第17話 ゲームとポチ

「ほら、ポチ! さっきから言っているであろう! お手じゃ! お手! … いやいや、そうでは無く… だから、なんで、手の上ではなく、わらわの頭に手を置くのじゃ!!」


 シュリはポチのお手の練習は、一向に進んでいないようで、シュリが『お手』と言って手を出しても、その上に前足を載せるのではなく、シュリの頭の上に載せていた。その都度、シュリはプンプンに怒りながら、頭の上の前足を払いのけ、再び、お手を教えている。


「で、こうして土地カードを横にしてコストを払って、キャラクターを召喚っと」


俺は土地の絵柄のカードを横にして、手札からキャラクターカードを場に置く。


「そうですそうです! でも、普通のキャラクターは召喚したては攻撃できないので、横にして防御表示にしてください」


俺はカローラに指示されて、先程出したカードを横に向ける。


「で、する事が無くなれば、ターンエンドです」


「なら、ターンエンドだ」


「では、私の番ですね。墓場をコストにスケルトンを召喚。そして、その墓場を犠牲にフェラルゾンビを召喚。その上でグール三体のよるアタックです」


 カローラがニコニコしながらそう言った時、馬車の速度が遅くなっていき、完全に停車する。


「あれ?なんだ?止まったぞ? もしかして、盗賊がまた出て来たのか?」


俺はテーブルから目を話して、馬車の中を見渡す。


「わう!」


すると、ポチが一声吠えて、扉に前足をかけて、扉を開けようとする。


「これ! ポチ! お手の練習はまだじゃぞ!」


シュリは立ち上がってポチを止めようとするが、ポチはそのまま扉を開け放つ。


「ポチ、盗賊を追い払ってくれるのか?」


「わう!」


俺がそう尋ねると、ポチはうれしそうに吠えて、外へ飛び出していく。


「なんでじゃ! 主様の言葉は理解しておるのに、なんでわらわの言葉を理解せぬのだ!」


シュリがプンプンになって怒る… しらんがな…


俺はテーブルの上のカードに目を戻し、どう対応するかを考える。


しばらく、考えていると、扉からポチが帰ってくる。


「わう!」


 中に入ってきたポチは、手柄と言わんばかりに咥えきた剣を俺の前に置いて、褒めてもらえるよう座ってしっぽを振る。


「よーしよしよし! 偉いぞ!ポチ! 頑張ったなぁ!」


俺はそう言って、ポチが持ってきた剣を拾い上がて、その剣を眺める。


「これ、中々の業物だな… 最近の盗賊は良い物を持ってるなぁ~」


 俺も剣を使っているから、ポチの持ってきた剣の良さがよく分かる。かなり腕の良い鍛冶屋に剣を打たせて、その上で、センスが良い職人に装飾をさせている。


 この世界で武器とは、我々の世界での自動車に似ている所がある。中古で30万の車があるように、新車の普通車では200万前後、高級車になると1000万になるみたいに、ここでの月収一か月分ぐらいの安い物から、年収分やもっとそれ以上の物がある。


 この剣は良い所の年収一年分は行きそうな価値のあるものであった。まぁ、価値があるといっても、俺の趣味には合わないので、使わないが。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ポチ! ほれ! 次はおかわりじゃ! お・か・わ・り! よいか、お手の次のおかわりは、逆の手をだすのじゃぞ… ちがうちがう! 手を裏返すのではない! 交代させるのじゃ! って、おぬし、器用に手を裏返すのう~」


 シュリとポチはお手が出来たようで、次は『おかわり』の練習をしているが、ポチは差し出す手を交代させるのではなく、毎回、手を裏返している様だ…ちょっと、それは俺も気になる。


「ふっふっふっ… イチロー様、私のゾンビ軍団はどうですか? キャラクターで受けると感染カウンターが乗って、こちらのゾンビが増えますよ?」


「ん~… キャラで受けると、そちらのキャラが増えていき、無視すると俺のライフが削れていくのか… 難しいな…」


 最初は俺にルールを学ばせる為、手を抜いていたカローラだが、段々、本気になって俺を攻め立ててくる。俺はまだ覚えたてで、慣れていないので、本気を出されれば勝てないが、簡単に負けるのも気に食わない。頭を捻って対応策を考え出さねば…


 そんな時、また馬車の速度が落ちて停車する。


「また盗賊か? ちょっと、ポチ行ってきてくれ」


「わう!」


カードの場面から目を離せない俺は、テーブルの上を見たままでポチに言う。


「あっ! ポチ! なんで主様の言葉だけ!!」


再びシュリが怒っている。


俺が暫くの間、テーブルの上を凝視していると、再びポチが剣を咥えて戻ってくる。


「おっ! また手柄を持って帰って来たか! で、今度のは… まぁ、普通の剣だな。よくも悪くもない、でも、よくやったぞ~! ポチ! よーしよしよし!!」


俺は頭を抱きかかえるように撫でてやる。ポチは嬉しそうに力強くしっぽを振る。


「ポチ! 痛い!痛い! わらわが後ろにおるので、そんな強くしっぽを振るでない!」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ポチ! よいか! 次は伏せじゃ! 伏せは簡単だから出来るじゃろ? ほれ、伏せ!…いやいや、ポチよ伏せるだけでいいのじゃ、上向かんでもよい… まぁよい、次はちんちんじゃ、 ほれ、教えたであろう? ポチ! ちんちん! いやいや、ケツを向けるな! ケツを!」


