入道雲は見ている

にのい・しち

入道雲は見ている

 入道雲。そう呼ばれているらしい。

 力強く神々しい響きだ。

 気に入っているので自らを、雲と呼ぶことにした。


 決めたのは人間という、とても小さな生き物だ。

 小さいのに大勢が寄り集まると、大きな力を持つ不思議な生き物。


 雲はこの世界を何週も回れるくらい、果てしなく生きている。

 時に強風のせいで存在を吹き消されそうになったが、他の雲とくっつくことで、この身を大きくしてきた。

 雲は寄り集まり助け合いながら生存している。


 雲も人間も同じだな。


 さぁ、その不思議な者達はどうしている?

 監察するのが雲にとって唯一の楽しみだ。


 ……何ということだ。

 公園で3人の身体の大きな子供が、身体の細い1人の子供を寄ってたかって痛めつけている。

 信じられん。

 これが彼らの世界で言う、イジメというモノか?


 なぜ人間は道具の使い方はすぐ解るのに、弱い者イジメが悪いことだと解らないのだ?


 同じ黒い髪、黒い瞳、海でへだたり大小違えど同じ島国で暮らしているのに、なぜ、自分達は他の者より優れていると鼻にかけて、別の民族をバカにするのだ?


 ある国では昔、白い肌の人間が黒い肌の人間に首輪を着けて働かせ、またある国では非力な老人や民族を魔女と決めつけ財産と生きる権利を奪った。


 どうして弱い立場の者を自業自得と言い、追い詰めるのか?


 幾年の時を経て世代が変わり、自然すら驚くような街を作っても何も変わらない。


 人間は天にも手が届く建物や雲の先まで行ける船を作れるのに、内面は槍を持って動物を追い回してた時から進歩していない。


 雲は見過ごすことが我慢ならない!

 入道雲とは積乱雲のこと。

 激しい雨を降らせられるのだ。


 さぁ、冷たく降りしきる雨は肌を突いて痛かろう?

 雷はおまけだぁ!

 人の多勢の力を、こんな醜悪なことに使うでない!


 3人のイジメをしていた子供は逃げていったか。

 もう雨は充分だ。

 後は太陽に任せよう。

 あの子達は自分がしたことを、いずれ解ってくれるだろうか。


 あぁ、助けた子供もずぶ濡れになってしまった。

 助ける為とはいえ、すまないね。

 さぁ、風邪を引く前に早く帰りなさい。


 あの子供、雲を呆然と眺めていたな。

 雲が助けたことが解ったのか?

 まさか、そんなはずはない。


 だが、人助けもいいものだ。

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