隠れオタク女子、敏腕社員とオタクばあちゃんに捕獲された結果、最高に幸せになる
コイル@委員長彼女③6/7に発売されます
第1話 驚きの出会い
『だるまちゃん、ついに入手したよ【血の絆・ファースト】』
『ええっ?! 本当ですか?!』
『田舎のビデオレンタルから出てきたんよ。他にも【任俠兄弟・血の手綱】もある』
『めちゃくちゃレアじゃないですか!!』
私……
映画は配信で見る時代になったが、大昔の映画はネットにはない。
それどころか、私が好きなのは五十年以上前の作品でVHSどころか、ベータマックスしか存在しない事も多い。
それは本体を入手する以外、見る方法がない。
【血の絆・ファースト】はレア中のレアで、もう国内にベータは存在しないのでは?! と言われていた。
私も見たことがないが、もう亡くなられている私の推し、
……見たい、我慢できない。
私は電車の中でメールを打った。
『あの、りんごポンチさんのお店って都内ですよね』
『そうだよ』
『今日の夜、お伺いしても大丈夫でしょうか。我慢できません!!』
『ええよ~~! きてきて~~~!!』
「やったぁ!!」
私は電車の中で思わず声を出してしまった。
すると周りのお客さんが「?」と私のほうを見る。
んんっ……、ちょっと良いことがありまして。私は咳ばらいをして誤魔化した。
メールで送られてきた住所を確認すると、会社から全然行ける場所だった。
もっと早く聞いて、行けばよかった。
私はその場所をマップに登録しながら思った。
りんごポンチさんは、私と同じ古い日本映画が大好きな方だ。
高見さんの情報をググってたら、りんごポンチさんのブログにたどり着いたのだ。
そこには古い映画の情報と、愛に満ちた感想がたっぷり書いてあり、嬉しくて即コメントを送った。
初コメから五年。
小さなビデオレンタルショップを経営してること、そこにはベータの再生機と、山のようにお宝があることは知ってるけど……やはりネットの付き合いから一歩踏み出すのは勇気が必要で言い出せなかった。
私は中学高校とお嬢さま学校に通っていて、ずっと表面上の付き合いしかしてこなかった。
みんなが好きなアイドルに興味が持てず、争うように恋する番組にも興味が持てない。
数秒で終わってしまうコンテンツも楽しめず、大騒ぎする人たちを見るのも苦手だった。
そして何度も思った。
みんなが面白いということを理解できない私は、変なんだ。
普通じゃない。
ネットで仲間に出会うまで孤独だった。だから人に踏み込むのは緊張する。
でも勇気を出して良かった【血の絆・ファースト】めちゃくちゃ楽しみ!! きゃーーー!!
お仕事、すぐ終わらせます!!
「すいません
「
「申し訳ありません、忘れてました!」
「お前があまりに忘れるから、俺は作業リストを作ったんだ。それに何度も確認しただろ?! もっとまともに仕事しろ、これ以上俺に無駄な作業をさせるな!! これ以上何をどうしたらお前は仕事を忘れなくなるんだ?! 毎朝同じことを延々言えばいいのか?!」
「すいません!!」
おお、怖い……。
私は企画部の横を早足で駆け抜けた。
今の声は、誰が言い出したか知らないけど、『
怒号飛ばしすぎて、五島さんからの仕事は「怒号さんからです~」って来るくらい怒号さんだ。
私は日の出バスというバス旅行をメインに扱っている旅行会社で働いている。
所属はWEB部で、サイトの作成をメインにチラシなどのデザインを担当している。
私は任俠映画好きが高じて、趣味で同人誌を描いているのでこういう関係は得意だ。
当然会社では趣味を秘密にしているけれど。
希望通り就職できたのは良かったが……私、仕事が遅いのだ。
細かいことが気になって先に進めない。どうしても締め切りギリギリになってしまう。
この前も、もたもたと仕事をしていたら、五島さんに
「どこまでちんたら仕事してたらこんなに時間がかかるんだ、田舎のあぜ道走ってるコンバインか?!」とキレられた。
コンバインって何……?
ぽかんとしたが、席に戻って調べたら、稲刈り機で、本当にあぜ道をのんびり移動していた。
でも仕事を始めたらむしろかっこいい……ちゃんとお仕事してる……コンバインかっこいいよ!!
