第18話 雪の憤り
「どいつもこいつもしけたクエストしかねぇな…」
クエストボード。俺たちは手頃でいいクエストはないかと、吟味しているが、約15秒の長い格闘を経て、俺は飽きてきた。
見渡す限り、地味な仕事。護衛やらそこら辺の仕事の渋滞…
「もっとこう、ダンジョン攻略ーみたいなクエストとかないのかねー」
「あっても、ダンジョン攻略は、ギルドの規定に基づき、Cランク以上の冒険者でなければダンジョン攻略はできませんよ」
おっとさらにここで無情な追撃。というより、ランクというものはあったんだ…ギルドの説明を聞いていなかったのでわからなかった。
『あまりドバッと稼げる仕事がない分、今の手持ちを消費しながら、コツコツ地味にクエストで金を稼いでいくしかないだろう。冒険者なんて言うて、そんなものだろう』
俺の不満げな表情に、雪はさらに無情な現実を投げかけて来る。やめろ…!俺のライフはとっくにゼロだ…!
「はい、お前またそうやって夢をぶち壊すようなことを言うー」
『うっせぇ、だまれ』
わあ辛辣。この頃、雪はどうしようもなくストレスが溜まっているように見える。これは兄として由々しき事態だ。
このままだと、ストレスの溜まった雪に罵倒されるかもしれない。どうしよう、新しい扉を開いてしまったら…!
「雪、なんか最近ストレス感じてるみたいだな…大丈夫か?」
また独り言を言っていると思われないように、小声で雪に話しかける。
『ああ、主にお前と、お前と同じ臭いがするその生首猫のせいでストレス溜まりまくりだよ…』
「分かった!あの猫をちゃんとしつればいいんだな?」
俺は満面の笑みでこの場の模範解答を口にするが、雪は怒鳴った。
『テメェも同じストレスの原因って忘れんなよ!?あとその猫も元はといえばお前が手放さないせいだからな!?』
雪の声をさらっと無視して、俺たちは薬草採集のクエストを受けて、いつもの森に赴いた。
♣︎
微かな木漏れ日とかそんな次元では無く、直射日光がイアの白い肌を焦す。
あたりには雑草しかなく、炎天下の中、座り込むこの作業は地獄であろう。
汗を拭い、俺は雪に話しかけた。
『割とこの薬草採集…高収入だな…風呂代と飯代が確保できる…かなり美味しい仕事だぜ…』
「そう思うんならお前が仕事しろや!何さらっと私に丸投げしてんだよ!?」
断る。
だって働くとか俺のポリシーに反するし…
例え、妹が炎天下に駆り出されて、労働を強いられていても、俺はタダ飯を食らう。
こうして働かずに人の稼いだ金で食うのがうまいもんさぁ…(ゲスい笑み)
「ニャーニャーニャー」
そして、生首猫はあくせく働く、エイルと雪を煽るように鳴く。それもすごい顔して…
その顔を見ていちいちキレて猫をぶん投げそうになる雪を必死に抑えるのが俺の仕事である。
そんなことを続けているうちに、雪はストレスが溜まってきているのか、汗を拭い、血管を浮き出させている。
「ニャー」『雪は』
「ニャー」『ペッタン』
「ニャー」『ぺったんこ』
「ペッタン…ニャー」『ペッタン』
「オイコラァァァァァァァァァ!!」
生首猫と波長を合わせて、ペッタンを連呼していると、ついに雪が大声を出して猫をモキュモキュしてぶん投げた。
だが地面を跳ね、結局煽り顔面のまま雪の前に佇む。
「ちょっとイアさん。暑いからって猫に八つ当たりしちゃいけませんよ」
エイルはそんな雪の様子を叱責し、わざとやっているのか、その豊満な胸を揺らしてみせた。
『やっぱ…デケェな…』
前までは胸があるせいで暑いと文句を垂れていたが、ないのはないせいで俺とか俺とか俺にからかわれるせいか、常にブチギレている。
エイルの無意識な無遠慮にも、雪はキレた。
「はぁ…まじで疲れた…」
『がんばれがんばれユッキ!』
「だったらお前が変われやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺の応援にも雪はブチギレていた。
♣︎
「さて…なんとかクエストを終えられたな…」
『テメェは何もやってねぇなぁ…このゴミ兄貴が…』
炎天下の中、部活で無理矢理走らせる顧問をぶん殴りたくなるようなそんな声で、雪はそう言う。
薬草を採るだけなのに、やけに高収入なのは、あの森は魔獣の出入りが激しいようだ。だから、あの森は、冒険者の間で小遣い稼ぎの森となっている。
なにせ、魔獣討伐だけで無く、魔素を吸った万能で希少な薬草が取れるから。さらっと行って、さらっと帰って来れる。
初心者に優しい森。俺はそう意図して、森の中の看板に、若葉マークをはっつけておいた。
『お前…また余計なことしやがって…』
その様子を、エイルはバカを見るような目で、雪は憎らしげに呟いて見届けた。
そうして戻りたるはギルド。報酬を受け取り、とりあえず帰路につこうとしたその時だ。
「緊急!緊急クエスト!小遣い稼ぎの森にて、キメラの大量発生!ただ今から討伐隊を結成します!」
受付嬢の叫びが聞こえたのは…
その声に俺はそっぽ向いて、その場を去ろうとする。
猪突猛進の勢いで面倒事に首を突っ込む俺だが、今回は何より”めんどくさい“!
家で帰って寝たいのだー!
雪もめんどくさいのかさっさと去れと言う。
「ちなみに、今回の情報に記載されているキメラの一覧ですが…」
「レッドターパーとホリット…」
受付嬢は募らぬ討伐隊に見向きもせず、情報を読み進めていく。
「血霊と猫のキメラ…」
「おい、エイル…」
「…なんですか?」
雪は、受付嬢のある言葉に反応したように、ナチュラルに主導権を奪い、生首猫に視線を向け、エイルに声をかけた。
「キメラって…親元とかあんの?同族に懐くって性質」
「…?一応、親と言う概念はありませんが、血霊と猫のキメラだとしたら、どちらの種族からも嫌われているせいで、キメラはキメラ同士の交友しか持てないと言う話があります」
「………」
エイルのその解説に、生首猫をじっと見つめる。
「ちなみに、報酬は、倒した数に応じて銀貨1枚…」
「………私がやる…」
「本当ですか!?」
雪の呟きに、メガホンを片手にしていた受付嬢は喜色の笑みを浮かべた。
おい雪、まさかお前…
『オイ、雪やめろ…やめるんだ…こいつがいなくなったら…』
流石は兄妹、俺は雪がやろうとしていることを瞬時に察した。
つまり、雪はこの生首猫を親元に帰そうとしているのだ…つまり、こいつがいなくなったら…俺はもう雪のおっぱいの感触を味わえないッッッッ!
「うるせぇぇぇぇぇぇぇっ!」
なんとか弁明しようとする声を、雪は怒号を張り上げ阻止した。
「もう、もう、このクソ兄貴くらいの面倒なやつと…一緒にいたくねぇんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
この2日ほどでどれほど酷い目にあったのか、この猫にブチギレてしまった…
さて、どうなることやら…
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