傘と恋、雨と嘘

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プロローグ

 雨の音のリズムが鼓動のように感じられるのは、傘の下がふたりだけの世界だからだと思います。

 体温がとても近いのです。

 互いが生きていると実感できるほどに、呼吸による肺の収縮と皮膚の発する微かな熱が、自分の空間の延長線上にたしかに存在しているのを感じます。



 て、馬鹿みたい。


 素直に一言で表現すれば良いのに。


 たったの二文字。

 それだけの足りるはずの言葉が、雨で濡れた髪の毛のように重たく垂れ下がって、うねって嫌にまとまらなくて、ほぐれてくれない。馬鹿みたい。


 なんてこともあるのです。

 だから雨は、人に嘘をつかせるのです。



 嘘が許されることだなんて、思っていませんよ。

 でも、嘘によって得た束の間の幸福は、嘘をつくことの罪悪感をあっさりと上回ってあまりあることだと、つい知ってしまったのです。

 恋は、嘘をつくには十分すぎる理由となります。


 だからこれからも私は、雨が降るたびに嘘をつきます。


 この嘘がやがて、嘘の必要ない、真実の愛やら恋やら、そういうものに変わる日をもたらしてくれると祈りながら。

 ずるい考えだけど、自分のそういうずるさ、嫌いじゃないんですよね。


 その日までしばしの雨宿りを、傘の下で、鼓動と体温を感じながら。

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