前世勇者にラブコメは荷が重すぎる〜元勇者は現実世界でも無双(ラブコメ)するようです〜

さい

前世勇者にラブコメは荷が重すぎる

「やっば……遅刻っ……」と一人の美少女は食パンを加えながら家を出た。


(私の名前は、いちのせさくら。今日から静浜高校に通う高校生……もしかしてもしかして……これって、少女漫画的な……)


 そんな思いでウキウキとしている桜。


 それもそうだ。

 誰しもが、少女漫画みたいな展開を想像するものだ。

 桜もその一人である……。


 そして、桜が曲がり角を曲がろうとした直後だった……。


(こ、この曲がり角を曲がれば……私の白馬の王子様が──ッ!!)


(ん? 人の気配が……)


 そう一人の冴えない顔のした桜と同じ学校の紋章が付いた男子高校生が言った。


「王子様」と口に出してしまう桜。


 そして、桜が曲がり角を曲がった瞬間だった──。


「瞬間移動……」


 その男子高校生は見えぬスピードで桜の背後に瞬間移動した。


「え……」と目を飛び出すほどの驚く顔をした桜。

「危なかった……俺の名前は大石おおいし亜蓮あれんです。ん? ……その制服は俺と同じ高校生……?」

「なんで……なんでよー!!」と叫ぶ桜。


 たとえ、そこにいた少年が冴えていなくても……桜にとってはどんな人でも良い。

 ただ、少女漫画展開を起こしたかっただけである。


「え、え?」と焦る亜蓮。


(え? 俺悪いことした──ッ!? だって、当たらなかったし……)


 そう、これは少し変わった少年の少し変わったラブコメである。

 これが、彼、彼女との出会いである──。



 ある日の休み時間……。


 亜蓮は机に両腕を置いて枕がわりにし、そこに頭を置き寝た。


 無理もない。

 なんせ、亜蓮は昨日深夜アニメをリアタイで観ていたからだ。

 亜蓮は重度のアニヲタであり、丁度今自分の推していたラノベのアニメがやっており昨日はそれをリアタイで観ていたのだ。


《寝ている姿……かわいいなぁ……》と隣の席の桜は思った。


 しかし……彼には聞こえていた。

 その心の声が……。


(嘘です嘘です。眠いのはほんとだけど……別に寝ていません。ただ、休み時間一人でいるのがやだなので寝たふりしているだけです……そして……気まずい……これじゃぁ、起きれないじゃないかぁああ!! こんな事ならを使うんじゃなかった……)


 そう、大石亜蓮は元々の前世では異世界ファンタジー世界で勇者として冒険をしていた。

 そして、魔王を倒してそれからも修行を積んできて【最強】その名が相応しいほどの逸材となったのだった。

 しかし、【最強】を名乗れるのは一瞬だけであり二十年後にはそんなのも名乗れないほどの者になってしまったのだ。

 そこで、亜蓮は猛特訓をしてもう一度【最強】の名が相応しくなるようにしたのだが……結局、強くなることはなかった。

 なので、魔王を討伐した時に王国から頂いた【転生水晶】という能力をそのままで転生できる古代秘宝を使ったのだが……。

 目を覚ましたら……。

 体が縮んでいた!? というよりも……ニホンという国に赤ちゃんとして転生していたのだ。

 

「あれ……?」


 亜蓮自身最初は戸惑ったものだ。

 なんせ、亜蓮はファンタジー世界に転生するものだと思っていた。

 しかし、このニホンという国では人々は魔法が使えないしそもそも戦いなどない。

 そんな平和な世界に転生してしまった彼は誓った。

 向こうの世界で【最強】を名乗れないほどになった借りをこの世界で返す!! と……。

 つまり……『俺しか使えないこの魔法達で人々を圧倒すると!!』。

 そして、今に至るのだ。


 亜蓮はいろんな人に自分の正体を明かして方が誰も信じてくれなかった。

 無理もない。


(はあ……別に俺が魔法持っててもそこまで【最強】を名乗れる様なこと出来ねーしよ……前だって……)



 コンビニにて。


「透明化!!」


 次の瞬間、亜蓮の姿は消えた。


(ひひひ、これで無料で商品を買い放題だぜ!!!!)