 シュリがポチに伏せとちんちんを教えているようだが、伏せが仰向けで、ちんちんがケツを向ける体制をとっている。どうでもよいが、絶対に人前でするなよ!何を教えているかと思われる… まぁ、ポチがそんな姿勢をするのは、最近俺が撫でる時に、ケツを向けられない様に、がっちり顔を押さえて撫でているからであろう…


「…俺は、ウリクリ聖騎士をセットしてターンエンドだ…」


「では、私の番ですね…ウフフ…イチロー様…私のターンドロー! マジックカード『血と悲鳴の狂宴』を発動! 墓地のキャラクターを生贄にして、その生贄の数の生贄カウンターを生成! 闇よりもなお暗き、紅の鮮血を纏いし、常闇の主よ、その闇の力を顕現せよ! サクリファイス召喚! 『鮮血の夜の女王カローラ・コーラス・ブライマ』!」


うわぁ…イタイイタイ… 自分のキャラカードで中二病全開とは… お前、これがやりたかっただけだろ!


そんな事を考えていると、また馬車が止まる。


「ポチ」


「わう!」


「行ってこい」


「わう!」


ポチはたぁーっと外へ駆け出していく。


「… ポチは、わらわの言う事を聞く気がないのか…」


シュリはポツリとこぼす。


そして、しばらくしてまた、剣を咥えて戻ってくる。


「ポチ、戻って来たかぁ~ 怪我はないか? よーしよしよし! また剣を持って帰って来たな…」


俺はポチから剣を受け取る。


「何だ…今度の剣は…なんかへぼいな…まぁ、盗賊ならこれぐらいが普通だろう。今までが豪華すぎたんだよ」


「くぅ~ん」


「よーしよしよし! ポチは悪くないぞぉ~ よしよし!! おっと、ケツはいいから」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「えっ? ポチ! おぬしはそこまで若かったのか? なに? ふむふむ… そうか、そなたは母上と死に別れたのか… それは不憫であったのぅ… ほぅ… なるほど、なので、おぬしの一族はそなただけになったのか… そうか…それで、主様の子を宿したいのであるな… しかし、物には順序が必要じゃ、末席のおぬしは一番最後じゃ えっ? わらわ? そ、そうじゃのう… わらわが大きくなってからじゃ! えっ? いつ? いつって…いつかじゃ!」


 シュリとポチはなりやら会話をしている。どうやら、シュリとポチで漸く意思疎通が出来るようになったようだ。でも、なんの話をしてるんだ? 俺の子種って言っていたけど…ポチは可愛いが、俺は犬とやる気はねぇぞ!!…多分…


「…で、ターンエンドです…イチロー様…」


「ん、俺のターンドロー。聖女ミリーズで聖杯を墓地にブーン! アンデット系除去、イアピースギルド、ウリクリギルドでPT召喚、ロアンとアソシエをどん! マジック波状攻撃、デッキトップの五枚をめくり、キャラカードでダイレクト…キャラ、キャラ、キャラ、キャラ、キャラ… ある?」


「…ありません…」


 ふぅ…また勝ったな…自分のファンデッキで俺に勝とうと思うなよ…


「って、お前泣くなよ!」


 カローラはスカートの裾を握り締め、鼻をずずっと鳴らしながら、えっくえっくと泣き始める。その様子に骨メイドのどちらかは分からないが、カローラの元へすぐさま駆けてきて、タオルを使って涙を拭きながら背中をさすってやる。そして、抱き付くカローラを抱き返して、ぽんぽんと背中を優しく叩いた後、無言にこちらに向き直る。


って、こっちみんなよ… 俺、悪くない…だろ?…それとも…大人げなかったか…


元々声を出さないが、無言で、しかもドクロで表情がない分、威圧感がすごい…


そこへ、再び馬車が止まる。


「今度は俺が出るか…」


骨メイドの威圧にいたたまれない俺は、ポチを使わず、自らが外へでる。


「なに! 人が現れたたど!? 魔族が擬態しているのか? それとも…」


俺が外に出た瞬間、驚きの声が響き渡る。


 俺自身も声に驚いて、声のする方向に向き直る。そこには俺を見て驚いて目を丸くする女騎士と、その従者4・5人の姿があった。


「えっ? 騎士団なのか?」


 そう言った瞬間、馬車の中から、俺に続いてポチが現れて、女騎士率いる騎士団にたぁーっと駆け出していく。


「で、出たな!フェンリル!」


 女騎士は内股で小鹿の様に震えながら、ポチに果敢に立ち向かうが、棒きれの様にあっさりとポチに倒される。そして、すぐさま、武器を残して蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。その後、ポチはその武器を咥えて俺の所に走ってくる。


「わう!」


ポチは女騎士が落としたであろうこん棒を俺に差し出す。


「えぇっと… おい、カズオ!」


俺は御者台に乗るカズオに声をかける。


「へい! なんでしょう?旦那」


「ここ最近、襲ってきたのは、もしかして全部、あの騎士団か?」


「へい、そうでやす」


 という事は、このこん棒は、ポチに武器を奪われ続けて、新しい武器が買えなくなって、どうしようも無くなった成れの果てなのか…


俺は少し、その女騎士が気の毒になった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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