第25話 人気のない場所
走り去っていく彩花を俺はすぐに追いかけることはできなかった。どうして彩花があんなに辛そうなのかが俺には分からなかったからだ。だが、その理由はすぐに分かった。俺の前には中間テストでの成績上位者30名の名前と順位が張り出されていた。
「柏村彩花……2位か……」
2位でも十分にすごいことなのだが、それは彩花にとってはなんの意味も持たないのだろう。彩花はなぜだか知らないが1位を取る気しか無かった。いや、最近の彩花の様子を見ていると取らないといけない使命感があったのだろう。そのためにも1ヶ月も前からテスト対策をしていた。
「さすがにこのまま放っておくわけにもいかないしな」
彩花が走って行った方向的に考えて学校から出ていったのだろう。そうなると、彩花を探すのは骨が折れる。だとしても、それが追いかけない理由にはならないよな……。俺も彩花を追いかけようと校門をくぐって学校から出ていこうとすると校門の前で声が掛けられた。
「翡翠。どこに行く気だ? まだ、登校してきたばかりだろ?」
「桜庭先生……」
「まさか、帰るつもりか?」
「……はい。体調不良なんで今日は早退します」
「そんなに元気な早退宣言があるか」
「うっ……」
「けどまぁ、体調不良なら仕方ないな。さっきも1人体調不良だかなんだか知らないが走って駅の方向に向かっていった生徒もいたしな。あいつも今日は体調不良なんだろう」
「!? ありがとうございます」
「なんの事だ? お前は体調不良なんだから帰って大人しく寝ていろよ?」
「はい」
俺は返事をしてすぐに駅の方へと走って向かう。だが、中学時代に一度も部活動に属することなく帰宅部を貫いてきた俺に体力なんてあるわけもなく、駅にたどり着く頃には既にヘトヘトであった。
ここまで来ても当たり前の事だが彩花は見つかっていない。桜庭先生の話だと駅の方に向かっていたのは間違いないのだろうが、ここからどこに行ったのかは分からない。家に帰った可能性もあるが、どちらかと言うとその可能性は低いような気がする。俺ならばどこか1人になることができる場所に行きたいと思うだろうから。
「1人になれる場所……」
カラオケ? 確かに1人にはなれるだろうが制服を着ているので店に入れても学校に電話される恐れがある。それに、落ち込んでいる時にカラオケのような騒がしいイメージのあるところには行かない気がする。そう考えると施設の中だという可能性は低い。
あくまでも俺の予想だが、1人になれる場所。そして、屋外である可能性が高い。人気のない公園などだろうか? だが、この駅周辺には公園などはない。そうなると、彩花の地元。俺の元地元の方がそういった場所は多い。
「考えてばかりいても仕方ないよな」
いくら考えても彩花が今どこにいるのかなんて分かるわけもないので俺は行動すべく駅の中へと進んでいき電車に乗って俺の元地元へと向かっていった。
俺の元地元は都会というよりかは、田舎の部類に入る。マンションや高層ビルなんてものは無いし、田んぼや畑もぼちぼちとだが存在する。大きな建築物が無いかわりに公園は都会に比べるとそこそこの数が駅周辺だけでもあるのでそれを1つずつ見ていくしかないので、俺は駅周辺の公園を見て回る。
「ここで最後の公園だったんだけどな……」
駅周辺にある公園は全て回ったのだが彩花の姿はどこにもなかった。彩花は家に帰ったのだろうか? もしくは、電車に乗っていない可能性すらある。俺は自分の予想だけで動いていたので、俺の予想がまったくの見当違いである可能性も大いにあるのだ。
「けど他に屋外で人気の無さそうな場所なんて……」
路地裏なんかも含めれば人気のない屋外なんていくらでもあるのだが、さすがにそこにはいないだろうという俺の思い込みがあったので探していなかった。けど、そうなってくると公園以外に人気のない屋外なんて……。
「あっ、」
1つだけあった。公園以外で人気が無くて屋外である場所が。確証は無いが彩花がそこにいるであろう自信が俺にはあった。俺は早足でその場所へと向かって、目を凝らしながら歩いていると膝に顔を埋めながら座り込んでいる彩花を見つけた。
「さすがにもう桜は散っちゃってるな」
「……悠くん」
彩花がいたのは以前に彩花と2人でお花見をしに来た時の河川敷であった。
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