第16話 馬車の旅と暇つぶし

 夜の闇の中を走り続けた場所は、3時間程進んだところで止まる。


「あれ?止まったぞ?」


 暫く、ソファーに座ったまま待っていると、扉が開き、カローラとカズオが中に入ってくる。


「どうした?」


俺は二人に声を掛ける。


「大体のやり方をカズオに教え終わったので、今日は此処までです」


「ふわぁ~ あっしも昼型なんで」


カズオは欠伸を噛み殺しながら答える。


「あぁ、そうだなそろそろいい時間だから寝るか…で、寝床はソファーの上の所だったな、見張りはまたポチに頼むか」


「わう!」


ポチはしっぽを振りながら、ご機嫌に答える。


「でも、ポチ。この辺りは獣だけじゃなくて、夜盗とかの人間も現れるから、食べちゃダメだぞ」


「わう!」


俺はポチに夜盗を食わない様に言い聞かせる。


「まぁ、主様の立場ならば、さすがに夜盗と謂えども、食い殺すのは憚られるか」


「いや、あいつらばっちいし、へんな薬をやっている時もあるから、ポチが病気になったら大変だろ?」


「そ、そっちの心配であったか… まぁ、ある意味ブレてないというか…主様は…」


そう言ってシュリはヤレヤレと言った顔をする。


「で、寝床は上の寝台には三人、下のソファーには二人寝れるな。場所はどう割り振る?」


 俺はソファーの置いてある談話セットと、その上の寝台をみる。上の寝台は一人一人のベッドになっているのではなく、三人程寝れるキングサイズのベッドの様な作りになってある。


 前の持ち主が隠居した王族で、享楽に耽っていたと言うのであれば、まぁ、そういう利用方法のベッドだったのであろう。金を持っている奴は碌な事を考えないな…まぁ、それを俺が利用させてもらうのだが… 今は適正な女がいないのが悔しい所である。


