第22話 やべぇ奴の後始末

《side東堂歩》


『さあ、本命をぶつけようか! 』とテンションが上がりまくったところで、環さんによるステイ命令が発令された。

 理由はシンプルにやり過ぎとのこと。という訳で、現在俺は環さんの前で正座してお説教を受けております。


「あのねアユ君? 私たちって秘密組織な訳よ。確かに一番の目的はイクリプスを討伐することだけどさ、その次ぐらいに重要なのが世間の目に触れないってことなの。だって、私たちみたいなファンタジー寄りの存在、いるってバレたら何かと大変じゃん?」

「そやの」


 今だって胡散臭い超常現象特番がそこそこ人気な世の中だ。そこに本物がいるとなれば世界が沸く。


「中二病が大量発生しちゃうもんな」

「違うから。アユ君は頭がおかしいけど、馬鹿じゃないんだから分かるでしょうに」

「サラッと罵倒されたのですが」


 いや頭がおかしいのは否定しないけどね?


「真面目な話だと、現行の法じゃ取り締まれないような存在だからだろ? それだけで世界中は大混乱。下手な方向に流れれば迫害からの中世の魔女狩りルートってな具合に」

「魔導戦姫を前にして魔女狩りを例に挙げる、か。うん、実に皮肉が効いてるけどそういうことだね」


 表の世界において、超常の存在なんて想定されていない。そういう仕組みになっているのだから、そこでひょっこり超常が顔を出せば、社会システム的にも人間感情的にもエラーがでるのが道理だろう。


「だからこそ、私たちは証拠を残さないようにしてる。人的被害を出さないことが最優先だけど、それと同じぐらい証拠隠滅にも力を入れてるの」


 で、と環さんは言葉を区切り、ある方向を指さす。

 そこには何もない。いや、正確には先程まで木々が生い茂っていた山裾の一部である。ついさっき俺が次元振を発生させて、扇状に結構な範囲を更地に変えてしまったけど。


「これ、どう思う?」

「更地」

「うんそうだね。超更地だね。自然豊かな山の中、ぽっかり空いた更地だね。──どう隠滅するのこれ!?」

「さあ?」

「さあ?じゃなーい!!!」


 思いっきりひっぱたかれた。痛いのですが。


「んなこと言われても知らんよ俺。まだ現場職員の研修中だべ?」

「そもそも現場職員がやって良い所業じゃないんだよ! というか戦姫でも殆ど無理だからコレ! 最低でも広域破壊型のAランクが全力振り絞って、漸く実現できるような被害だよ!?」

「それつまり先例があるってことじゃん」

「そういう意味じゃなーい!! っていうか、その先例は大体がやむを得ずなんだよ! ガチバトルの結果そうなっちゃうだけなんだよ!」

「いや俺も真剣にやってたよ?」

「討伐するだけならもっとスマートにいけたでしょうが!!」

「まあね」


 そこは否定しないよ。だって実際にそうだもの。とっ捕まえて身動き取れないようにして、その場にいる戦姫に差し出せばそれではい終了だしね。実際さっきのナマモノもそれでサクッと環さんが消し去ってたし。


「でも、黙認したのは環さんじゃないか」

「そりゃしたけどね!? あんな最終決戦みたいな被害が出るとか思わないじゃん!?」

「音より速く動いたり、ナマモノを五十メートルぐらい殴り飛ばしたりしてるんですが」


 これだけあれば割とやべぇことするって想像できないのかね?


「……いやだって、あれぐらいなら戦姫でもできる人いるし」

「俺もアレだけど戦姫も大概やべぇな」

「それは否定する。月と砂利ぐらい違うからね?」


 天体と砂粒ってそれ比較対象になるんけ?


「っていうかさ、そもそも何で環さんがキレてるの? そういうのって神崎さんやオッサンの仕事でね?」

「その上の人達はね、唐突な大被害を隠蔽するためにてんやわんやしてるんだよ……」


 そう言って環さんは自分の通信機をパスしてきた。


『隠蔽用の機材をありったけ用意して! 大至急よ! 航空写真なんて取られたら目も当てられないわ!』

『直ちに手配します!』

『予備人員も現場に回せ! 隠蔽範囲は第一級に匹敵する!』

『緊急招集をかけます!』


 通信機越しに聞こえてくるトップ陣二人の指示と、それに従う職員たちの声。その様子は控えめに言って大混乱であり、確かに原因とは言えたった一人にお偉いさんが説教などしてる暇は無さそうだった。