五島さんは言ったことも忘れているだろう。そして今日も羽鳥くんに怒鳴り散らしている。
……怖い。私はそそくさと部屋に戻った。
「ここ、かな」
私にしては急いで仕事を終わらせて、りんごポンチさんのお店の最寄り駅にきた。
マップアプリ見ながらお店にたどり着くと、瓦屋根の古い日本家屋の前にたどり着いた。
お店の名前は『ニュー・ビデオレンタル』。うん、メールに書いてあるのと同じだ。
場所も前に伺っていた通り、小学校の目の前。
「小学校が目の前で買い物にくるんやけど、何を置いたらいいのか分からんわ~」と言われて、今流行のアニメを教えた。
そしたら「その商品売れるわあ~」と嬉しそうに言ってくれた。だからこのお店で合ってると思う。
昔懐かしのガラスの引き戸を控えめにノックする。
「……夜分遅くにすいません。橘と申します。だるま……と名乗ったほうが良いかも知れません」
私は地元のだるま祭りが好きで、ネットではずっと『だるま』と名乗っている。
引き戸にかかっているカーテンがチラリと開いた。私は慌てて頭を下げて挨拶した。
男性? そうか、同居されてるお孫さんがいらっしゃると聞いた。
……大丈夫かな。初めて会う人は全員苦手で、もじもじしていると、引き戸が開いた。
「初めまして。ばあちゃんのお友達の方ですか?」
「あ、はい! りんごポンチさんのお友達で、
そう言って頭を下げた。
怖そうな声。やっぱり来ない方が良かったかな。
私は女子に囲まれて育ったので、男性は苦手だ。
ビクビクしていると引き戸が大きく開いて、大きな革靴が見えた。
「……橘?」
「はい?!」
苗字を呼ばれて顔をあげると、そこには今日も怒鳴り散らしていた企画部の
ええええええ?! 私は口元を押さえて後ろに下がってしまう。
「お前、WEB部の橘か。マジか。ちょっと待てよ、あの任俠漫画描いてる人が来るって聞いてたけど……え?」
その言葉を聞いて私は青ざめる。
私が描いている任俠漫画は、オリジナルの事務所設定が延々と説明された非常にマニアックな話だ。
昔は任俠ゲームのBLも書いていたが、銃で殺しあうことが一番のBLなんだ! という結論に至り、その本も書いたくらいマニア。ちなみにその本は四冊しか売れなかった。
私が描いた本を知ってるの?!
逃げようとしていると、引き戸がガラッと開いた。
そして真っ白な髪の毛を紫色に染めて、大きなメガネをかけている、可愛らしいおばあちゃんが顔を出した。
「だるまちゃんなの?! 可愛いー! 私がりんごポンチだよ~、よろしくね! はい、見てほら、血の絆始まったよ、入って入って!」
店内の奥には大型テレビがあり、そこには私は何年も追い求めていた【血の絆・ファースト】が流れていた。
チラリと見えたのは、高見さんの子役時代、きゃああ可愛い!! ていうかベータって予想以上に画質が良い。
でも……と、五島さんを見ると、五島さんは私に向かってまっすぐに頭を下げた。
「俺、橘に昔、酷いこと言ったよな」
「……そうですね。ちんたら仕事するコンバイン……と言われました」
「ぎゃははははは!!!!
後ろでりんごポンチさんが爆笑している。そうなんです、酷いんです。
でもそれを言ったことを覚えてたんだ……絶対忘れてると思ってた。私は顔を上げた。
「五島さんは、私に酷いことを言いましたが、その後謝りにきてくれましたよね。だから、そこまで悪い印象はないんですよ」
「すまない」
そう言って五島さんは頭を下げた。
他の人は私の仕事の遅さにただキレるけど、実は五島さんは、あの後「仕上がりは良かった。怒鳴って悪かった」と謝りにきてくれたのだ。
だからいつも怒鳴ってて怖いのは間違いないけど、正しさを持った人だと知っている。
「さあ【血の絆・ファースト】見よ!!」
私はりんごポンチさんに手を引かれて店内に入った。
五島さんに任俠漫画読まれてて恥ずかしいけど、高見さんの子役はもう我慢できない。
お邪魔します!
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