 ウキウキしながら亜蓮はポテトチップスとコーラを盗んだ。

 しかし……その後、彼は知った。

 この行為が万引きだと……。



(いや、前世の世界では万引きとかなかったのになぁ……この世界は平和すぎてつまらなすぎる……)


「では、授業を──」と教師が言った。


(よし、起きるか……)


 亜蓮は起き上がり桜を見た。


 すると、桜は「はぁはぁ」と息を荒くしながら亜蓮をじっーと見ていた。


(やれやれ……)


 ここ入学してから桜という者は亜蓮のことに好意を抱いている。

 何故なら、桜は亜蓮のことを白馬の王子様だと思っているからだ!!!!

 ルックスも全てが完璧な彼女だが……いや、これ以上は言わない。


(やれやれ、もう一度テレパシーを……)


【えー、もう少し可愛い寝顔を見たかったのに……すぅううううううううきぃいいいいいいいいいい】


(やっぱなしで…………桜さんが可愛いのはたしかだ。でも、しかーし!! 流石に俺に好意を抱きすぎなのでは? こんな事になるなら絶好でもできる魔法を覚えておくべきだった……)


「あの……桜さん?」

「はい?」


(なになに? 告白──ッ!?)


「そんなに俺を見ないで貰ってもいいですか……」

「あ、すみません……」と顔を赤くして亜蓮から目を晒した桜。


【はぁ……今日もまた、喋っちゃった……うれしい!!】


(やれやれ、十六年経ってもこの世界は慣れないなぁ……)



「ねぇねぇ、亜蓮くん?」

「ん? どうしたの?」


 亜蓮は桜の方を振り向いた。


「亜蓮くんの好きな食べ物って何?」

「うーんとそうだな……」


(今は食べられないけど……あれだな!!)


「俺の特級グランドクラスのファイヤーボールで炙った黒炎龍の肉だな……。一度食べさせてあげたいよ……」


 あの肉肉しい味を忘れることはないだろう。

 特に亜蓮の魔法は焼き加減が良くとても美味しいと評判だった。


「は、はは……」と流石の桜も苦笑いをした。


【じょ、冗談が……】


「いや、冗談じゃないぞ? 今度、いつになるか分からないが異世界に──」

「いや、流石に無理でしょ……」


(そういうところも可愛い!!)



 カーンコーンカーンコーンと鐘が鳴った。

 お昼だ。


 亜蓮はお弁当を食べていると隣りから。


【冷たい……】


 そんなことを考えていた。


「仕方ないなぁ……貸してみろ……」

「ううん……」と亜蓮に弁当箱を渡す桜。


 そして……。


「ファイヤーボール」


 次の瞬間、亜蓮の指先からは赤く燃える小さな球体の炎が出来る。


 亜蓮はその炎で弁当箱を包んだ。


「ちょっと……!! って、どうやってやってるの!? あと、弁当箱が燃えるぅうう!!」

「大丈夫……」


 そして、亜蓮はファイヤーボールをやめて桜に弁当箱を渡した。


「はいよ……」

「あ、ありがとう……」


 桜は怪しそうにそのお弁当箱を受け取った。

 そして、食べた。


「うまっ!」


 ホクホクとしているお弁当箱は桜にとって感動的なものだった。


「あ、ありがとう……」

「あぁ……」


 桜は笑顔で「ちょっと、だけ……異世界から来たって信じるね……」


 その言葉に照れ、顔を赤くする亜蓮。


「照れ──」

「てねー」


 亜蓮は桜からそっぽを向いた。


(やはり、この世界で俺は生きていける自信がないのだが…… 前世勇者にラブコメは荷が重すぎる!!)


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