 うーん。支給された装備が全壊してるせいで気付かなかった。


「大変そうだね」

「原因がものすっごい他人事そうなのは何でなのかな……」

「だって俺にできることなんて無いもん」

「間違っちゃいないんだけど間違ってるよそれ……」


 そんなことを言われても。何かを破壊することにかけては人より長けてる自信はあるが、何かを治す、直すのは……ものによるとしか。まあ、こんな惨状をどうこうできる魔法的な力は無いのだよ。

 故に開き直って泰然と構えるが吉。まあ、責任追求が来そうではあるが、小森さんを救ったことと、俺の戦闘力を交渉材料にすれば大丈夫だろう。


「……ま、変に責任負わされようが、最悪武力行使で逃げれば良いだけだしな」

「待って。今凄い不穏な台詞が聞こえた。嫌だよ? 私、アユ君と戦うとか絶対に嫌だよ!?」

「……そうか。環さんは俺と戦うのが嫌と思えるぐらいには、俺のことを友人だと思ってくれてるんだな」


 ちょっとしんみりだ。


「確かに友達だとは思ってるけど、そうじゃなくてね? 単純にアユ君と戦えば、確実に私がぶっ殺されるだろうから拒否してるんだよ」

「知ってた」


 キミ、陽気なバカッ娘キャラな癖に割とドライだものね。友情とかよりもっと現実的な視点で物事を見るよね。

 というか、俺って友人だと思ってる相手、それも曲がりなりにも女の子を私情でぶっ殺すような奴に見えるのだろうか? それはそれでちょっとショックだ。フェミニストを気取る気はないが、流石に女子供を理不尽に始末する程イカれてないのだが。……今回に限っては都合が良いので敢えて否定はしないけども。


「じゃ、そんな未来にならないよう一緒に弁明宜しく! トップ戦姫の信用に期待してるで!」

「待って! せめて武力行使だけは否定して! アユ君だとマジでやりかねないから、そこだけはお願いだから断言して!?」

「そんな怖がらんでも」

「だってアユ君が暴れた場合、絶対に戦姫にお鉢が回ってくるじゃん! 反乱分子や逃亡者を国の暗部が見逃す筈無いし、かといって実行部隊じゃ多分アユ君のこと始末できないし!」

「Hey。何かすっげー不穏な存在が仄めかされたのですが。暗部ってマ?」


 そんなのいるのこの国? 口振りからしてフィクションで出てくる闇の公安みたいな、端的に言うところのCIAみたいな奴らだろ?

 だが、返ってきたのは然も当然と言った反応で。


「そりゃいるよ。国ってそんなもんだよ?」

「いやまあ、そういう裏の存在意義を否定はしないし、多分いるだろうなとは思ってたけども……。でも、そういうのってバラして良いの?」


 普通、その手の秘密って信用できる人間にしか伝えられないじゃない? 秘密は知ってる奴が増える程、漏洩する危険がある訳だし。で、俺って自分で言うのもアレだけど多分信用ゼロじゃん。信用できないっていう信用しかないじゃん。


「そもそも私たちが『裏』だし今更でしょ」

「あ、そっか」


 そういやこの組織、魔導とかそういう世界の裏側を扱ってる秘密組織でしたわ。


「そうでなくとも、存在を仄めかすことでアユ君を躊躇させられるなら、リターン的には明らかに知らせる一択。個人的にも国的にも」

「おう。冷静なのな。でもそれって環さんの判断でしょ? 独断専行って言うんでねーのそれ?」

「トップ戦姫を舐めないでくれますー? そのぐらいの権限はあるから」

「おやまぁ」


 そう言って肩を竦める環さんは、普段の天真爛漫、端的に言ってアホっぽい雰囲気とは真逆な冷たさを纏っていた。得られるリスクとリターンを正確に見極め、その上で自分の持てる裁量を効果的に運用しようとする意識。やはりというか、環さんって本質はかなりインテリジェンスな人みたい。


「これはこれは。実に頼もしいこって。それじゃあ、援護射撃はお願いな?」

「……いや、うん。総合的なメリットとかを考えると、神崎さんたちなら絶対変なことはしないと思うけど……。最悪の事態を想定して、うちの皆にはさりげなく根回ししとかなきゃかぁ……」


 そう言って自分のスマホを取り出し、指を動かし始めた環さん。うむ。実に頼もしいことである。

 ただ、それはそれとして思うことがある訳で。


「そんなに俺と敵対したくないのな」

「誰だってイクリプス以上のやべぇバケモノの相手なんかしたくないやい!!」

「凄い暴言を吐かれた」


 あのSAN値直葬ナマモノ以上って評価は、流石に抗議したいのじゃが。何か遠慮なくなってねぇかキミ?

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