第22話 一度で二度おいしい旅行へ

「なんで尚人も一緒なんや。絵里香ちゃんとふたりで行こうと思ってたのになあ」

「俺は俺で楽しむから、運転手だと思え」

「そう考えると悪くないな」


 なあ、絵里香ちゃん?

 そういっておばあちゃんは笑ったけど、私は知っている。

 「長崎の旅行、五島さんも一緒に行きたいんです」って伝えたら、最初は「なんでや~~」って文句言ってたけど、すぐに「尚人と一緒に旅行行くのはめちゃくちゃ久しぶりや」ってすごくうれしそうにしていた。

 よく考えたら私はお母さんが亡くなってから、お父さんとふたりで旅行なんて行ったことがない。

 一か月に一度は顔を出すと言ってたけど、三か月に一度も顔を出してない。

 だってこのお店と部屋の居心地が最高すぎるのだ。

 大好きな映画がたっぷりあって趣味があうおばあちゃん、五島さんが作る美味しいご飯に、大好きなVHSに挟まれて眠る日々……もう最高すぎて帰れない。



「そろそろ移動しよう」

「はい!」


 今日は待ちに待った夏休み、旅行に行く日だ。 

 五島さんは全部の荷物を持ってくれて、搭乗口近くのベンチに座らせてくれた。

 たかが二泊三日の旅行なのに、荷物の量がえげつなくて、一週間旅行に行く人より多いと思う。

 どうしても荷物がスリムにならない。


 おばあちゃんは紫の髪の毛を美しく整えていて、今日はシンプルな洋服だ。

 荷物も私より少なくて、すっきりしている。

 斜めにかけたカバンからスマホを取り出して私に画面を見せて口を開く。


「長崎の映画館の人にダイレクトメールしたらな、私のブログを見てくれてたんや」

「記念館されてる方ですから、すごく検索されてると思います」

「絵里香ちゃんと私が書いた本をほしいって言ってくれたから、何冊か持ってきたんや」

「えーー、なんかうれしいですね」

「絵里香ちゃんのオリジナル任俠漫画もネットで買ったって言ってたで」

「それは……うれしいですけど、恥ずかしいですね」


 もうこの業界、好きな人が少なすぎて、みんな知り合いだ。

 でも最近スマホで遊ぶ任俠ゲームが出て、ご新規さんが増えているのだ!

 私はスマホでアプリを立ち上げた。


「見てください。これ新作の任俠ゲームなんですよ」

「なんやこれ。高見さんみたいでかっこええな」

「そうなんですよ! この開発者の方、絶対高見さんのファンだと思うんです。ちょっと調べたらこのアプリ、五年前に私がハマった任俠PCゲームを作ってるスタッフなんです。そのゲーム、私超ハマって! そのゲームの中にも明らかに高見さんでしょ! ってキャラが出てきてたんですよ。たぶんお仲間が作ってらっしゃると思うんです。でもこのゲーム……なぜかバトルがパズルゲーなんです……」

「ばあちゃんいつも脳トレでパズルゲーしてるから、得意やで」

「本当ですか?! 私パズルゲー苦手で。おばあちゃんのスマホにも入れましょう、飛行機の中のWi-Fiは弱すぎるので、今この空港で! あっちがスポットです!!」


 私とおばあちゃんはWi-Fiを求めてスススと移動を始めた。

 すると首根っこを五島さんに掴まれた。


「もう遠くにいく時間はない」

「あーーん!! 入れてくるだけですーー!!」

「もう行くぞ」

「あーーー!!」


 私は五島さんに首根っこ掴まれてゲートの方に向かった。 

 まだ時間があると思うんだけど! でも右手には飛行機内に持ち込めるお茶が三本コンビニ袋に入って持たれていて、私とおばあちゃんが好きなハッピーターンも見えた。五島さんがいてくれると、本当にうれしい。旅行すごく楽しみ。

 となりにちょん、と並んだ私の腰を五島さんが優しく支えてくれた。



 飛行機の中で私とおばあちゃんは任俠アプリゲームを延々を進めた。

 飛行機のWi-Fiは本当に弱いけど、あるだけマシだ。


「ここを……こうひっぱると……ほれ、十連や」

「私このステージどうしても無理だったんですけど、おばあちゃんすごいですね」


 私はシナリオが読みたいのであって、パズルに興味がない。

 でもこのゲームはストーリーが進み、話の中で出会った人とバトル! になった瞬間に突然パズルさせられるのだ。

 どうして……と思うけど、結局課金してもらうのが目的なので、何かしらゲーム要素が必要なのだ。

 だったらトカレフとかコルト・ガバメントとかМ16とかスミス&ウェッソンとか、ストーリーに出てくる銃を増やせば良いのに!!


