BITTER COPS(ビター・コップス)

歩夢

プロローグ

 ひどい雨だった。


 それにも関わらず、幼い少年は呆然と立ちすくんでいた。まるで彼の時計の針だけが進むのを忘れてしまったように、静寂に時は止まっていた。


 彼が見下ろすのは、腹に刃物を突き刺したまま横たわる一人の女性。


 「どう……して」少年は震えながら声を絞り出す。



 誰が母さんにこんなこと?


 なんのために?



 頭の中で多くの問いがまるで彼の理性を保つために、絶えず湧き出てくる。しかし一つも答えが見つからない。


 数分前までつないでいた手が、今は湿った地面に触れていた。


 積み重なる疑問と目の前でどくどくと溢れる真っ赤な血。それを必死に洗い流そうとするように、冷たい雨は激しさを増していった。


 静かすぎるほどに地面に広がっていくにごった雨水を眺め、ふと自分以外の周りの空間では時間が経過しているのだと気付く。そして戸惑う。


 なぜこんなに身体が震えるのか。なぜまともに呼吸ができないのか。

 自分の感情が分からないなんて、初めてだった。


 よどんだ血潮に自分の藤色の瞳が映る。

 ―――ようやくはっきりと認識できたものがあった。


 それは一種の高揚にも似た、初めての感情。


 絶対に許さない。必ず見つけ出す。


 少年は誓った。


 その瞳には復讐という、ただひとつの望みが静かに宿り始めていた―――


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