殿…頼みます…」


俺が風呂場に向かおうとした時、クリスは二人の骨メイドに頭を頭を下げていた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇


祝50000PV達成しましたぁ~

皆様、ありがとうございます


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