「あっしは、ソファーで結構ですので、旦那達は上を使って下せい」


カズオは空気を読んでそう答える。


「じゃあ、俺とシュリとカローラの三人は上か… 夜中トイレ行くやつは端だぞ…って、カローラはなにやってんだ?」


 カローラは既にソファーに自分の寝床を用意しており、骨メイドの一人に子供の様に寝かしつけられている。


「あ、あれ…今の幼女状態だから許されるけど… あの調子なら、大人状態でもやってもらっていたんだよな…」


骨メイドがぽんぽんと優しく掛け布団を手で打っている。


「どちらが言い出したのか分からんが、わらわ達が口を挟まぬ方が良さそうじゃな…」


「あぁ、それでホノカさんを選んでいた訳ですね…」


シュリとカズオがそう口にした。


「… じゃあ… 寝るか…」



そして、次の日の朝。


目覚めた俺はベッドから降りて、背筋を伸ばしながら馬車の外に出る。


「わう!」


「おぉ! ポチ! よーしよしよし! 見張りご苦労さん! ん? なんだこれ? 武器? もしかして、昨日の夜に夜盗が来てたのか?」


ポチは俺の前にいくつかの武器を置いて、褒めて貰いたそうにしっぽを振っている。


「わう!」


「おお! そうかそうか! 偉いぞ! ポチ! よーしよしよし!」


俺は、ポチがケツを向けない様に、両手で頭を挟むように撫でてやる。


「わう!」


「旦那、朝飯が出来やしたぜ」


カズオが朝食に呼びに来る。


「おぉ、今行く」


 俺は辺りを見渡してからポチと共に中に入る。死体が無かったので、夜盗は武器を置いて逃げ去ったのであろう。


そして、ソファーに俺とシュリ、その向かいにカズオとカローラが座って朝食をとる。


「首都までってどれぐらいかかるんだっけ?」


「普通なら2~3日ですが、今は夜間は休憩しておりますので、もう少しかかりますね」


俺の問いにカローラがミルクを飲みながら答える。


「普段はって…あぁ、そうか、御者も骨なら休憩いらんからか…」


 そうして、俺達はカズオと骨メイドの作った朝食をとった後、再びカズオを御者に馬車は進み始める。


俺は徒歩では無い、馬車の旅を満喫していた。しかし、一時間後…


「飽きた…」


俺はソファーに座りながら、テーブルに頬杖をついて漏らす。


「主様よ、さすがに一時間は早すぎるのではないか?」


シュリがソファーから離れた場所で、ポチを前に座らせながら俺の言葉に返す。


「と言ってもなぁ…刺激が何も無いし…」


 この馬車はカローラも乗っているため日光厳禁である。なので、窓という窓は分厚い遮光カーテンで閉ざされており、全く外の様子を見る事は出来ない。俺もこんな状態になるとは思っていなかったので、暇つぶしになるような物を準備していなかった。これなら、外にでて、カズオを一緒に御者でもしていた方が、暇をつぶせると考えていた。


「イチロー様!」


そんな俺に目の前に座ったカローラが身を乗り出して声をかけてくる。


「なんだ?」


「お暇でしてら、これをやりませんか?」


そう言って、そわそわしながらカローラは、俺の前にカードの束をだす。


「なんだ?これは?」


俺はカローラからカードの束を受け取って、そのカードを見ていく。


「それは、私とイチロー様とが戦った街から、奪った物の一つですが、カードゲームです」


こいつ、人を襲うだけではなく、盗みもしてたのか。


「ん? あぁ、噂では聞いた事があるが…これの事か…」


 俺はパラパラとカードを捲っていく。


 このカードゲームは王国連合軍全ての地域で流行っているカードゲームで、それぞれの国の将軍や軍隊、その他勇者や冒険者達、はたまた、魔族軍の敵側の人員までもがキャラクター化されたカードになっていて、それぞれを戦わして遊ぶものとなっている。


 そして、このゲームは各国が要人たちが自分達のカードを強くしてもらったり、カッコよくしてもらったりする為に寄付をしたり、またその売上が魔族軍との軍資金になっていると言われている。結構、関係各所の思惑が関わったゲームなのである。


「あっロアンのカードもあるな…」


 俺は元パーティーリーダーだった、ロアンのカードを見つける。やったことが無いので強いかどうかは分からない。続いてパラパラと捲っていくと、アソシエやミリーズ、ネイシュのカードもあった。パーティーメンバーで見比べて見ると、ミリーズはやや強い感じがする。これは教会がバックにいるためであろう…


「おっ、俺のカードもあるじゃん…なにこれ?よわっ…」


 世間一般的な認知度と後ろ盾の無さから、ロアンの半分程の強さしかない。しかしこれは…少し腹立つな…


 続きを捲っていくと、魔族側のカードも出てくる…夜の鮮血の女王…つえぇな…って、これ、カローラのエロピッチピチ時代の姿じゃん! あぁ、それでこのカードゲームをやりたがっているのか…


 俺は視線をカローラに戻すと、瞳をキラキラさせながら期待の目でこちらを見ている。やりたくて仕方ないと言った感じだ。まぁ、外に出てカズオと世間話しながら御者をするよりは新鮮なので付き合ってやるか…


「分かった…やってみるか」


 俺がそう言うとカローラは飛び跳ねて喜び出した。


 こいつは元々こう言う性格だったのか、それとも身体の見た目に精神が引っ張られて、幼稚化しているのかどっちだろう…


「おい、シュリ、お前もするか?」


俺はシュリにも声をかける。


「いや、結構じゃ主様。わらわはポチに色々教えねばならん… ほら、ポチ! さっきから言っているであろう! お手じゃ! お手! … いやいや、そうでは無く… だから、前足を出すだけではなく、わらわの手に乗せるのじゃ」


 シュリはポチを座らせて、お手の練習をしているが、一向に進んでいないようで、シュリが『お手』と言って手を出しても、その上に前足を乗せるのではなく、シュリのマネをして、差し出すだけだ。その都度、手の上に置いてこうするとシュリは教えて、一からやり直している。


 まぁ…あいつらはあいつらで楽しそうだな…


「…じゃあ、二人でやるか… ルールを教えてくれるか?」


俺はカローラに向き直る。


「はい! イチロー様よろこんで!!」


今までにない、笑顔でカローラは答えた。



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