 飛行機の中で私とおばあちゃんは延々とゲームをした。

 そしてあっと言う間に飛行機は福岡空港に到着した。

 その間、五島さんはぐっすり眠っていたので、膝に毛布をかけた。

 実は急に夏休みを取ることしてもらったので、直前まで忙しかったのだ。来てくれてありがとうございます……。



「福岡やーー! さ、ロケ地巡りしよか」

「新しい一眼レフの出番ですね!」

「ふううう、楽しみや!! じゃあすまんが尚人、荷物よろしくな」

「ああ。俺はホテルで寝てる。クソ眠い」

「すまんなーー!!」


 私とおばあちゃんは五島さんに荷物を頼んで街に出た。

 福岡といえば高見さんが主演した『福岡任俠最前線 VS 四国の猛者たち』という映画があって、それは福岡がロケ地なのだ。

 私とおばあちゃんは事前に超調べてきたので、あっちこっちと移動して同じアングルで写真を撮りまくった。

 五島さんのお店でバイトを始めてからお金に余裕が出て、ずっとほしかった一眼レフを買ってしまった。

 やっぱり『レイアウトを決めて撮る写真』は、仕上がりが違う。スマホより気合いが入るのだ。

 映画の中で高見さんが食べていたラーメンを食べて夕方すぎにはホテルに戻った。

 おばあちゃんの体力はそこまで持たないと知っていたからだ。


「ああ、めちゃくちゃ楽しかった。でももう限界や。風呂入って寝るわ」

「おやすみなさい」


 私はおばあちゃんを部屋の前で見送った。

 今回はシングルルームを三つ取ることにした。

 生活時間帯がかなり違うので、おばあちゃんと一緒に部屋で眠るのは邪魔になると思ったのだ。




「さて、と」


 私は部屋に戻って、オタ活用のパンツとTシャツを脱ぎ捨てた。

 そしてシャワーを浴びて、シャンプーを選ぶ。

 旅行用に一回使いきりのシャンプーを大量に買っていて、こういう時に役に立つ。

 一番香りが良さそうなものを選んで、髪の毛を洗う。

 ドライヤーで乾かして、持ってきてアイロンでストレートにする。

 それで服は……と。私はカバンから四枚のワンピースを出した。


 五島さんとふたりでお出かけ……えへへ。どの服がいいかな。


 実は日中はおばあちゃんとオタ活して、夕方から夜は五島さんとお出かけすることにしたのだ。

 五島さんが、お店を調べて予約してくれたみたいで、すごく楽しみ。

 だからたくさん服を持ってきたの! 荷物には意味があるの! 無駄じゃないの!

 う~ん、どれにしようかな。やっぱりこの前買った花柄のワンピース……でもこれちょっと膝が出ちゃうの。

 お座敷かもしれないし、ひざ下のこっち!

  

 ワンピースを着てメイクをする。

 そして持ってきたパンプスを履いて鏡の前でくるくるまわった。

 うん、良い感じ! 大丈夫、変じゃない。本当に? ちょっと気合い入れすぎ? メイク濃い? マスカラ塗りすぎ? チーク濃かったかな? 口紅変?

 悩み始めると、横の部屋……五島さんの部屋のドアが開いた音がした。

 慌ててバッグを掴んで出ると、部屋の前に五島さんが立っていた。

 

「おかえり」

「はい!」


 五島さんは私を見て優しくほほ笑み、


「着替えたのか、可愛いな。行こうか」


 と言った。

 ひえええええ………可愛いとか、そんな自然に……!!

 その甘い言葉に心臓が掴まれたように痛くなってしまう。


 だってずっと気が付いてた。

 五島さんが私を見る目が、あの駅前で抱きしめてくれた時からぜんぜん違う。

 ものすごく優しいんだもん。


 こんなの心臓がもたない!!

 緊張して身体全体が心臓みたいにドキドキしてしまう。

 耳がほわ~ってなって、さっきから雲の上をふわふわ歩いているみたいに落ち着かない。

 

 でもすごくうれしくてしかたないの。

 私は五島さんに寄り添って、歩き始めた。


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